ハッピーハッピーバレンタイン!


言えないなら、書くしかないじゃない。






「さてと、探しますか」

天羽菜美にとってのバレンタインは、まずその人を探すことから始まるのだった。

「学校だからある程度見つかりやすいとは思うんだけど」

最初に見てみた職員室はいなくて、次に行った音楽準備室もまたいない。
そうなると校舎裏手にあるベンチのところだろうかと思い、天羽は足を運んだ。
その人は案の定そこにいて。


「金やん」


愛称で呼ぶと、気づいたのか「天羽」と名前を呟く。

「お前、何でここにいるんだ?」

その人が問うた言葉に天羽は笑って答える。

「今日は何の日だ」

「今日か?」

「うん。今日」

わくわく、ドキドキと瞳を輝かせて天羽は答えを待った。
だが一向に答えはその人の口から綴られることはなく。

「何かあったけ?」とのんびりとした口調で答えるのみ。

「あー、もう、やっぱりそんな答えかぁ」

がっくりと肩を落として呟く天羽に金やんこと金澤は苦笑いを浮かべて言葉を口にした。

「わかってるよ。今日はバレンタインだろ」

何気なく答えた金澤に天羽は顔を上げて金澤の双眸を見つめると「わかってたの」と口を開いた。

「昨日、結構渡してる奴多かっただろうが。当日渡せないからってことなんだろうけど」

「まぁ、確かに昨日は多かったかも。でも今日あげるから良いのにね」

「で、そんな天羽がなんでここにいるんだ?今日は休みだろ」

「もちろん、金やんにバレンタインデーのチョコを渡しに決まってるじゃない」

何言ってるの、と言わんばかりに天羽が答えると金澤は苦笑いを浮かべる。

「だから、これ」

小さな包みをバッグの中から取り出すとはい、と天羽は金澤の前に差し出した。
ブラックの包みに入ったそれを金澤は受け取るとぴり、と言う音と共に包みを解いた。
箱の中から現れたそれにへぇ、と金澤は呟く。

「何、意外だった?」

「まさか手作りだと思わなかっただけだよ」

「ちゃんと手作りって言ったじゃん」

遡ること一週間前、天羽は唐突に「金やんにバレンタインチョコあげるよ」と言った。
いきなり言われたことで金澤は思わず飲んでいたコーヒーを詰まらせた。
何をいきなりと言ったものの、天羽は気にすることなく言葉を続けた。

『手作りで作ってくるよ。楽しみにしてて』

まぁ、期待しないで待っておくよと言って金澤は一言言い置くと天羽は笑っていた。
それが一週間前の昼休みのことだ。
まさか本当に貰えると思っていなかった金澤は包みから見え隠れするそれを口にした。
チョコレートブラウニーがふわりと金澤の口の中で広がる。

「ふーん。天羽が作った割には美味しいな」

「私が作った割にはって言うのは余計。私だってそれぐらいできるよ」

口を尖らせて天羽が答えるとごめんごめんと金澤は答える。
そして見つけてしまったカードに金澤は目を見開いた。
ただ一言、シンプルに書き添えられているカード。

『好き』

短い言葉なのに、どうしてこんなに心が揺れるのか。

「あ、見つかっちゃった」

「見つかっちゃったって・・・・・・」

カードに気づいた金澤に天羽は悪びれもせず笑って言う。

「言っちゃいけないなら、書けばいいって思ったの」

「天羽」

「私が卒業するその日に返事ちょうだい」

あ、もちろんホワイトデー楽しみにしてるから。
それだけ言い伝えると天羽は踵を返して金澤から離れる。
教師と生徒、誰がどう言おうと本当の気持ちを言ってはいけない関係だから。
だから天羽は簡潔にカードに書き記した。
答えを聴くのが怖いのもある、振られることも覚悟してる。
でも伝えないのはやっぱり嫌だって思ってから。
だから天羽は後悔しないために言葉を綴った。

「やっぱり緊張するなぁ」

苦笑いを浮かべて青い空を仰ぐ。
今頃金澤は何を考えているんだろう、そう思ったら少しだけ泣きそうになって天羽は空を睨みつけた。
伝わればいいな、そう思って天羽は再び勢いよく走り出した。
一方で、残されたこの人は。



「不意打ちだろ」

はぁ、と小さくため息を吐いて金澤は頭を抱える。
予想外もいいところだった。
今日は土曜日で学校も休みだから貰えるとは考えていなかったのだ。
そしてこんなに真っ直ぐに言葉をぶつけてくるとは思ってもいなかった。

「勘弁してくれよ」

自分よりもひとまわり以上年下の少女に心を動かされるなんて。

「参ったなぁ」

だけど、思ったよりも困ったと思っていない自分がいることに小さく笑っていた。
いつの間にか自分の心の奥に住み着いてしまったと言うのか。
あの痛かった失恋を超えられる存在に出会えるなんて思っていなくて、金澤はただただ呆れ気味にため息を吐いた。
あたたかな風が吹き、金澤は微笑む。
もうすぐで春が訪れる、そんな風が吹いていた昼下がり。
少女の真っ直ぐさと強さにただただ感服するしかない金澤は、くせっ毛の髪の毛を揺らして青を仰いでいた。

まっすぐな想いは頑なな気持ちを溶かし。
そしてゆっくりと時を動かし始めていた、そんなバレンタインの日の出来事。






*あとがき*
最後に金澤×天羽編です。この二人が一番めんどかった!(ひど)
天羽ちゃんが卒業まであと二週間ほど、だからあと少しでちゃんと言える。
そんな揺れ動く天羽ちゃんの気持ちと金やんの気持ちを書いてみたり。
何となく、あまのじゃくな恋にちょっとにてるかも。
この微妙な距離感大好きです。だから金天かいてて楽しいんですけど(爆笑)。
楽しんでもらえれば嬉しいなと思います。読んで頂きありがとうございました!