長い旅路の幕開けだった。
それほど長いと言うものではないのかもしれない、ただ、約一ヶ月いないという事実。
『長期合宿』
学院のオーケストラ部の合宿だった。
専用の合宿施設がある。高校と違って結構大きなもので、場所も遠かった。
「たったの、一ヶ月程度だから・・・・・・」
彼はそう言った。私だってそう思ってる、けど遠い地へと旅立つということはそれだけ会えないということ。
ただでさえ、隔たりは大きいのに。
高校生と大学生。
一年の差なのに、これだけ大きい壁。
夏休みは一緒に遊びに行こうって約束したのに。
でも、彼が決めたのだから。
夕暮れの帰り道に彼が言っていた言葉を思い出す。
『香穂ちゃん。おれね、たくさんの人にトランペットのこと知って欲しいんだ』
って無邪気な笑顔を振りまいていたそんなあの時を。
トランペットが大好きだから、何よりもそれを聴いて楽しんで欲しいといつも言っていたから。
オーケストラで吹いてる姿はすごくかっこいいから、そんな姿知ってるから。
見慣れた街並みが静かに通り過ぎるのをバスの中で見つめ、窓に映る自分を見た。
やだ、変な顔。
これから送り出さなきゃいけないのに。隣で私の肩を借りて寝てる彼が少し恨めしい。
「和樹先輩・・・?おそっちゃうぞー」
小声で呟きながらため息をついた。
すると瞳を開いて「おれ、襲われちゃうの?」なんて笑って言う。
なんだ、起きてたんですかって呟くと、うんと小さく答えた。
「香穂ちゃん・・・」
「わかってますって。一ヶ月待ってます。そうしたら高校の方のオケ部にも顔、出して下さいよ」
「うん。絶対に行くから!」
「王崎先輩と?」
「多分ね」
「待ってます」
「うん・・・・・・」
別に根性の別れじゃないのに、こんなにも切なくなるのはなぜなんだろう。
たったの一ヶ月。
されど、一ヶ月。
動き始めた時間の針が恨めしいほど早く感じるのは、多分気のせい。