缶チューハイ







「あー、もう。ムカツクムカツクーっ!!」
そう言ってぐいっと缶の中身を飲み干した。
少し苦味があって甘酸っぱい。
道路の傍にある自動販売機の光が眩しいくらいに照らすのを見ながら更にぐいっと喉へと押し込んだ。
事が起きたのは数分前。
ちょっとしたことで彼とケンカになって飛び出してきたところだった。
その勢いで近くのコンビニに立ち寄り、ジュースを買って歩きながら飲んでここまで来たのだ。
闇夜が自分の不安を誘うように、目の前に広がる。
わかってるわよ。
我侭だってことぐらい。
でも、仕方ないじゃない。
だって―――――。
頭の中でぐるぐると目まぐるしく動く言葉に少しうんざりしていた。
飛び出したのは、これ以上酷い言葉を言わないためだ。
醜いと、嫌な感情を出さないため。
きっといたらもっと我侭を言ってしまう。
だから。
そう思いながらじわっと瞳から光るものが溢れる。
何とか堪えてぼーっと座り込んでいるところで背後から声をかけられた。
「奈瀬っ!」
不意打ちだと思った瞬間、缶を持って立ち上がるとたっと走り出した。
「奈瀬!」
「来ないでよっ!」
彼の言葉の後にすぐ返す言葉は自分の想いとは裏腹の言葉。
違う。
こんなこと言いたいんじゃなくて。
速めていた足は少しずつゆっくりとした歩調へと戻り始めた。
そっと彼の息づかいが近づいてくる。
「奈瀬」
「何で、ついてくるの?来ないでって言ってるでしょ」
「ほっとけないだろ?」
「ほっとけばいいのに。伊角くん、変」
「だから」
そう言いかけて彼は私の腕を掴んだ。
どうしても正視できず、顔は横に逸らしたままで。
「奈瀬?」
「見ないでよ。今すっごく不細工な顔してるんだから」
ばかと小さな声で訴えるも、その声は彼に届いたのか届かなかったのかわからない。
腕が引っ張られ、彼の腕の中に収まる。
「ごめん、悪かった」
彼の謝罪の言葉にぎゅっと彼のシャツを掴む。
「……ずるい」
「え?」
「そうやって謝られたら、私謝れないじゃない」
「奈瀬……」
「バカ」
そう言って黙り込んだ。
ふんだ、伊角くんのバカ。
「……奈瀬、酒飲んだ?」
「は?」
突然的を得ない質問に顔を上げる。
「なんか飲んだだろ?」
そう言われて手に持っていた缶を見てみるとチューハイだったことに気づいた。
どうりで少し苦いと思った。
勢い余って買ったけれど、内容なんて関係なかったし。
「え、えーと……」
ひょいっと私が持っていたはずの缶を取ると声音を低くして彼は言った。
「奈瀬、未成年だろ。何でこんなもん」
「だって、何も考えずに買ったから今気づいたんだもん」
口を尖らせて訴えるも、彼はじっと見据えたまま。
「ちゃんと見ろよ」
「だって」
言葉を続けようかとも思ったけれど、続けたら続けたらまた同じことの繰り返しだってことはわかってたから、口を噤んだ。
「……そうさせたのは俺も責任あるしな。酔いを少し覚ましてから帰ろう」
表しぬけるような答えにえ?と思わず言葉に出した。
「そのまま返す訳にいかないだろ。残りは俺が飲むから」
「……はーい…」
彼との年の差を感じることはこう言うときだ。
未成年と成人の差。
断然オトナだ。
何だか置いてかれたような気分になる。
さっきだって、そうだった。
聞き分けのない子供の言い分を私は言った。
彼は困った顔をしていたのをはっきりと覚えてる。
俯いてた顔を急に上げられ、彼の顔が瞳の中に収まる。
「奈瀬はさ」
「?」
「背伸びなんてしなくて良いんだよ」
「え?」
「俺が、困るから」
「はぁ?」
彼の意図が読めず、首を傾げると少し笑い、言葉を継いだ。
「奈瀬が急に対等になるのは困るんだよ。対等になってもいいのは囲碁だけ」
ようやく彼の意図が読めて思わずぷっと吹き出す。
「笑うけどなぁ、俺も必死なんだよ。わかった?」
「ハイ、ワカリマシタ」
合図をするわけでもなく、二人とも同時に吹き出した。
さっきまで怒ってたのがバカみたい。
彼は缶チューハイをごくりと喉を鳴らして飲む。
「甘酸っぱい」
一言そう呟くと、また二人とも笑いが込み上げてきた。


闇夜に照らす光々とした自動販売機の光は。
二人の影を長くするだけ。
あ、と瞳が交差するのを見届けると。
二人の距離は縮まった。


多分、これから先もずっと同じ光景が繰り返されるかもしれない。
そう思うのは二人とも同じ――――。




END
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落ちなかったーと嘆いてた作品ですが、何気に好きなんです。
ごめんなさい、中途半端で(汗)加筆修正しようと思ったけど、やめた。
こんなもんです、私の性格。それにしても奈瀬、いつも文句言ってるな。
(言わせてるのは私か)