「二人とも、約束を違わないことを誓いますか?」
「もちろん、誓います」
「はい、誓います」
陽気な口調で問われた火原と香穂子はにっこりと笑顔でそう返した。
「あー、疲れた」
ぽす、と思わずふかふかの布団が敷いてあるベッドに香穂子はダイブした。
自分たちの荷物や紙袋を火原はソファに降ろす。
「香穂ちゃん。疲れてるんだったらシャワー浴びてきたら?」
「うーん。そうなんですけど、もったいないっていうか」
火原は空いている方のソファに腰を下ろして、傍にある冷蔵庫からコーラを取り出した。
それを見つけた香穂子は思わず声を挙げる。
「あ、ずるい」
「香穂ちゃんも飲む?」
「はい!」
満面の笑みで返す香穂子に火原は苦笑いを浮かべつつ、コップにゆっくりと注いだ。
弾ける泡がしゅわ、と音を立てる。
「もったいないって言ってたけど、何で?」
思い出したように火原は香穂子へと問うた。
しゅわしゅわと弾ける泡の音に耳を傾けながら香穂子は言葉を口にする。
「ああ・・・・・・何て言ったら良いんだろ。もったいなくって、もうちょっと傍にいたいなって」
これからずっと傍にいるのにおかしいですよね、小さく笑いながら香穂子はコップに口をつけた。
火原は思わず香穂子の肩を抱きしめると、香穂子は火原の胸に顔を埋めた。
「あー、もう。やっぱり香穂ちゃんはかわいいんだから」
「何言ってるんですか」
「かわいいものはかわいいの。大好きだなぁ、香穂ちゃん」
いきなり何を言うのかと思えば、急に口走った言葉に香穂子の頬が紅く染まってゆく。
急に大人しくなった香穂子に気づいて火原は「かわいい」と呟いた。
「・・・・・・式、すごく緊張したんです」
少しの沈黙の後に口を開いたのは香穂子だった。
急に唇で綴り始めた香穂子に火原は黙って聞き入る。
「でもね、誓いのキスの時、初めてじゃないのにドキドキしてどうしようって思って・・・・・・だけど、嬉しかった」
それは紛れもない香穂子の想いの欠片。
火原は柔らかな笑顔を浮かべて言葉を紡ぐ。
「おれもそう。人前でってすっごい緊張したんだけどね。でも、香穂ちゃんの顔見たら嬉しかったんだ」
自分の伴侶になる香穂子の、今までにないくらい綺麗な表情。
口付けた唇は柔らかくて。
「おれね、あの台詞すごい憧れてたんだよ」
「『健やかなる時も――』ですか?」
くす、と笑みをこぼして香穂子が問うと、火原は素直に頷いた。
「そう。それを聞いてて思ったんだよね。絶対に香穂ちゃんのこと幸せにするし、絶対に守るって」
それ以上に言葉にならない想いが火原の中で溢れていた。
それを抑えていた自分に気づいて火原は小さく笑う。
たった一人の大切な人を。
好きという言葉以上の言の葉で抱きしめたくて。
火原は香穂子へと向き直り、香穂子もまた火原だけを瞳に収める。
ごくりと喉を鳴らして、火原は言葉を綴った。
「―――愛してる、香穂ちゃん」
「・・・・・・私も愛しています」
想いに応えるように香穂子もまた唇で言葉を紡ぐ。
たとえ生を別つ日が来たとしても、ずっとあなたのことを。
あなただけを。
ただ、愛しているから。
言葉とともに柔らかな笑みを浮かべて、キスを交わした。
この溢れんばかりの想いだけで、こんなにも幸せ。
終