合宿から一週間が経ったのかと思うと、早いなと感嘆の息を漏らした。
カレンダーがそれを示しているのをじっと見つめながら考える。
もうすぐで夏休みも終わりだった。
あっという間。
まさにその言葉が今一番合っているような気がした。
合宿が始まって、結局余裕があったのは初日だけ。
その後からはずっと練習と友達と戯れてる時間が自分の一日を占める。
そんなことを思いながら、和樹先輩もこうだったのかなと思った。
と、同時に淋しくも思うけれど、でもそうなんだろうと思う。
和樹先輩は、友達が多いから。
男女問わず、多いから。
それが和樹先輩の持ち味であり、欠点でも・・・あるけれど。
「早いもんよね」
いつの間にか隣に来た早紀が呟いた。
「そうだね」
「今日オケ部の先輩達が来るってさっき部長が言ってたよ」
「ん。そうかなって思ってた」
私は静かに答えると、早紀は一つため息をついた。
「話、しなきゃね」
「ん」
「それに・・・・・・あと少し、でしょ」
「うん。あと少し、あと少し。頑張らなきゃね」
自分に言い聞かせるように言う。
その言葉を反芻しながらどこかで別のことを考えていた。
やっぱり、会いたいな。
黙っていても今日は会えるだろうことはわかってはいるのだけど。
それでも。
「だね。あ、香穂。時間」
早紀に時間を促され、自分の練習室の割り当て時間になっていることに気づいた。
慌てて、ヴァイオリンをヴァイオリンケースにしまう。
「いっけない。ちょっと練習室行って来る」
「いってらっしゃーい」
「いってきまーす」
早紀に送られて、練習室へとヴァイオリンケースを抱えて階段を駆け足で行く。
オケ部での練習の前に必ず練習室を借りて個人でやる曲を練習していた。
学内推薦の日にちが近いせいもあって、個人的に練習していたから。
今日はオケ部での練習は十一時からだと聞いている。
少し遅めのスタートだったため、まだ九時と言う時間は人もまばらだった。
練習時間は三十分しかない。
ちゃんと、これだけはやらなくちゃ。
じゃなきゃ、和樹先輩と同じ位置に立てないから。
練習室に入り、ヴァイオリンケースからバイオリンを取り出す。
姿勢を正して、楽譜を見つめて、すうっと息を吐いた。
『モーツァルト ヴァイオリン協奏曲 第3番 ト長調 K.216 第1楽章』
ぴんと正した姿勢を保ったまま、弦を引いた。
メロディーラインがすうっと自分の中に入ってくる。
静かに、そのメロディを奏で始めると、その音の世界へと誘われていった。
心地良い音色が窓からこぼれると同時に、外からの風が入る。
さわやかな風がすうっと室内に流れるのを肌で感じながら瞳を閉じた。
その音色を誰が聞いていようとも、今の自分にはそんなこと気づく余裕はなかった。