願いの後先 4
「あれ?ラクスじゃん」
その一言にピンクの髪の少女は声の主の方へと身体を向き直した。
「あら、ディアッカ……」
褐色の肌の持ち主である、ディアッカ・エルスマンは地球行きの専用機にプラントいや、宇宙の歌姫が乗っていることに気づいた。
「と、イザーク」
「『と』は余計だ、『と』は」
銀髪をさらりと流すと、一言文句をつけた。
「どうしましたの?」
あらあらと一言付け加えながら二人に問う。
「俺ら?あぁ、地球に行くの。まぁ、遊び半分、仕事半分」
「貴様と一緒にするな、私は仕事だ!」
と、まぁ相変わらずの挨拶ぶりの二人である。この二人も今じゃプラントの担い手だ。
イザークの方は評議会の一員となっていたし、ディアッカの方はと言うと、技術者として働いている。
父の後を継ぐかと思えば、「俺はそんなかたっくるしいのはごめんだっつーの」と言葉を漏らしていたのをラクスは脳裏に思い起こしていた。
「ラクスは、式典で歌うんだろ?」
ディアッカはラクスに問うと「ええ」とにっこり微笑んだ。プラントの歌姫たる所以の一つだ。
そもそもこの三人は先の戦争で戦った仲間でもある。
イザークは最後までザフト側だったが、途中からディアッカを助けていた。
それからと言うもの、一緒に戦った仲間であるアスラン以外は皆プラントへと戻り、復興作業に携わっていた。
また年齢も近いせいや、よくばったり出くわすことから互いの名前を呼び合う仲になったのである。
「ディアッカは仕事もそうでしょうけど、やっぱりお目当ては彼女ですわね」
くすくすと声を立てて笑うあたり、普通の女性となんら変わりはない。
彼女はステージに立てば歌姫であるし、またしゃべるとなればかなりの饒舌でもあった。
「まぁね、彼女…とまではいかないのがちょっと悲しいけど」
「全く、貴様は何しに行くんだ……」
ぶつぶつ言いながら、イザークはディアッカに抗議するがディアッカはそんなことお構いなしだった。
彼女――先の戦争で知り合ったミリアリア・ハウという少女は明るくて良い人だとラクスは思う。
キラの親友の一人だったトールと言う少年の彼女だったのだが、戦争にて戦死したと聞いている。
その時、ディアッカと知り合い、最初は反発していたものの、今では仲の良い友達なのだと言っていた。
彼が亡くなってからもう5年、ミリアリアの中で少しずつ変化があるのだとずっと前キラが言ってたなと記憶の片隅で思った。
「ラクスは、キラと会うんじゃないの?」
突然その一言でラクスは現実へと引き戻された。
「あ、え……」
ラクスはその問いに、視線を逡巡させる。
「その分だと約束してないわけ?珍しいなぁ〜」
「今回は会えるかわからなかったので……」
「あれ?自由行動ないの?」
「まだ、未定ですわ……」
「ふぅん」
ディアッカは何か言いたそうにしていたが、ラクスはその視線を直視することなく逸らした。
自分の中での変化に、自分自身戸惑っているというのに。
キラに会いたい。
これは紛れもなく本音。
でも、もうひとつの感情がある。
会えば、また別れるのが淋しくて、辛くなるに決まっている。
ずっと傍にいることなんてありえない。
私にだって、キラにだって仕事がある。
もう、自分達は大人だ。
我侭を言って通る、そんな年齢でもなくなってしまった。
会えば、絶対にもう離せない。
その温もりが欲しくて、たまらなくなる。
それに、キラは私のことをどう思っているのか。
それすら、わからない―――……。
自分の奥底で広がる不安が、じわりと侵食し始める。
だから、今回は伝えていない。
むしろ、もう会うのかさえもわからない。
ただ広がる不安に押しつぶされないよう、懸命に笑顔を作って、答えていた。