願いの後先(10)
久しぶりに降り立つ地球には、少し熱さを感じると共に、草の匂いが鼻を掠める。
緑の匂い。さあっと通り抜ける風がそう指し示すように。
「ラクス」
背後から言葉を投げかけてきたのは同じく同乗していたディアッカだった。
「ディアッカ……」
「キラに会って来いよ」
「え?」
「何があったか知らないけど、逃げるなよ」
「………」
ある意味絶句してしまったというか、なぜわかったのだろうと脳裏に巡らしていた。
「不安な気持ち、キラにぶつけて来いよ」
「でも……」
「俺にはわかんないけどさ。なんとなくわかるんだけどよねぇ」
「?」
「ミリアリアがそうだから」
きっぱりと告げられる名に、ディアッカもまた苦労してるのかなと思う。
「そう、ですか……」
「うん、そう」
にやっと笑ってディアッカはふっと真面目な顔になった。
「いい歌歌ってくれよ」
それが指し示すのは――――。
「はい」
そう言ってディアッカは歩き始める。残された私ははぁっとため息をついた。
そんなに顔に出ているのかしら?
ぺたぺたと顔を触っていると見覚えのある金色の頭が見えた。
と、同時にパタパタと勢いのいい足音が近づく。
正装の軍服姿のカガリがこちらに向かって走って来たのだった。
「カガリ」
「ラクスっ!」
そう言って抱きついてくるカガリを受け止めた。
「久しぶりだな」
「ええ、カガリも相変わらず忙しそうですのね」
くすっと笑って言うとカガリは白い歯を見せる。
「まぁ、忙しいっちゃあ忙しいか。仕方ないさ。それより、予定よりも一日早く着いたな」
「ええ。意外と準備が思ったよりも早く終わりまして。どうせだったらと思ったからなのですけれど」
「そっか。明日って聞いてたのに。さっき着いたって言われてびっくりしたよ」
くすくすと屈託のない笑みを浮かべながらカガリは言う。その笑顔は自分の想い人を思い出させた。
二人は瓜二つ――双子なのだから。
「キラ、は元気ですか?」
少し遠慮がちに彼の名を挙げる。カガリの笑みがふっと消えたと同時に真面目な顔になる。
「……あぁ、まあな。………ラクス」
「はい?」
自分の名を呼び止めるとそっと近づきこう言った。
「キラのこと、好きか?」
そっと呟かれたからこそ、自分の耳に鮮明に残る。
ひゅっと息が止まった。
自分の想いは。
きっと――――。
「ええ、好きですわ」
大事な人ですからと付け加えて、にっこりと笑う。
まだ、自分には余裕があることをこの時初めて知った。
「そっか、だったらいい」
そう言ってカガリもまた笑みを浮かべた。
その言葉を告げるのには勇気がいるらしい。
少し早まる鼓動に苦笑いしながら、カガリと共に歩き始めた。
そうして、意を決して言おうとしたところで、カガリはこう言った。
「夜にキラが行くからだって」
「え?」
予想もしなかった言葉に目を見開くのと同時に、何かが動き出していることを悟った。
「だから部屋にいてくれだって」
しばし沈黙をした後に、言葉を返す。
「わかりました」
そうきっぱりと言い放った言葉には、迷いは少しも感じなかった。
たぶん。
きっと。
大丈夫だから。
「ラクス、ありがとな」
カガリはそう言うと目を細めてビルの外の夕陽をじっと見つめていた。
白い軍服が朱に染まるのを眺めつつ――――。
時は動くもの。
止まるのは過去だけだから。
自分は歩いている。
未来へと向かって。
だから、きっと。
―――――大丈夫。