八番目の小夜子〜言霊伝ひ〜
1.伝ふ言の葉
白い封筒に少し寂れた鍵。
これが何を意味するのかこの学校の生徒は嫌というほど知っている。
この学校にとって、神秘的で且つそれと相反するものを持つのが『サヨコ』と言う存在だ。
誰もがそれに憧れ、それと同時に畏怖を感じる。
そして色んな形でその存在が語られてゆくのもまたこの学校の生徒の暗黙の了解。
口にはしないが、やはりどこかでその存在を信じているように感じるのはなぜだろう。
そんなことを思いながら小湊梓は言葉を口にした。
「サヨコ? 何、お前そう言うのに興味があったのか?」
さも意外そうに叫ぶのは上村忍だった。
現生徒会長。勉強もできて、スポーツもそこそこ、そんな忍とは小学校からの友達。
一応オールマイティに色々なものに顔を突っ込んでいるあたり、割と器用なのだろう。
梓は忍の言葉に少し口を尖らせて答えた。
「だって、面白そうでしょ?」
「サヨコなんてるわけないじゃん」
あっさりとその存在を否定され、梓はむっとした顔をした。
それをフォローするように呟いたのは藤塚かなめ。
梓のクラスきってのおっとりさんで、ロマンチスト。
少女とはまさにかなめのためにあるようなものと言っても過言ではない。
「あら、夢があっていいと思わない? あたし、サヨコを信じるなー」
そのかなめの言葉のすぐ後に長田香の声が響いた。
「いるわけないと思うけど」
「相変わらずかおちゃんは夢が無いわね」
きっとかなめが睨み付け、かなめの視線を見据えて香は一刀両断した。
「そういうかなめは夢見すぎ。大体アンタは目の前の現実を見なさいよ。ノート貸さないわよ」
「わー! それだけは勘弁!!」
テスト前、ノートを必死に写すかなめは取り上げたノートを取り戻そうと必死になっていた。
その様子を見て梓は苦笑いをする。リアリストの香はそう言ったものを一切信じない。
そんな香でもファンタジーは好きなのだから面白いんだよなぁと梓は考えていた。
「相変わらずだなぁ、香は。なぁ、忍」
「でも香らしいだろ」
忍は隣に座る東裕介の言葉に頷いて肩を透かした。
東裕介は忍の良き友達の一人。剣道部部長に就任したばかりの我がクラスのムードメーカーだ。
裕介のおかげで忍が楽している部分も多々ある。それはある意味お互い様なところがあった。
「でも、いたらいたで面白いと俺は思うけどね」
「だよね。いるいないって言うよりも『いたら面白い』ってそれだけなんだけどさ」
裕介の言葉に梓は頷きながらシャープペンを回していた。
陽が傾き始め、茜色が少しずつ校舎を侵食していく。
中学校二年の三月。あと一月もしないうちに最高学年に上がる自分達。
何かが少し寂しいそんな夕焼けを見つめて梓は呟いた。
「でも、だからこそ、だと思うけどね」
信じたいって思うんだ。
だって、あたしは。
梓は口の中で呟く。口には言えないこと。
誰にも言えない秘密。ドキドキする鼓動が少しずつ早くなる。
「はいはい。勝手にしなさいよ」
忍がひらひらと手を振って、梓はそうだね、と小さく呟いた。
小さな言葉と同時につきんと胸を刺すのは仕方がないことだと梓はわかっている。
いるのを知っているから。
あたしは、サヨコがいることを。
たとえ誰も信じなくても。
だから。
誰が何と言おうと。
いる。
その存在が在るということ。
―――それでもあたしは信じたいと思うよ。
八番目のサヨコは動き出していた。
+あとがきもとい呟き+
遅くなってしまいましたが、無事更新です。お待たせしすぎてごめんなさい!
のんびりではありますが、お付き合い頂ければ幸いです。ところでこのキャラクター達の設定は載せたほうがいいでしょうか?
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