だってこの日は大事な日なんだもの。
「と、いうわけで今日はバレンタイン前日です」
勢いよく言葉を口にするのは天羽菜美で、目の前で聞いていた日野香穂子と冬海笙子はこくりと首を縦に振った。
飲みかけのグラスがかたりと小さく揺れる。
「女の子の大事な日、バレンタイン。ここで頑張らなきゃ女が廃るってもんだよね」
「・・・・・・そこまでは」
香穂子は苦笑いを浮かべながら天羽を見上げると、天羽は気にするそぶりもなく言葉を続けた。
「冬海ちゃんもこの間めでたく土浦くんとくっついたわけでしょ」
「あ、あの、その・・・・・・」
恥ずかしいのだろう、顔を真っ赤にして冬海は俯いてしまった。
土浦と想いを通わせたのはここ最近のこと。
周りから見てもわりとわかりやすかったのだが、ようやっとお互い気持ちを伝えたらしい。
「今や大学生になった火原先輩も、なんだかんだ言ってもてるじゃない」
「うっ!」
言葉に詰まった香穂子は苦しそうに俯いた。
確かに大学生になった火原は高校の時よりも多分、もててる。
直に見たわけではないけれど、何となく周りの反応を見ていてもそう思える節があるのだ。
「だから、ここでチョコよ。バレンタインデーなのよ」
「そう言うけど、菜美はあげる人いるわけ?」
「私?」
「そう」
「まぁねー。いるっちゃいるよ」
「何、それって片想い?それとも両想い?」
身を乗り出して尋ねる香穂子に「内緒」と一言だけ告げる。
「何それ、私たちのは知ってて、菜美のは教えてくれないってわけ?」
口を尖らせる香穂子に天羽はそうじゃなくて、と呟いた。
「言えるようになったら言うから。それまで待っててよ」
天羽の答えに首を傾げながらも香穂子は「わかった」と答える。
香穂子の答えと同時に天羽は袋の中に入っていたあるものを取り出した。
どん、と勢いよく置かれたそれは何かの材料らしい。
「これで、何やるわけ?」
「ふふん。普通のチョコじゃ面白くないじゃない。だから、手作りで作ろうと思うわけよ」
「で、何を?」
『ブラウニー』
天羽の言葉は簡潔すぎた。
香穂子も冬海も瞬きを繰り返して天羽を見つめる。
天羽の瞳はやる気に満ち溢れ、これはもう断れないと二人は悟ると首を縦に振って答えるしかなかった。
甘い香りがキッチンを埋め尽くす。
ブラウニーを作るため、天羽の家で三人は材料を取り出して取り掛かった。
案外難しくないことを知った香穂子と冬海は着々と作業を進める。
時折会話に花を咲かせながら、何とかそれは形になった。
「よーっしできた!」
うん、と頷いて三人は満足そうに微笑む。
残るは飾り付けのみだ。かわいらしいものから、シックなものまで天羽が取り揃えていたことに香穂子も冬海も驚き、
そんな二人の驚きを他所に天羽はラッピング作業に取り掛かっていた。
「あ、菜美はシックな感じにするんだね」
「うん。かわいいのあげても似合わないもんなぁ」
「ふーん。なるほど、菜美の好きな人はそういう人なんだ」
「あ、冬海ちゃんはグリーンで統一するんだね」
香穂子の話を逸らして天羽は冬海に尋ねると「似合うかなって思って」と答える。
はにかんだ冬海の表情はどことなく幸せいっぱいで。
「香穂先輩は、オレンジ色をベースにするんですね」
「和樹先輩、明るい色が似合うから」
香穂子にとっての太陽、それが火原和樹という大好きな人だった。
それぞれの想いを詰め込んでラッピングを済ませると、一言メッセージを添えるためにカードを取り出す。
三人とも想いを綴り、できあがったそれを見て満足していた。
「喜んでくれるかなぁ」
「きっと、大丈夫です」
「そうだよー。二人とも明日約束してるんでしょ?」
「うん。笙子ちゃんも?」
「はい。菜美先輩は約束しているんですか?」
「私?残念ながら約束してないんだよねぇ」
あははと苦笑いを浮かべて答える天羽に香穂子は尋ねる。
「じゃあつかまえるの大変じゃない?」
「いるとこはわかってるから平気」
「ふーん」
そんなもんか、と香穂子は口をへの字に曲げて呟いた。
「明日、お互い頑張ろうね」
天羽は笑って二人へ双眸を向ける。
香穂子も冬海もうん、と頷いて微笑んだ。
明日は女の子の大事な日。
ありったけの勇気を、あなたに―――。
さて、あなたはどのカップリングの行方が気になる?
→火原×日野
→土浦×冬海
→金澤×天羽