夏休みの大半が過ぎた頃、熱さはさらに度合いを増す。
汗がじわりと滲むのがはっきりとわかった。
高校のオケ部の合宿まであと一週間。和樹先輩の合宿は半分を越えた所。
それなのに、電話が一回もなかった。
くるのはメールだけ。
私、先輩の声が聞きたいよ・・・・・・。
何となく電話するチャンスを逃してしまったためか、かけにくくなってしまった。
こうやって、人は離れていくのかな、と思う。
淋しいと思うのは私だけ、なのかな?
かけようと何度も握っては見つめた液晶画面がそこにある。
表示される名前は『火原和樹』の名。
忙しいのかな、だから電話できないのかな、とか。
少しだけ切なくなって、表示画面を元に戻した。
「香穂、大丈夫なの?」
その声にはっと現実へと戻された。隣に座るのは同じくヴァイオリンの早紀。
「ん、大丈夫」
「・・・・・・の、ようには見えないなぁ。ねぇ、冬海ちゃん」
苦笑いを浮かべて隣に座る笙子ちゃんに声をかけた。
「・・・・・・そうです、よね・・・・・・」
困った顔をして笙子ちゃんは私を見つめていた。
これから始まるオケ部の合宿のため、移動中のバスの中に二人に囲まれてまた一つため息をつく。
結局あれから一度も声を聞かないまま、今日まで来てしまった。
「このままじゃ、学内推薦もやばいんじゃないの?」
早紀の一言に、それまでには立ち直ってるよとは明るくいえる自信がなくて「そうだね」と同意した。
その言葉に驚いたのは言った本人。
「え。ちょっと、冗談だったのに・・・・・・ホントに大丈夫なわけ?火原さん、何やってるんだか」
少し憤慨したように呟く早紀の声の隙間から笙子ちゃんが私に尋ねた。
「先輩、あまり、無理しないで下さいね」
「ん。ありがと」
「香穂、ちゃんと火原さんと話しなきゃダメだよ」
「うん・・・わかってる」
それができれば苦労しないよと、小さく呟くもその言葉は二人の耳には届かない。
不安な想いはさらに度合いを増す。
私だけが淋しいのかな。
本当に、私のこと、好き・・・・・・なのかな。
それすら自信をなくしてしまうのだから、相当まいってるのは明白だった。
多分、誰の目から見ても今の私はダメだろうと思う。
「香穂がちゃんと話できないなら、私が言うから」
「大丈夫。ちゃんと話するよ」
早紀の言葉を断って、私がしっかりしなきゃと少しだけ渇を入れた。
せめて、演奏だけはみんなの足を引っ張りたくないから。
ずっと黙ってるのはやめよう。
ちゃんと話をしよう、そう思って休んでいた手を止め、楽譜を見つめて確認をし始めた。
その様子を早紀と笙子ちゃんが心配そうに見つめているのはわかっていたけれど。
どうにもできないから、それを黙って無視することにした。
合宿はまだある。
長い時間との戦いだった。