02. キスの味はどんな味?


「それでそれで? 御坂さんは上条さんと付き合い始めてどれくらいなんですか?」

ずい、と顔を前に出すように身を乗り出した佐天は美琴へと尋ねた。勢いがよかったせいもあるのだろう、美琴は一歩後ろへと下がった。

「い、いや・・・えっと、半年・・・ぐらい?」

「そこでどうしてクエスチョンマークがつくんです??」

「あははー・・・なぜかしらねー?」

頭を掻きながら美琴は冷や汗を掻いていた。見つかったら最後とは思っていたけれど、よくぞここまでばれずにいられたものだと自分に感心する。だが、掴まってしまった以上逃げられないことは美琴も理解していた。
ごくり、唾を飲み込むと美琴はあのね、と言葉を続けた。

「私も気づいたらー・・・っていうか、なんていうか」

「じゃあ、御坂さんにとって上条さんの存在はなくてはならない人ってことですよね? そうなったのって何かあったからなんですか?」

「え? あ、うん・・・ちょっとね。色々とありすぎて、説明しにくいわね」

おお、と目を輝かせてさらに佐天が美琴を見つめる。まあまあと初春は興奮する佐天を落ち着かせるように身振りをして腰を落とさせる。うーん、と唸らせながら美琴は口を開いて言葉を口にした。

「アイツは私にとってなくてはならない人、それは本当よ。アイツを守りたいって思ってる。けど、それだけじゃないのよね。いいところもダメなところもひっくるめて、私はアイツが好きなんだってそう思うの。ダメなところは私がカバーしたい、互いに守って守られてができたらいいなって思うんだ」

「御坂さん・・・・・・」

「なんかいいなぁ、そういうの」

あくまで理想よと苦笑しながら美琴は言う。少し照れているからか、頬に熱が集まって少し熱かった。
何でこんなこと話してるんだろうというそもそものキッカケを思い出してみるものの、二人に呼ばれ、ファミレスに連れ込まれると美琴はソファに座らされて今に至るのだ。見ちゃったんですよね、その一言から始まったこの話は佐天や初春のペースで始まったようなもので、美琴が主導権を握れるはずもなく、この話はやめ、と言いたくても言えない雰囲気が漂う。

「私も好きな人いたらなぁ」

ぼんやりと呟く初春にだよねぇ、と佐天も同様にぼやいた。恋をしたいと思うお年頃ということもあって、恋愛の憧れはそれぞれであるのだろう。

「あ、そうだ。御坂さん!」

「うん?」

「御坂さんはもう、キスってしたんですか?」

唐突に尋ねられた言葉に美琴は身体を固まらせ、顔を引き攣らせながらひやりとした汗が背中に落ちていった。

「えーっと、そこは答えなきゃダメ?」

「「ダメです!!」」

声を揃えた二人の声がファミリーレストラン内に響き渡った。



「・・・・・・で、何でそんなに美琴さんはお疲れモードなんでせうか?」

「へ? 私顔に出てた?」

きょとん、と瞬きを繰り返して美琴は頬を手ですりすりと擦る。そんなに顔に出てるつもりはないんだけどな、一人胸の内で呟いた。

「ああ、すっげー出てた。いつになくお疲れモードだった。どうかしたのか?」

「いや、別にそんなことないと思うんだけど?」

視線を逸らす美琴に上条は軽く溜息を吐いて前髪を下ろす額にぱちん、と軽く弾いた。

「いった!」

「痛くはないだろ。軽くだし、前髪あるし」

「って何でいじわる〜〜」

「あのな、美琴。お前はすぐに顔に出るんだって。わかりやすいの」

「当麻・・・・・・」

「何かあったんだろ? 俺には言えないことか?」

「そういう・・・わけじゃないけど・・・・・・」

でも、と言いよどむ美琴に上条は軽く茶色の髪の毛を撫でながら言葉を口にした。

「今日は初春さんと佐天さんと会って来たんだろ?」

「うん」

「何か言われたとか?」

「言われたって言うか、根掘り葉掘り聞かれたって言うか・・・・・・」

唇を尖らせながらちら、と美琴は上条を見上げた。上条は小首を傾げて「ん?」と美琴を見返す。
見返すと美琴は顔を逸らした。それは不自然なまでに。そして美琴の頬は少しだけ熱を持っているようにも見えた。

「ふーん。そんなに俺には言いたくないってことか」

「や・・・っ! そう言うわけじゃなくて」

あー、もう、何て言えばいいのよーと美琴は唸らせる。そんな美琴を落ち着かせるように上条はその手を握った。
幸いにもここは上条の寮の部屋。誰一人見ている人などいない。
びく、と身体を強張らせると顔を赤に染めて美琴は恐る恐る上条を見上げた。

「じゃあどういうわけだよ?」

上条の言葉に美琴はうーと唸る。そして開き直ったようにその唇から弾丸のごとく言葉が次々と出た。

「二人に私と当麻のこと聞かれたの! いつから付き合ってたのかとか、どうして好きになったのかとか。ほら、恋いしたい年頃でしょ。憧れって言うか、近くに付き合ってる人がいないから私が付き合ってるの知って知りたくなったって! 別に悪口なんて言ってないわよ! むしろ私の反応見て楽しんでた節はあるし。あと、聞かれたのよ」

「何を?」

「キスってどんな味ですか?って! レモン味みたいに甘酸っぱいんですかって!!」

もー、これで全部よ、と最大限に顔を紅くした美琴はぷぅと頬を膨らませてぶつぶつと呟く。
へぇ、と上条は手を握り締めながら「じゃあ」と美琴に言葉を返した。

「どう答えたんだよ、美琴」

「どうって・・・・・・」

言いかけた言葉はぶった切られ、身体を強張らせるときゅっと瞳を閉じた。少しだけ引き寄せられた手はぎゅっと強く握り締めたまま。重なる唇は呼吸をすることさえ忘れてしまう。

「で、どんな味?」

にっと口の端を上げて上条が問うと美琴は観念したように肩を落として答えた。
言うまできっと逃げることなどできはしない。何気に抜かりなく右手で自分の手を握られてしまったからには電撃とて出せやしないのだから。


「・・・・・・甘酸っぱい恋の味」


どう、これでいい?と言い捨てた声は少し怒っていたけれど、紅に染まった顔はとても可愛くて。

「やっぱ、お前反則だわ、それ」

「へ?」

「自覚ないからなぁ、このお嬢様は」

上条は嬉しいやら悲しいやら、がくりと肩を落としながら答える。
かわいいものはかわいい。上条とて付き合い始めた頃に気づいたものだ。
自覚のない可愛さはある意味反則的なのだと。
そして先輩らしく後輩の質問に律儀に答えた美琴はもっと可愛いと思ってしまうのだからどうしようもない。
美琴らしい、乙女な回答もまた胸の奥をくすぐる。

「そんなかわいい美琴さんのためにそろそろご飯でもつくりましょうかねー」

「あ、作ってくれるの?」

「いつも作ってくれるしさ。たまにはな」

「そう? ・・・あ、でも」

「でも?」

「私も一緒に作る。たまには一緒に作りましょ」

にこっと笑って答えた美琴に上条は苦笑しながら「そうだな」と返した。
やっぱ自覚ない可愛さって半端なく破壊力高いよなぁと軽く溜息を吐きながら二人並んで夕食の準備に取り掛かる。
恋する乙女は最強だというけれど、まさにそのとおりだよなぁとぼやく上条の言葉は美琴には届かない。
まだ熱が残っているのだろう頬が赤に染まったまま美琴は小さく笑みを浮かべていた。
上条が好きでいてくれることがこんなにも嬉しいことだなんて知らなかった。
恋することがつらい時もあるけれど、嬉しい時もある。
それを一つ一つ噛み締めながら美琴は笑みをこぼした。



『御坂さん、私たちに付き合ってること教えてくれなかった罰です』

初春はパフェをぱくりと頬張りながらそう答えた。あのファミレスでの時間は数時間前のできごとになる。記憶を呼び起こしながら美琴はその先の記憶を手繰り寄せた。

『そうですよ。水くさいじゃないですか』

佐天も唇を尖らせながら答えると美琴は「ごめん、ちょっと恥ずかしくて」と言い訳をする。

『キスは甘酸っぱい恋の味、ですかー。いいなぁ、上条さんは幸せ者ですね』

『何で?』

きょとん、と美琴が目を丸くして尋ねるとだって、と佐天が初春の言葉を継いだ。

『だって、御坂さんのこんな幸せそうな顔、独り占めしてるんですもん。それにすごく大事にしてるし、されてるって感じがするなー』

そうかなぁと曖昧な言葉で美琴は返した。
そういわれたら確かにそうかもしれないと思う節はある。
上条は美琴を巻き込まないようにしようとしているけれど、大抵巻き込んでることが多い。その度にごめんと謝るのだが、最近はそれにプラスして最初に巻き込んでくることも多かった。諦めたというのもあるのだろうが、それ以上に。

―――お前に背中預ける。

そう言ってるようで、それがすごく嬉しくて。
だからこそ、美琴もまた上条を大事にしたいと思うのだ。
上条が幸せ者だというならきっと。


「私も幸せ者ね」

美琴が呟くと上条は笑って返した、そんな小さな日常のしあわせなひと時。






短編です。短いです(大事なことなので二度言いました(笑))。 佐天さんと初春の二人に付き合うってどういう感じか問い詰められる美琴。色々と聞かれた後、美琴は上条の家へと立ち寄る。色々と聞かれた後で逆にぎこちない美琴を怪訝に思った上条は? そんな二人のちょっとした他愛ないひととき。