好きだから、伝えたいから、だから。
きっとあなたは喜んでくれるかしら?
いつも緊張してしまう待ち合わせ、ドキドキと鳴り響く心臓を押さえて冬海笙子は辺りを見回した。
少しだけ早くついてしまった待ち合わせ。
いつもよりも緊張の色が濃いのは鞄の中に入れたそれがあるから。
「悪い、冬海!」
「土浦先輩」
駆け寄る土浦に冬海は首を横に振って答え、「大丈夫です」と呟いた。
そんな冬海を愛おしいと言わんばかりに土浦の目が細くなると、ぽん、と頭に手を置く。
「土浦先輩?」
「寒くなかったか?」
「いいえ。大丈夫です」
頬を赤らめて冬海は微笑むと、土浦は冬海の頬に触れる。
冷たいと感じて土浦は眉を下げた。
「どこに行く?コンサートまでまだ時間があるだろ」
今日がバレンタインだからとかそう言う理由で待ち合わせたわけではなく、
たまたま今日あるコンサートのチケットが当たったから、と言う理由で冬海は土浦と出かけることになった。
もともとそういったことを恥ずかしがる傾向にある土浦にとってコンサートとかは良い話の口実かもしれない。
「あの、その前にこれ・・・・・・っ」
冬海は鞄の中から小さな包みを取り出して土浦の前に差し出した。
土浦は瞬きを繰り返してその包みと冬海を交互に見遣る。
「これって・・・・・・」
「バレンタイン、です」
「ああ、そうか。どうりで店が賑やかなわけだ」
納得したと首を縦に振って包みを受け取ると「開けていいか」と冬海へ尋ねた。
こくりと首を縦に振って冬海は答え、土浦は包みを開けるとそこにあったのはチョコブラウニーだった。
「これ、手作りなのか?」
「あ、はい。皆でつくろうって話をしてて」
「天羽と日野だな」
くくっと土浦は苦笑いを浮かべて一切れ口の中へと運ぶ。
甘さ控えめのブラウニーが口の中でハーモニーを奏で、うん、と土浦は頷いた。
「美味いな、これ」
「本当ですか?」
不安そうな眼差しを向けていた冬海の表情が急に明るくなり、ほっとしたのか肩を撫で下ろした。ころころと変わる表情に土浦は表情をやわらかくする。
そして添えられていたカードに土浦の目が細くなった。
『好きです』
きっと悩んで悩んだ結果の言葉だったことは容易に想像つく。
カードをはさめていたことを忘れていたのだろう、土浦がカードを見せながら「サンキュー」って言葉を口にすると、冬海は急に青くなったり赤くなったりとわたわたと慌て始めた。
「あ、あの、私・・・・・・っ!」
小動物がおろおろしているようで、土浦は頭を軽く撫でることで落ち着かせようとする。
はっとして冬海は土浦の顔を見つめると、土浦は小さく笑って肩を透かした。
「いいか、俺はこういうイベントが苦手だ」
「は、はい」
「でも、別に嫌いなわけじゃない」
「はい」
「だから一度しか言わないからな」
「土浦先輩、それって・・・・・・」
どういう意味ですか、と問いかけた言葉は言葉に飲み込まれる。
『俺は冬海のことが好きだ』
だから、ありがとうと言葉に滲ませて土浦は耳元で囁いた。
数回繰り返した瞬きも、じわりと広がるあたたかな気持ちに冬海は泣きそうになる。
でも、冬海は泣かなかった。
「私も、好きです」
この人だから、惹かれた。
そしてこれからも。
あなたの傍にずっといたい。
その想いは言葉と共に強くなってゆく。
終