出会った音は酷く切なかったのを覚えている。
けれど、再び出会った音は優しい音色だった。
この人に何がそうさせたのだろう、どうしてあの音色だったのだろう。
そう考えるだけで不思議なことばかりで、でも考えることは嫌ではなかった。
もう一度この音色を聴いてみたい、そう思ったからこの音に耳を傾ける。

その音色は切れ切れのガラスの欠片のように細くて、きれいだった。









でるのは歌 act.3









「・・・・・・キラ・・・・・・」

思わず幼馴染はその名を呼んで一つため息をした。
予想はしていたが、またかとソファに寝そべるキラと周りに散らばっている楽譜を見てはまたため息を漏らす。
めっぽう朝には弱いキラは朝からの仕事がある場合にだけ幼馴染に顔を出してもらうようにお願いしていた。

「おい、起きろ。キラ」

「・・・・・・うー・・・・・・アスラン?」

「ほら、キラ。さっさと起きないと時間なくなるぞ」

「今何時・・・・・・?」

「9時5分前。あと30分もすれば家を出る時間だろ」

「あ、うん。そう」

「朝飯作ってやるから、早く着替えて来い」

「はーい・・・・・・」

そう言って幼馴染――アスラン・ザラはキッチンへと入る。
反対にキラは着替えに部屋へと入っていった。

「まったく・・・・・・」

ため息をつきながらも、まだあの時よりもまともだなと思って冷蔵庫の中身を見つめていた。
卵を取り出し、作り置きしていた野菜のポトフを冷凍庫から出して鍋にかける。
シュンシュンと音の鳴る鍋の様子を見つめながらアスランは今から遡ること半年以上前のことを思い出していた。
そう、あれはキラにとって一番の辛い日々。
ご飯はほとんど口にせず、ひたすらピアノを奏でていた日々。
自分が悪いわけではなかったはずなのに、キラは自分自身を責めていた。

最愛の恋人が亡くなったその日から。

たまにその影を追うようにキラはピアノを引き続ける時がある。
それは決まって床に楽譜が散らばっている時だった。
またやったのかとアスランは眉間に皴を寄せるも、それ以上は何も言わない。
これ以上何を言っても多分キラの耳には届かないことをアスランは知っている。

せめて、せめてキラの殻を破ってくれる人間がいてくれたら、
そう願わずにいられないのは自分じゃ何もできないという、もどかしさを抱えているからなのかもしれない。
こんなことを考える時は恋人に酷く会いたいと願う。
ポケットに入れていたケータイを取り出して想い人であるカガリへとメールを送信した。




一人で何もできないわけではない。
でも、人が恋しい時もあって、だからこそ幼馴染に起こしてもらうように言っていた。

「僕もアスランも甘いよね」

ぽつりと呟く言葉に誰も答えるはずなどなく、ましてや一人暮らし、誰かいるわけでもない。
ぼんやりと考えながら服を着替えていると、傍にあった雑誌がぺらりとページを捲る。
一ページ捲られた先にあったのは一人の女性。

「あれ、この顔・・・・・・・・・」

どこかで見たことある、そう思いながらもどこで見たのか思い出せない。
記事のタイトルには『世界の歌姫、素顔を語る』とどこにでもありそうな文字。
ふぅんと口の中で呟くとはっとキラはもう一度その雑誌の記事を一瞥した。

この顔、どこかで。

見たことがあるはずだ。
スタジオの入り口で泣いていた少女。
ええっと、名前は何て言ったっけ。
キラの視線はその少女へと注がれ、そしてその写真の下に大きく記された名前を見遣る。

『ラクス・クライン』

あぁ、とキラは納得する。あの時道理でみたことがある顔だなぁと思ったのだ。
そうか、彼女かとキラは一人で納得していた。

それもそのはず。
彼女は世界的に有名な歌姫。若いながらにしてその歌の才は大変優れている。
若干18歳にして人々を魅了する歌声の持ち主。


『あなたの音色を聴いていたら、切なくて、それで・・・・・』


感受性の高い彼女なら納得もできるかとキラは一人ごちる。
まぁ、どちらにしても僕には関係ないか、そう小さく呟いて待っているであろう幼馴染のいるリビングへと踵を返した。
ただ少し気になっただけ。
それだけ。
キラは日差しが差し込む窓をカラカラと音を立てて開けた。
ふわり、風が舞いキラの茶色の細い髪の毛が揺れる。
ふと自分の目の前を赤い髪の毛が揺れたような気がした。
いるはずのない彼女の。

いつでもその声が聞こえてきそうで。


『キラ』


そう呼ぶ彼女の声が大好きだったから。


そうだね、僕にはいつも君が傍にいる。




そう、それは興味。
ちょっとだけ思ってしまったこと。


交わることなどない、点と線が確かにそこには存在していた。





















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