02. 愛を少し語ろう


好きだと言った言葉に嘘はない。本当のことだから後悔はない。
でも後悔はないはずなのに、気持ちが揺れ動く。
別に振られることなんてわかってたはずだから覚悟はあったはずなのに、肝心な答えが聞けない。
怖くて聞けなかった。



「はぁ」

軽く溜息を吐きながら御坂美琴は重い足取りでアスファルトの道の上を歩いていた。
鞄を持つ手も身体そのものも何かが重く圧し掛かってるようににしか感じられない。鈍い足取りは体力をも奪っていた。
代償なんて最初からわかっていたのに、ちゃんとわかってはいなかったかもしれない。翌日、偶然にも上条と出くわした美琴はぎこちない形で上条と軽く会話し、すぐに別れた。ちゃんと挨拶はしたと思うと思っても、不安は拭いきれない。

「やっぱり早すぎたのかな・・・・・・」

だが、遅かれ早かれこういう結果になっていたと美琴は思う。上条はもともと自分を眼中に入れてないことは見ていてわかっていた。だが、そうであるなら、なぜあんなにも堅い挨拶しかできなかったのか、と逆に首を傾げる。

「よく、わかんない・・・・・・」

結局答えが出せないまま美琴が歩いていると、公園の自販機の前に見知った顔を見つけて、美琴はひょいと顔を覗かせる。

「あれ? 打ち止め(ラストオーダー)?」

美琴の声に反応したのは美琴の幼い頃そっくりの打ち止めだった。

「あ!お姉さまだー!!」

明るい声が返って来て、なぜか美琴はほっと肩を撫で下ろした。ぱあっと輝かせた笑顔は幼い子どもの特権と言うべきか否か、なぜかその明るい笑顔に救われたような気がしてならなくて。

「どうしたのよ、アンタ。困ったことでもあったわけ?」

打ち止めに尋ねると瞳が輝いた。

「困ったことになったのって、ミサカはミサカは現状を報告してみたり」

「は? 何かあったわけ?」

「お金を入れて飲み物を買おうと思ったら全く反応しないの、とミサカはミサカは困った現状に途方に暮れてみる」

「あー・・・この自販機か。この自販機、普通には買えないわよ」

頭を軽く掻きながら美琴が答えると、表情を曇らせながら打ち止めは小首を傾げて「どうして?」と尋ねた。

「この自販機はね、こう買うの・・・・・・チェイサー!!」

回し蹴りをして自販機に足を当てると自販機はボタンを押してないにも関わらず、ガコン、ガコンと自動で飲み物が落ちてくる。その様子を見入っている打ち止めはたただただ驚くばかりだった。そんな方法があるとは夢にも思わない。打ち止めはぽかんと口を開いたままその様子をじっと見つめる。
二、三本出てきたところで、動きは止まる。そして出てきた缶を取り出して打ち止めに好きなものを選ばせた。

「じゃあ、ミサカはミサカはこの冷たくて気持ち良さそうな椰子の実ソーダを欲しいなって希望を吐露してみたり」

「いいわよ、はい」

椰子の実ソーダを手渡すと、その小さな手でぷしゅ、と缶の蓋を開けた。美琴もまた缶のプルタブに指先を引っ掛け、開く。自販機すぐ傍にあるベンチに打ち止めは座ったその後をなぞるように、美琴もまた腰を降ろす。

「・・・・・・何かあったの、ってミサカはミサカは尋ねてみる」

「どうしてそんなこと思ったわけ? っていうか、アンタ、一方通行どこに行ったのよ」

美琴の言葉を気にするわけでもなく、打ち止めは答える。
一方通行――学園都市最強の男。その男に妹達は殺された。打ち止めとて美琴の妹達の一人。『絶対能力進化(レベル6シフト)』計画により何百人と殺されたにも関わらず、その当の本人と一緒にいるという奇妙な関係。美琴には最初理解できなかったが、打ち止めからこの人と一緒にいたいとはっきり言われた時は、姉妹としての情よりも女としての覚悟を感じたものだ。だから何となく遠くから見守ることにしたのだが。

「用事があるって言って行っちゃった。でもあと三十分後に待ち合わせをしてるんだよってミサカはミサカは約束を言ってみる」

「そう・・・アンタは楽しそうでいいわね」

ふっと瞳を細めて美琴が言うと、じっと打ち止めが見上げる。

「お姉さまは楽しくないのってミサカはミサカはちょっと心配そうに聞いてみる。あの人(上条当麻)と何かあったの・・・・・・?」

「アンタ、意外と痛いところ突っつくわね」

苦笑しながら美琴は答えた。そこまで的確に第三者には当てられるのに、当の本人は全く美琴の気持ちに気づいていなかった。まぁ、アイツも結構鈍いから仕方ないんだけど、と更に深いため息を吐く。

「アンタは・・・どうしてアイツと一緒にいるの?」

アイツ、それが誰を指すのかは一目瞭然だった。しゅわしゅわと弾ける泡を見つめながら打ち止めは少し何かを考え、そして言葉を口にした。

「・・・・・・一緒にいたい、それが一番の気持ち。あの人、強いけれど本当のところでは弱いの。だからミサカがミサカがいないとダメなんだよとちょっとかっこよく言ってみる」

えへへ、と笑う打ち止めに美琴は軽く頭を撫でた。少しだけ羨ましく感じるのはなぜなのか。
打ち止めは一方通行を信頼し、一方通行もまた打ち止めを信頼しているように感じていた。当たり前に存在する人間として認めている。そこにいていい、そう言われているそんな強さを感じた。自分よりも一端の女の顔をしている。

「ちょっとだけアンタが羨ましいわ」

自分は何をしてるんだろう。告白して、答えを聞くのが怖くて、でも関係は壊したくなくて。今までのようにはいられないのはわかってる。でもちょっとは違ってもいいのではないか。告白したことに後悔がないのなら。気持ちを伝えて分かって欲しいのなら。
でも、やっぱり怖い。
美琴にとっての上条の存在は大きい。自分のピンチの時にいつもタイミングよく姿を現し、助けてくれる。上条にとっては何のことはないのかもしれない。でも美琴にとってその出来事は大きい。

「ねぇ、もしアンタにとって大事な人が自分の気持ちを知ってしまったら、どうする?それを言うことで同じようにはいられないかもしれない、そう知っていてもアンタは平気でいられる?」

「え?」

「好き、って伝えたら、そのことを後悔しない?」

独り言のように呟いた美琴の言葉に打ち止めは考え込む。暫しの時間考え、そしてごく、と缶の中身を飲み干すと一息吐いた。
そして自分の考えを唇で綴る。

「それでも好きと言う気持ちを伝えるよってミサカはミサカは自分の気持ちを吐露してみたり。たとえ関係が少し変わってしまっても言ったことに後悔はしないよ、とミサカはミサカは言葉を付け加えてみる」

一陣の風が二人の間を流れていった。さあっと空高く葉が舞う。

「お姉さまは後悔するの?」

「え?」

「あの人(上条当麻)に伝えたんでしょう? 困らせたことを後悔はしたかもしれないけれど、伝えたことを後悔はしてない、違うかなってミサカはミサカは尋ねてみる」

「・・・・・・さすが私の同じDNA持ってるだけあるわね」

美琴は苦笑する。的確に当てられ、苦く笑うしかなかった。
打ち止めの言うとおりだった。伝えたこと自体は後悔してない。だが、困らせたことだけは後悔している。
関係が壊れることもそうだが、それ以上にあんな顔させたくなんかなかった。

「えへん、とミサカはミサカは少し威張ってみたり。でもちゃんとお姉さまの気持ちは通じるって信じてる」

「それはアイツに聞かなきゃわからないわよ」

「恋愛として成就するとかそういうことではなくて、お姉さまの気持ちを受け止めてくれるという意味なんだよ、とミサカはミサカは重要なことを言ってみた」

「あ・・・・・・」

尤もなことを指摘され、美琴は言葉を失う。自分の気持ちが通じるかどうかばかり考えていたけれど、問題はそこではない。
その気持ちを理解し、受け止めてくれることが一番だから。
関係がどうなるとかそう言う心配はあるかもしれない。でも理解してくれれば少しは何か違うかもしれない。

「・・・・・・アンタに言われて気づくなんてね」

「えへへ。お姉さまが褒めてくれたってミサカはミサカは喜びをからだいっぱいに表現してみる」

「できた妹よ、アンタは」

ぽん、と軽く頭を撫でて美琴は目を細くした。何でそんな大事なことに気づかないんだろう。
恋を、あの背中を追いかけることばかり考えて肝心なものが見えてなかった。ただ受け止めて欲しかっただけだ。

「ありがと、打ち止め」

ふふっと笑って打ち止めは返す。
美琴は空を見上げる。今度会った時にはちゃんと向き合おう。ちゃんと答えを聞かないといけない、それは言った者の責任なのだから。吹っ切った表情はいつになく清々しい表情を浮べていた。



その一方で一人悩む上条の姿があった。
まさか美琴が自分に対して恋愛感情を抱いていたとは思いもしなかったからだ。話しやすい、悪友的な意味の方が強かった。だから急に向いた違うベクトルに上条は驚きを隠せない。気の置けない年下の友達、それが美琴の位置するもの。

「どうすりゃいいんだ・・・・・・」

一人悶々と悩む上条は食事を作る気にもならず、とりあえずコンビニで何か買ってくるか、と外に出た。出たところで丁度帰宅した土御門と鉢合わせる。

「今帰りか?」

「まぁそんなところだにゃー。カミやんは?」

「俺はコンビニ。何か作る気力失せちまって」

「ここ最近のカミやんは何だかぼーっとしてることが多いからにゃー。少しは体力つくもの食べないとダメなんだぜい」

「わーってるよ」

小さく溜息を吐いた上条にちらり、土御門は盗み見る。そしてその口は的を的確に当て始めた。

「元常盤台のお嬢様、そして学園都市に七人としかいないレベル5にあたる御坂美琴嬢、それがカミやんの悩みなんだろ?」

「え?」

「あー、この情報源は色んなところから入ってきたんだぜい。あんな人通りの多い公衆の道路でやったらそりゃ誰でも気づくって」

「あ・・・・・・そういうことか」

上条は再び溜息を吐くと、「ん?」と首を傾げた。

「ってことはだ。結構俺たちがもめてたこと知ってる人間が多いってことか?」

「さぁどうかにゃーん?カミやんよりもあの子の方が有名だしな」

だからカミやんよりもあの子の方が注目だと思うんだぜいと土御門は笑う。上条はそんなこと知らずただのんびり過ごしていたに過ぎなかったが、実際は美琴の方が大変だったらしい。土御門というよりも、妹の舞夏の情報によると、結構学校で噂になっていたそうだ。
この前見かけた時はそんなことに気を遣ってる余裕はなかったけど、実際美琴が置かれてる立場は結構辛いかもしれないと上条は思う。だが、自分が何かしてあげられるわけではない。むしろ逆に神経を逆撫でにもなりかねないのだ。

「なぁ、土御門」

「ん〜?」

「お前、好きだって言われたら嬉しいか?」

「・・・そりゃ嬉しいとは思うんだにゃー。でもそれだけかもしれないぜよ」

「へ?」

「自分がその人に対して抱いている気持ちと、その人が自分に対して抱いている気持ちは必ずしも一致はしない。でも、好きと言われて嫌な気はしないもんなんだぜい」

「あ・・・・・・」

上条は気づく。自分が思っていることと、美琴が思っていることは一致していない。でも好きだといわれて悪い気はしなかった。でもそれだけだ。上条自身、たった一人の人を大切にしたい、とかそう言う気持ちがあまりない。友達が、大事な人が困ってたら助ける、それは当たり前のことであり、上条の糧でもあった。
少なくてもそうやって今まで生きてきた。だから今更そう言われてもよくわからない、の方が正しい。

「カミやん、今までカミやんはたくさんの人を守ってきたから、逆に一人の人に絞れないのかにゃー?」

「え?」

「オレには少なくてもそう見える。オレは一人の人を命を懸けてでも守りたいってそう思う人がいるけど、カミやんにはそういう人がいないのかにゃ?」

わはは、と笑いながら土御門はぽん、と上条の肩に手を置いた。上条は土御門へと視線を向ける。

「この人だけは絶対に守りたい、死なせたくない、傍にいて欲しい、その当たり前にある感情から『好き』は生まれるもんなんだぜい」

頑張って悩むんだにゃーと軽く手を振って土御門は自分の部屋の鍵を開けて入っていく。
寮の廊下に残された上条は自分の右手を黙って見つめていた。
かつてたくさんの人間を守るために色んなことをしてきた右手。美琴のこともこの右手で助けたと言っても過言ではない。
だが、その時はただそうしたいと思ったからそうした。昔だって今だって。

「たった一人の守りたい人、か・・・・・・」

それに近しい人は前にいた。この子を守るために自分は動くと決めた人が。
だが、その人はここにはいない。遠く離れたイギリスへと帰って行った。もともと学園都市の人間ではないし、様々な問題が片付いたところで本来居るべき場所へと戻った、それだけだった。
その人は自分の家族のようなものだった。その人の笑顔だけはなくしたくないと思っていた。
でも家族の、似たような境遇だったことが上条にとって一番の理由だったかもしれない。
一度記憶を失ってる上条にとって、その人もまた同じように記憶がなかった。他の誰よりも近しい存在、それが上条当麻にとっての『インデックス』と言う存在だった。
御坂美琴は近いけれど、少し違う。自分と同じように戦う力を持っている。その力でたくさんの人を守ってきたことも知っていた。時に自分も守られながら。どちらかと言うと背中を預けられる友達が美琴に対する気持ちなのかもしれない。

「けじめはつけないと・・・だよな」

たとえ元の気の置けない友達に戻れなくても、せめて普通の友達レベルには戻れるんじゃないか、そう上条は思っていた。
胸の奥がもやもやする。
その理由は単に美琴に話をしていない、決着していないからだと上条は決めつけ、その理由を探そうとはしなかった。
その綻びが出始めるのはもう少し先。
眠っている感情がそこにあることを、まだ上条は知る由もなかった。


中途半端な恋の第2話です。彷徨う美琴の恋、上条の心、誰もが迷い傷つきながら辿り着く答えがあった。上条と美琴以外に打ち止めと土御門が出てきます。まだ少し辛い話の展開かもしれませんが、お付き合い頂ければ嬉しいです。ちなみに打ち止めと美琴はそれなりに話をする仲です。何だかんだ言って美琴と打ち止めは仲良くあって欲しいと言う私の願望入ってます。4話構成、第2話です。タイトルは前回と同じく花*花のアルバム曲から頂きました。ちなみに土御門はほぼ初書きに近いので、ちょっと違うかもしれません。すいません・・・今の私の精一杯です。打ち止めもまだ書きなれていませんが、御了承下さい。