願いの後先(9)


























「アスラン?」
「ごめん、ミリィと話し込んでるみたいだっておばさんが言ってたんだけど、上がらせてもらった」
そう言うと開けたドアを閉める。
「悪いってわかってたけど、黙って立ち聞きさせてもらったから」
「…………アスラン」
「ごめん。でも、キラ、様子おかしかったから気になったんだ」
一つため息をつくとアスランも座りなよと促した。ミリィの隣に腰掛ける。
「それに伝言」
「伝言?」
「カガリが、キラに。明日家に行くからな、だって」
「………カガリも、アスランも……心配性なんだから……」
「それは昔からそうだったと思うけど」
「……そうだったね」
また一つため息をつく。
少し夕陽が自分の部屋の窓から差し込めていた。
時間はいつの間にか過ぎてゆく。
「……キラは、ラクスを大事に思うからこそ、恐いんだろ?」
じっと僕を見据えた瞳はいつにもまして迫力があった。
「実際ラクスと離れてるから、だから―――」
「………そう、だよ」
「キラ………」
ミリィの弱々しい声が聞こえてきた。
「またフレイのことを繰り返したら嫌だって、その不安はいつもつきまとってくるんだ」
「だからこそ、守るんじゃないのか?」
アスランは静かにそう答える。
「ラクスが大事なら、自分のできる範囲で守ろうって……」
「何度も思ったよ!」
アスランの言葉を制すとはっきりと言い放った。ひゅっとアスランの息が止まる。
「でも……」
自分でなんて言って良いのかわからず、言葉を濁した。
「……わかってるんだろ?」
「え?」
「そう言いながらもわかってるんだろ?本当は」


何をすべきかって。


どうしなきゃいけないかって。


自分の想いの先も、全部、わかってるんだろ?



見なきゃいけないのは過去ではなくて未来だって。




静かな声でアスランは呟いた。その言葉はすうっと自分の中へと侵入してくる。
広がる想いは戸惑いの色を示すだけだったのに。
今は――――。

「キラ、大丈夫だから」
ミリィが小さな声で呟いた。
「その想いは揺るぎないものでしょう?」
「ミリィ………」
「その想いを大事にしているのでしょう?」
だったら、大丈夫だよ。
ミリィの顔が夕陽に染められ、アスランの顔も少し影がはっきりと映し出されていた。
光の加減が少し変化していたのを示す。
「ラクスは、一度臆病になるとなかなか外へ出られないんだよ」
くすっと笑ってアスランは言った。かつての婚約者と過ごした日々がそれを物語っているのだろうか。
「俺とおんなじなんだ」



だから、会いに行って来いよ。



ラクスに、今の想いを告げて来い。




もう、そろそろ。




――――――歩き出そう?



ぽんと背中を押すように、アスランの言葉が促す。
もう、夜は訪れようとしているのを朱から移り変わる色がそう指し示すように。
自分の中で何かが弾かれたように感じていた。




そうしてふっと意識を元に戻した。こくりと鳴る喉にあたたかいココアが染み込んだ。
アスランもミリィもそろそろ時間だからと言って部屋を後にしてから30分近く。
色々と考えながらもう夕闇が近づいているそんな朱い色を示す空を眺める。
自分の答えは決まってる。
あの時、アスランの言った言葉からはっきりとわかった自分の想い。
ラクスが大事で仕方ないから。
もう、後悔しないために………。
そっと机の上に置いてあったケータイを取ると、番号を押した。
双子の姉の元へと。
多分自分よりも先に会うのは彼女だから。
プルルルと受話器の奥が鳴り響くのを自分の耳の鼓膜が感じ取る。
プッと繋がると「はい、もしもし?」と元気のいい姉の声。
「あ、カガリ?あのさ、ちょっとお願いなんだけど……」
願いを届けて欲しいと。
そう願いながらしゃべる口は少し違った緊張感が走る。
どうか、きっと…………。
願わずにいられないのは、自分が臆病だからだとわかったから。
そう、思う―――――。