どうして上手くいかないんだろう。
どうして人はすれ違ってしまうんだろう。
ただ好きなだけなのに、どうして傷つけてしまうだろう。

愛しい、ただそれだけなのに。










でるのは歌 act.8













「アスラン」

カガリはその姿を確認すると「お疲れ様」と一言告げた。
アスランはじっとカガリを見つめ、カガリの腕を捕まえると抱き寄せた。

「アスラン・・・?」

「俺は、お前がいてくれて良かったよ・・・・・・」

「アスラン・・・・・・」

カガリはアスランの想いに気づいて、それ以上の言葉を言うことはなかった。
言葉を言う代わりにぎゅっと抱きしめ返す。アスランもまた抱きしめる腕を強くした。

「ただ、幸せになってほしいだけなんだ」

アスランの呟きにカガリは頷く。

「私もだ。キラもだが、ラクスにも幸せになってほしい」

不器用な二人を見てアスランもカガリもひどくもどかしく感じる。
幸せはその人自身が変わって、気づくしかない。
ラクスがキラのことを気にかけていたのは、カガリとて気づいていた。
だから二人を会わせたのだ。話をしている分にはとても仲良さそうに見えたからカガリも安心していた。
だが、数日前泣きそうな顔をして帰ってきた時のことを思い出すと、カガリの胸がつきんと痛む。
どうしたというのだろうか。
カガリはラクスに「どうした?」と尋ねてもなかなか口を割ってはくれなかった。
そうしてアスランからの話。キラとラクスの間であったこと。

「人は傷つけて癒して、そうして生きていくものだ」

「あぁ、そうだな」

「だから・・・・・・」

カガリの言葉にアスランは「うん」と頷く。いつだっていつもケンカしながらも一緒に歩んできた。
キラとラクスもそうなって欲しい、その想いだけだった。

「きっとキラは今一番迷ってる。フレイのこと、泣かせてしまったラクスのこと。どうすればいいのかわからないんだと思う」

アスランは逡巡していたキラの淡い紫水晶の瞳を思い出す。

「ラクスは亡くなった人のことを忘れたことはない。ちゃんとそうやって生きてける術を持ってる。
それをキラに伝えて欲しいって、私は思う」

「カガリ・・・・・・」

「そうだろ?」

「あぁ・・・・・・そうだな」

アスランはカガリを抱きしめながらキラのことを想う。
またカガリもアスランに抱きしめられながらラクスのことを想った。
どちらも不器用な二人のことを、泣かないですむようにと。
切なる願いは二人に届くのか否か、今の二人にはわからなかった。





『アヴェ・マリア、きれいだったよ』

キラがそう言ったのだと、アスランの口から聞いた時、心底嬉しかったのをラクスは忘れない。
フレイと言う人のキラへの想い、キラのフレイへの想い。
どちらもラクスにはわかりかねる。だが、想う気持ちは何となく分かるような気がした。

『ラクス、歌はね人々の心に深く染み入るのよ。それは素敵な手段なの。
いつか歌で幸せな世界がくるといいわね』

幼いラクスの耳に残るのは母の声。もう亡くなってから十年以上が経つ。
父は健在だが、仕事で忙しく家にはほとんどいない。ラクスが家を出たのと同時に宿舎に入ると言っていた。
だから、ここ一年近く父と会っていなかった。
淋しくないと言えば嘘になる。自分のことを想ってくれているのもわかる。母と同じくらい大事にしてくれているのもわかっていた。

『ラクス、もし大事な人ができたら父さんにも紹介してくれよ』

笑っていた父の笑顔が浮かんでは消えてゆく。ラクスが大事だと思う人たちは、皆遠くにいるのだ。
カガリとのルームシェアだっていつまで続くのかわからない。
少なくても大学生である間は一緒かもしれないが、卒業したら恐らくアスランと一緒になるだろう。
その時、ラクスはまた一人になる。
一人には慣れているつもりだった。だが、やはり淋しいものは淋しいのだ。

『触れないで』

キラのか細い声が耳から離れない。

『優しくしないで』

キラの拒絶。
きっとキラなりの強がりだったのかもしれない。ラクスはそんなことを思いながら旋律を奏でる。
アヴェ・マリアを口ずさんだ。
ラクスもこの曲が好きだった。よくコンサートでアンコールに歌う。
今度は、キラのために歌いたいとラクスは強く思っていた。それは同情でも何でもない。
ただ、キラのために歌いたい、好きだから歌いたいと願う想い。

そう思うことは迷惑なんだろうか。


ラクスは迷いながらもアヴェ・マリアを奏でた。
恋の歌の終焉はまだ見えない。




























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