彼方に眠る記憶―― 2.記憶の断片
確かにその女の子はじっとその花を見ていた。
「キラ?」
はっとして顔を上げるとラクスがそこに立っていることを確認する。
「いや、何でもない」
そう頭を振って答えると、その白い肌が自分の頬に触れた。
「少し、汗をかいてますわ?」
そう言って微笑んで、ポケットに入れていたハンカチを取り出す。
拭われた汗のあとが風にあたって涼しかった。
「なんだろ、擦れてる・・・・・・」
呟く言葉は無意識のうちに口をついて出ていた。
「キラ?」
ラクスは訝しげな瞳を向けると、その顔を自分の胸に押し付ける。
「ラクス?」
ラクスの取った行動に思わず驚いて目を見開いた。
こんなこと今までだって一度もない。
心臓が、囚われるような錯覚さえ覚える。
ラクスはしばらく黙った後に小さな声で呟いた。
「・・・・・・ずるい、ですわ」
月にいた時、アスランや母とはぐれてしまって、半分泣きながらうろうろと歩いていた。
とあるショッピングセンターからすぐのところの公園の中に自分の姿はあった。
月の中では大きな公園。
花もたくさんあって、緑もたくさんあった。
「おかあさーん・・・・アスラーン・・・・・・」
みんな、どこ?
そう言いながら歩いていると大きな花の前に髪の毛の長い子がじっと黙っていたのを覚えている。
見たことない子だなぁ、そう思って泣きながらその女の子の近くまで歩み寄った。
ぐすっと鼻を鳴らして、その女の子の隣に立つ。
「・・・・・・・・・なに、やってるの?」
「お花を見ているのですわ」
そう言ってその子はふわりと笑った。
その笑顔に思わず言葉を無くしたのを覚えている。
「めずらしいものでもなんでもないよ?」
「でも、きれいでしょう?」
「そうだけど・・・・・・」
よっぽど間抜けな顔をしていたのかもしれない。
その子はくすっと笑って、自分の方へと振り向くとそっとその線をなぞる。
「まいご、ですか?」
突然現実が降りかかる。
自分の位置をはっきりと示された。
そうだった、自分は母とアスランを探しているんだった。
二人ともいない。
それがひどく心を淋しくさせた。
「アスラン・・・・・・おかあさん・・・・・・」
ぐすっとまた止まっていたはずの涙がこぼれてきた。
「大丈夫ですわ。私がいます」
『大丈夫ですわ、私はここで待っています』
声が重なったような気がした。
戦場を駆け抜けていた時のこと、ラクスに言われたその言葉が。
不意にあの時の言葉と重なる。
「ラ・・・・・・クス・・・・・・?」
重なる言葉と、ぼやけた先に映るその少女と。
今ここにいる彼女と。
「キラ・・・・・・?」
呟きに反応したのか、ラクスが顔を上げる。
心配そうな瞳で見つめて、その青が揺れている。
「どうしたのですか?」
『どうしたのですか?泣いていても始まりませんわ』
少女はそう言って自分の手を取るとすたすたとその場を後にした。
その少女はじっと前を見据えて歩く。
それがどれだけたくましく、心の支えとなったか。
「アスランと・・・お母さんは、見つかる?」
「ええ、きっと見つかりますわ」
だから行きましょう?
促されるままその歩みを進め、公園の前にある駐在所へと着いた。
「私は――――ですわ。この子は迷子みたいなのですが」
名前の部分はどうしても思い出せないけれど。
でもその手が温かかったことだけは覚えている。
しっかりと握りしめた手が優しかった。
それは、遠い過去の記憶、だった―――――。
*久しぶりの更新になります。
もしかすると次で終わるかも?
6月中にはこの話を終わらせたいなって思っています。
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