彼方に眠る記憶―― 1.呼び覚ますのは?
















遠く彼方に置いてしまった記憶の欠片。
それが何かの拍子で蘇ることがあると言う。
それは、自分にとっても例外ではなかった。





その子はね、泣きながら僕の手をぎゅっと握り締めてたんだよ。





そう微笑んでキラは話していた。
どこか頭の片隅に残るその言葉に何か疼くものを感じ、思わずぎゅっと瞳を閉じた。
別に何気ない話だったのに、どうして、こんなにも気になるのか。

「別に小さな頃の記憶じゃありませんか・・・・・・」

小さなため息を一つ吐くと、動かしていた手を止める。


どうして、なぜ?


問われる言葉に息を飲み込む。

一瞬だけど掠めた記憶の欠片はラクスの中からすうっと消えていった。


私は何を、知っているのだろうか――――?

















心地良さそうに日陰になっている樹の下で二人揃って腰を降ろした。
そよそよと流れる風にかすかな潮の香りが掠めるここは、オーブ首長国の中の一つの島。
戦争が終わり、傷を癒すために、自分を見つめるためにここに訪れた。
何よりもマルキオ導師の好意によるものが大半を占めるのだが。

「キラ、気持ちが良いですわね」

「・・・・・・うん。潮風が気持ち良いね」

「静かですのね、ここは」

「そうだね・・・・・・自然はいいね」

「ええ」

取り留めのない会話を繰り返す。
キラには今どんな風にここがその紫水晶の瞳の中に映されているのだろうか?
そんな問いを考えながら、キラの横顔を見つめた。
じーっと見つめていたからだろうか。
キラがこちらへと視線を移し、「どうしたの?」と尋ねる。
「何でもありませんわ」と答えると「そっか」とキラは答えた。




どれくらいの時が経ったのだろうか。
気づいたらうたた寝しているのに気づいて、はっと顔を上げ、見回す。

「あ、ラクス。起きた?」

くすっと笑ってキラは見つめる、その視線を私は横に逸らし、少し恥ずかしさを覚える。
寝顔を見られてしまいましたわ、と一人ごちた。

「どれくらい時間が経ったのですか?」

「んー・・・30分くらい?」

「まぁ、そんなに?」

「でも、それだけだよ?」

「その間、ずっとここにいてくださったのでしょう?・・・すみません」

「いいよ。ラクスだから、いいよ」

「キラ・・・・・・」

キラの優しいその一言に心の中が静かに満たされていく。
一つの言葉にこんなにも一喜一憂するのは、彼だけ。
キラだけ、だった。

「気持ち良さそうに寝てたし。起こすの悪いと思ったんだ。それに・・・・・・」

「それに?」

「きょとんとした顔で答えると、くすっと笑ってキラはこう言った。

「ラクスの寝顔、かわいかったよ」

「もう、キラ・・・・・・!意地悪・・・・・・」

「ふふっ。ラクス、敬語がなくなった」

「あ・・・・・・・・・」

「ラクスは丁寧に言葉をしゃべりすぎだよ。敬語ないってある意味嬉しいんだから」

「・・・・・・キラの前だけです」

「だよね。そうじゃないと、僕も困るし」

「え?」

今、何て?
そう尋ねようとしたところでキラはまた口を開く。

「ね、何か夢でも見てたの?」

急に話を振られて小首を傾げた。

「なぜですか?」

その問う真意を知りたいと思う。なぜ、そんなことを聞くのか。

「だって、何かすごくいい夢でもみてる気がしたんだけど・・・・・・」

気のせいだったかな?
そんな言葉を漂わせて、思い起こす記憶には何も夢を見ていなかったような気がすると言うコトだけしか思い出せなかった。

「いいえ・・・多分、見ていなかったかと・・・・・・」

「ふぅーん・・・そっか。いや、実はさ、今朝何か懐かしい夢を見ちゃって」

「懐かしい夢?」

「うん。まだ月にいた頃。アスランと知り合って間もなかった頃かなぁ・・・多分」

「では本当に小さな頃ですのね」

「うん。その時に会った女の子のことを思い出したんだ」

その頃のを思い出を思い出しているのか、少し表情が和らぐ。
ここに来てからのキラにしてはだいぶ和む顔をするようになったと思うが、今日の表情はまたいつになく緩い。
それが嬉しいから、話の続きを促した。

「女の子・・・・・・ですか」

「うん。女の子。かわいかったんだよ。ってほとんどおぼろげにしか覚えてないんだけどね」

苦笑いを浮かべながら話をするキラの表情が、見ていて嬉しかった。
楽しそうに、懐かしそうに話をする。
そんな顔に安堵を覚えるなんて、自分もどうかしてると思う。
でも、それが正直な気持ち。
嘘偽りのない気持ちだった。



その話が、方向を変えるなんて。
その時の自分には予想していなくて。

キラの中に眠る記憶が呼び覚ます。



そして、自分の中にも。





何か変化が訪れようとしていた―――――。











*また始まりました、連載物です。
と言っても、短いのですが(中編程度)
読んでる方には予想はつくかと思います。
いや、タイトルでもわかるだろって感じですが。
少しでもお付き合いいただけると嬉しいです♪