しゃかしゃかと粉をふるいながら御坂美琴は小さく笑った。
それもそのはず。美琴の隣に立っているのは上条当麻で、その上条当麻はぱか、と間抜けな音を立てながら卵を割っていた。
その眼があまりにも真剣で思わず笑ったのだが、美琴の仕草にすぐ気づいたのだろう、上条は「どうした?」と首を傾げた。
「んー、なんかやけに真剣だなぁって思って」
「そりゃ真剣にもなりますよ、殻入った場合、取り出すのに時間かかるっていうのは美琴さんでも知ってる事実だと思うのですが?」
「まぁ、それはわかるけど。でもねぇ」
今度は呆れにも似た苦笑いを浮べて粉をふるい落とす。だまもない綺麗な粉が出来上がった。
「うーん、上出来♪」
「上出来って、自分を褒めてどうする」
「でも、この出来は褒めるべきでしょ」
さらさらと白い砂のような粉の山を見て上条はうーんと唸りながらも答えた。
「・・・確かに、これは褒めるべき領域かもな」
「素直じゃなーい」
「素直じゃなくて結構」
「あ、かわいくない」
「俺がかわいくてどうする!」
ボケなのか何なのか、突っ込みながら上条は卵を割ったボールに美琴が綺麗に創り上げた白い粉の山へと落とし入れた。
ざざっと落ちた粉と黄色い卵が混ざり合う。さくさく混ぜる上条の横で今度は美琴が砂糖が入っているボトルを取り出した。
「甘さは控えめで良いんでしょ」
「軽くでいいぞ。どうせジャムとかつけるわけだし」
「わかってるって」
美琴は軽く軽量スプーンで掬うと、真っ直ぐ綺麗に揃ったスプーンの先端の角度を変えてボールの中へと落とした。
少しだけ荒い目の砂のような砂糖が溶け込む。手を止めることなく上条はボールの中身をかき混ぜ、美琴はフライパンを取り出して油を引いた。
熱がフライパンに広がり、油が緩やかに踊りだす。美琴は手を軽く翳しながらその熱の高さを測っていた。
混ざり合った生地に今度はお玉を入れ馴染ませると、美琴へとボールを手渡す。受け取った美琴は熱が満遍なく広がったフライパンの上に生地を流しいれた。
じわ、と広がる生地を均等に丸くし、美琴は生地を焼く。上条はその横で片づけを始めていた。
最初に作ろうと言い出したのはどっちだったか、気づけば休日の昼時を示しており、ぼんやりと天井を眺めていたはずの視界に美琴の顔がひょこっと顔を出したことで、漸く重かった腰が動き始めた。
美琴は美琴で朝一番で洗濯を終え、ベランダから籠を持って部屋の中へ戻ると、まだベッドでぼんやりしている上条を見つけた。
ぼーっとしてるくらいならそろそろ昼なんだし、何か作って食べようと提案したのだが、気づけば二人揃って台所に立ってパンケーキを作り始めた、それがキッカケである。
「あ、洗い終えたら皿ちょうだい。そろそろ一枚目焼けそう」
「おお、もうできるか。了解」
「うん。洗い終えたくらいにちょうど出来上がるんじゃない、これ」
フライ返しで上手くひっくり返すと美琴はきれいな焼き色を見せたパンケーキを見て「きれいー」と自賛していた。
上条はそんな美琴を横目で眺めつつ、洗い物を終えると皿を出してキッチンの空いているスペースの上に置いた。
「ほら、美琴」
「ありがと。ね、これぐらいでいい?」
「ああ、ちょうどいいな」
「さすがでしょ」
「自分を褒めてどうするんだ」
「当麻のケチ」
「お前、ケチってなぁ・・・・・・」
「なによー。ケチだからケチって言っただけですけど?」
口をへの字に曲げた美琴に上条はすまん、と謝りながら次々と焼かれるパンケーキを眺めていた。
憎まれ口を叩く時もあるが、基本的にはこういう会話さえ愛しいと思うのだからある意味どうしようもないよなぁと一人ごちる。
その声は美琴には届いていない。ただひたすら真っ直ぐにパンケーキを焼いていた美琴は上条の視線に気づき、どうかした、と尋ねた。
「いや、こうやってるのも悪くねぇなーって思ってさ」
「ああ・・・そうね。それわかるような気がする」
しみじみと噛み締めるように頷いた美琴は目を細めて顔を軽く上げると、上条へと視線を向けた。
「色々と問題多いものね、当麻は」
「それは否定しない」
「でもそれでも頑張ってる当麻はすごいと思うわ」
「おお、珍しく褒めてる」
「私だって褒める時もあるのよ」
「いつもそうだったらいいんだけどなー」
「それじゃありがたみないじゃない」
「ああ言えばこういう・・・・・・」
がくりと項垂れる上条に「バカ」と美琴は言葉を口にした。
「でもそれが悪いなんて私は言ってないわよ。アンタらしくて、でも楽しくて、時々大変なこともあるけど、私は一緒にいたいって思うから」
「美琴・・・・・・」
ふわり、窓の外から穏やかで優しい風が白いカーテンをなびかせ、ベランダを突き抜けて台所へと姿を現す。
いつもの風景、ゆるやかな時間の流れ、そのどれもがとても価値のあるもの。
ちょうどよい色に焼かれたパンケーキを焼いては重ね、焼いては重ねを繰り返し、ちょっとした会話を楽しみながら一緒の時間を重ねてゆく。このパンケーキのように。
「さて、最後の一枚も焼けたことだし、食べましょうか」
「ああ。そうだな」
最後の一枚を重ね、美琴が言うと上条はこくりと首を縦に振った。
皿を手に持ち美琴は冷蔵庫の中から作り置いていたサラダとバターとジャムを取り出す。
テーブルの上に次々と並べられる色よい形の食卓。
二人の愛情が重なり合うパンケーキを食べよう。
何ら変わらない、他愛のない会話を繰り返して。
普通の穏やかな休日を噛み締めながら。
ただ愛しい人と一緒にいられる時間を大切にしたいと心から願いつつ。
こんがりきつね色に焼けたパンケーキを頬張りながら時を重ねよう。
―――不幸を打ち消すくらいの、幸福な時が何よりの宝物なのだから。
終