願いの後先(3)
少しばかりの陽気が汗を滲ませる。
暑いなと思いながら、窓を閉めた。
「キラー。お茶入ったから一回休憩にしない?」
母の声が遠くから響く。
「わかったー。今行く」
そう言って、目の前のパソコンをログオフにして、リビングへと向かった。
目の前に母が淹れてくれた紅茶を一つ口をつける。
飲みながら昨日の出来事が脳裏に過ぎり、一つため息をついた。
ラクスが、今日来る……。
いつもの彼女なら一言言ってくれていた、今日来ると言う事実を。
でも、なぜ彼女は何も言ってくれなかったのだろうか。
そして、どうして自分はこんなにも動揺してくれているのだろうか。
何で、僕は………
「キラ?」
母が訝しげな顔をして僕の顔を覗き込んだ。
「何?」
「ううん、何でもないわ。じっと真剣な目で見てるんだもの」
びっくりしちゃったわと母は言う。
そんなに真剣な顔してたかなぁとぼんやりと思いながら、視線は窓の外へと移される。
外はまぶしいくらいの日差しがカーテンの隙間から見える。
快晴――雲ひとつない、と言っても良いくらいの天気。
ここ、オーブの気候はそんなもんかと一人ごちた。
自分の気持ちとは裏腹に明るいそんな天気に、一つため息をつきながらこの国に着いてるであろう彼女のことを思って、また再度目を閉じるのだった。
場所は変わり、オーブの首都の一角。
ここにキラの親友であるアスランと、キラの双子の片割れであるカガリがランチを取っていた。
先ほどまで終戦5周年の式典準備に取り掛かっていた。
でも、作業は中断され、午後から来訪予定である彼女を迎える準備をする前に昼食を取って来いとキサカに言われたために今ここにいる。
「なぁ、キラの様子おかしくなかったか?」
カガリは口に運んだカレーを飲み込むと、アスランに尋ねた。
「まぁな、俺もそう思う」
彼はいつも簡潔に述べる。少し物足りないけれど、でも問えば返ってくる分だけいいのだけど。
オムライスにスプーンを入れ、崩しながら彼は口に運ぶ…と、途中でその動作は止まった。
「もしかして、キラ、知らなかったんじゃないか?」
「何が?」
「ラクスが来るってこと」
アスランはごく真面目に言うと、止まっていた手を再び動かし始めた。
「あ」
カガリは一言発すると昨日のキラの様子を思い出し、ややおかしいなと思った表情を思い出した。
そうだ、私が言ったときに瞳に動揺が走ったのを私は確かに見逃さなかった。
「いつもなら、知ってるよの一言くらい言うけど、昨日は言わなかっただろ」
「そう言えばそうだな」
カガリは頭を縦に振ると納得していた。
「あの二人、何かあったのか?」
カガリは再度アスランに尋ねる。アスランは、カガリの問いにしばし視線を宙に泳がせていた。
そんなこと、わかるもんか。
でも何となく気になる。
「…何かってほどの何かではないような気がする……」
アスランはその一言を最後に、目の前のオムライスに専念する。
カガリもまた、カレーライスに専念しつつ双子の片割れとプラントの歌姫を思っていた。
何かが少しずつ変わってきた、そんな季節。
それぞれの想いはどことなく動き始め、また歯車も微妙に形を変えつつあることを誰も知る由がなかった――――。