八番目の小夜子〜言霊伝ひ〜
4.サヨコの存在 1









『サヨコはいる』
『サヨコはいない』




信じるも信じないもその人次第なのだから。
あなたは信じますか?






梓はセーラー服の裾を翻して雑踏の中を歩く。
図書室の奥、それは司書室にあった一冊の本の中にあった。
短くしたためられた手紙、そこに記されていたのはサヨコの鍵となる言葉だった。

「先生、これ何ですか?」

図書室、片隅にある司書室で虫干し用の本を出していた時のこと。
図書委員である梓は古い本を取り出すとその中に挟まっていた、黄ばんだ手紙を取り出す。

「んー、何?」

「佐野先生、これですよ。この手紙っぽいの」

「小湊さん、それちょうだい」

「あ、はい」

糊のゆるくなった封筒はすぐにその封を切ることはできた。
佐野がぺり、と音を鳴らして封を開けるとそこにあるのは一枚の手紙。
四つ折の紙を開くとそこにかかれていた言葉に梓は目を瞠る。

『サヨコはいる』

「サヨコか・・・・・・懐かしいな」

ぽつりとこぼれた佐野の言葉に梓は驚いてまじまじと見つめた。

「先生はサヨコを知っているの?」

梓の問いに佐野の瞳は細くなり、小さく頷いた。

「ええ。私はこの学校出身であり、―――四番目のサヨコだったの」

瞬きを忘れた梓は佐野のちょうど良い心地の声音を耳に響かせたまま呆然と立っていた。
それがきっと始まりだったのだ。



梓は雑踏を掻き分けて商店街を潜り抜け、閑静な住宅街へと踏み入れる。
住宅街の一角。少し古びたマンションの前に着くと梓は近くにあるポールの上に腰掛けた。
腰を下ろして空を仰ぐ。少しばかり紅くなった空はどこか寂しく見えるな、と梓は思う。
空を仰いでいた瞳がゆっくりとまたマンションへと視線を向けた。
向けた視線はそのままで瞳は遠い日へと記憶を戻す。
それは図書室で見つけた手紙を見ていた時のこと。


「先生は四番目のサヨコ、だったんですか?」

「ええ。でもサヨコなんて嫌いだったわ。信じなかった」

「信じない? サヨコを?」

「そうよ」

くすくすと笑いながら言う。

「そんなもの信じるものかってそう思ってたの。そして私は卒業して行った。もちろん託す人も決めずにね」

「でも、サヨコは続いたんでしょう?」

「そう。サヨコは続いた。そして私は六番目の年に教育実習生としてこの学校に来たわ」

佐野も覚えているまっすぐな瞳。まっすぐな黒髪を一つに束ねた少女とおろしていた少女。
そしてその少女達の後ろにいた少年の姿。

「私がサヨコだったことはすぐ知られることになった。でも私は信じてないそういったわ」

くすくすと笑いながら佐野は言葉を続ける。
それは過去の記憶。あのまっすぐな瞳は忘れることはない。
佐野にはわかっていた、直感で六番目のサヨコの存在を。

「尋ねた子はあなたと同じくらいだったわね。一番最初に六番目のサヨコだと名乗ってきたのは」

「女の子だったんですか?」

きょとんと大きな瞳が佐野を捉える。佐野は頷いて言葉を継いだ。

「そう、でもちょっと違うかな。六番目のサヨコは複数いた」

皆私に打ち明けたのよ自分がサヨコだということを、と佐野は笑う。

「あなたはサヨコを知りたいの?」

佐野の問いに梓はこくりと首を縦に振る。真剣な瞳で梓は佐野を見つめていた。

「そう、じゃあ・・・・・・」




ここへ行ってみなさい、そう佐野が差し出したのは一つの紙。そこに記されたのは団地の住所。
佐野は卒業アルバムでまだあどけない少女の姿が載っている写真と紙を見せながらここへ行けと示した。
まだ住所は変わっていないはずなの、と佐野は言いながら梓の背中をぽん、と押した。
梓の性格はまっすぐで、興味のあることには何でも調べようとすることは佐野もわかっている。
だからこそ背中を押してくれたのだろうと言うことはわかっていたが、
どうして梓がこんなにサヨコを気にしているのか佐野にはわかっていたんだろうか。

梓が八番目のサヨコだということを。

梓は夕暮れ時の空を仰ぎながらその人を待っていた。
頭で記憶する六番目のサヨコだとする少女の姿。
その人が現れないかと待っていると、茜色が夜の色に変化した空でその人を見つける。
今現在大学生だとするその人の姿と、過去のアルバムに載っていた姿とを記憶の中で重ねた。
多分、そう。

梓はその女性と一緒にいる男性に声をかける。

「すみません、失礼ですけど、潮田玲さんですか?」

梓の声に女性は思わず振り向いた。ああ、そうなんだと心の奥でほっとため息をつく。
梓はきゅっと唇を結んだ。

「そう、だけど・・・・・・あなたは?」

女性――潮田玲とその隣にいる男性はお互いの顔を交互に見つめる。
驚くのは無理もない。

「私、西浜中二年の小湊梓って言います。あなたに聞きたいことがあるんです」

梓の真剣な瞳を見つめ、玲は小さく笑って頷いた。


「あなたは、サヨコを知りたいの?」


梓は目を見開いた後に、はい、と頷いた。
六番目のサヨコと八番目のサヨコはここで出会うのだった。













+あとがきもとい呟き+
かなり久しぶりの更新です、申し訳なく・・・!
とうとう玲の登場です。佐野先生はちょっと意外だったかなー。
玲と一緒にいるのは誰かわかりますね?そう、玲の幼馴染の彼です(笑)