願いの後先(7)


















ピンポーンと鳴るチャイムの音ではっと気づく。
あれ、僕――――。
仕事している最中に寝てしまっていたことに気づいたのは、目の前のパソコンがスクリーンセーバーを起動させていたせいでもある。
少し寝汗をかいていた。いつも暑い地域なのだが、今日は更に気温が高いらしい。
スクリーンセーバーが解除されたパソコンに表示された気温がそれを指し示す。
「キーラー。お客さんよー」
突然自分の名を呼ぶ母の声が聞こえ、言葉を返した。
「だーれー?」
「ミリアリアちゃんよー」
「わかったー。すぐいく」

ミリィが?

どうしたというのだろうか?


漠然とした疑問を抱きながらとりあえず椅子から腰を上げ、自分の部屋を後にした。




「よっ!元気してる?」

ソファに座るミリィの姿を確認すると「うん、ミリィは?」と尋ねる。
「うん。やっぱり教授は相変わらずこき使うわよー。トールやキラの苦労がよくわかるって感じ」
あはははと笑いながらミリィは大学の様子を話し始めた。
「そっかぁ。相変わらずなんだね、カトウ先生。あの頃はよくトールと僕がこき使われてたもん」
「だよね。そのおかげでよくデートの時間が半減されたけど」
「そうだったね」
くすくすと笑いながらミリィを見るとははっと笑っていた顔がだんだん真剣な顔に変わっていく。
「ミリィ?」
真面目な顔をしたまま視線はずっと遠くにあるように話し始めた。


「もう、あれから5年よ……トールがいなくなってから、もう、5年……」


「うん……」


鈍い痛みがちくりと胸の中で疼く。
「やっぱり私はトールが好きなんだけどね、最近わかったことあるの」
顔を少しだけ俯かせて、ミリィはなおも言葉を続ける。
「少しずつ気持ちが変化してるんだ。最近特にわかる。トールのことも好きなことには変わりはないんだけど。でも、私の中にね、もう一人いるのよ」
「ミリィ……それって……」
僕の言葉を制するようにミリィの言葉は更に接ぐ。
「うん。トールのことは一生忘れない、それは真実。私の中にトールはいるの。私が忘れさえしなければトールはいるわ。ココに」
トントンと胸を親指を指して言う。
ミリィ………。
「でもね、わかっちゃったの。決して同じ次元ではないのだけどトールはトールで好きだってこと認めてくれてるから。
アイツ、優しいんだもん。私が何言っても、どんなことしても黙ってみていてくれるの。落ち着くまで付き合ってくれる。
それでも、別の意味で一番ならいいって……ずるいよ、そんなこと言われたらどうしてもぐらつくじゃない」
ミリィの瞳から光るものが見えた。
「いつもずるいのよ。笑いながら私のこと待ってるってそう顔に書いてあるんだもん。その度に何も言えなくなる」
一度こう言ったことがあった。



「私はトールのことが好きだもん。ずっとこれだけは変わらないわ」
夕暮れの別れの時、彼にそう言葉を突きつけた。
酷い奴だってわかってるけどどうしようもなかった。
「いいよ。それでも。トールの次に好きとか言われるよりはマシ。……ただな、別の意味で、同じくらい好きになってくれたら嬉しい、それだけなんだ」
「ディアッカ……」
「今すぐじゃなくても、いつかでいいんだ。ってそんな顔するなよ」
ディアッカは慌てて言葉を接いだ。
「うるさい。アンタが悪いんでしょ」
そう言ってディアッカの腕を叩く。
「ったく敵わないなぁ〜」
苦笑いしながらそういうディアッカの顔を見て、また何も言えなかった。




「寂しい時も、どうしようもなく誰かにいて欲しい時、いつも傍にいてくれた。感謝しても足りないくらい」
くすっと笑って、瞳から一つ零れ落ちるそれが。
「トールは忘れない。私の中にいるから。でもね、アイツのことも、―――ディアッカのことも好きな自分をようやく受け入れそうなの」
「ミリィ………」
やっと、わかったんだ。
そう言うミリィの横顔が何だか頼もしく見えた。
もう、前を見て歩けるわ。
見据える先にミリィはどんな未来を描いてるのだろうか。
「やだ、そんな顔しないでよ。今度こそちゃんと素直になれそうなんだ」
ぐいっと涙を拭き取るとミリィはまっすぐと自分を見つめて、こう言った。



「多分、キラはわかってると思うの。私の言いたいことも」



だから、言うね。



「キラは、今、誰を見てるの――――?」