あの鐘の音からはじまりの歌は鳴り響いていたのだろう―――。
「あー、土浦くん!笙子ちゃん!」
「二人ともおめでとうございます」
いつもと変わらぬ笑顔で軽く挨拶をする土浦に倣うように冬海も慌てて「おめでとうございます」と挨拶をした。
「ありがと、土浦、冬海ちゃん」
「まさか本当にさっさと結婚するとは思いませんでしたよ」
土浦は感心したように言い、それを聞いた火原は「そう?」と小首を傾げた。
「結構前から香穂ちゃんと決めてたんだよ。香穂ちゃん言ってないの?」
「笙子ちゃんには言いましたけどね」
あと菜美にもと香穂子は言葉を付け加えた。毎回恒例の三人での泊まりの時に話をしたんだなと土浦は瞬時に納得する。
まぁ、そんな話聞いたところで惚気以外のなにものでもないことはわかっていたため、土浦は口を噤んだ。
「で、今の感想は?」
「もちろん、わかってることじゃない」
満面の笑みで返す日野に土浦は肩を軽く透かすと隣にいる冬海を見下ろした。
冬海は嬉しそうに火原と香穂子を見つめている。
「火原先輩、香穂先輩のこと・・・・・・」
「わかってるよ、冬海ちゃん」
「まぁ、あとは夫婦喧嘩して周りに迷惑かけないで下さいよ」
「それはないよー」
けらけらと笑いながら返す日野に土浦は「どうだか」と答えた。
何せ、この二人がケンカをすると周りを巻き込むのは前から知っていること。
その巻き込まれる筆頭が自分達なのだが。
「何はともあれおめでとうございます」
「二人ともお幸せに」
「あ、笙子ちゃん」
「はい」
香穂子が冬海を呼び止める。振り返ると目の前に先ほどまで持っていたブーケを目の前に差し出された。
思わず目を大きく開いて冬海は香穂子を見つめる。
「最初から笙子ちゃんにあげようって決めてたの」
「香穂先輩・・・・・・」
「だから、土浦くん。笙子ちゃんのこと泣かさないようにね」
「誰が泣かすんだよ」
「土浦くん」
即答されて思わず土浦の眉間に皺が寄った。冬海は顔をくしゃっとさせてブーケに顔を軽く埋める。
「ありがとう、ございます・・・・・・」
「私も幸せになるから、笙子ちゃんも幸せになるんだよ」
はい、と頷き冬海は顔を上げる。今にも泣きそうな顔をしていたけれど、誰も何も言わなかった。
「でも、笙子ちゃんを取られるのはちょっと癪なんだけどね」
「お前な・・・・・・。火原先輩も何か言ってくださいよ」
「おれ、無理」
「そこで即答しなくても」
土浦は諦めたように肩を落としながら冬海へと視線を向ける。
冬海もまた土浦の視線に気づくと小さく頷いた。
「じゃあ、二人とも」
「うん。ありがと、土浦、冬海ちゃん」
軽く手を振って返すと土浦は冬海の手を握りながら歩き始めた。
ブーケを大事そうに持つ冬海に土浦はぽつりと言葉をこぼす。
「花嫁のブーケか」
それは幸せになれると言われているシロモノ。
女の子にとっての憧れの象徴なのだと姉が言っていたのを土浦は思い出した。
「香穂先輩が大事に持っていたブーケだから嬉しい・・・・・・」
「そうか。なぁ、笙子」
「はい?」
「今すぐにとは言わないが――-」
告げられた言葉は約束の言の葉。
あの鐘の音が鳴った時から多分、二人で歩くためのはじまりの歌は鳴り響いていたのかもしれない。
終