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【04.ことば(ナル麻衣)】(安心できる5題


あたしはやっぱりナルの何気ない言葉が好きなんだって思う。
ホント、自分の事に関しては無関心で、というか人に対しても無関心だけど。
そんなナルでもやっぱり告げる言葉にあたたかさとかそう言うのがあるわけで。
ちょっとした気遣いとか。
欲しい言葉とか。

何で、この人は私が欲しい言葉がわかっちゃうんだろう。

「どうした?」

「へ?」

思わず間抜けな声をもらしてあたしはナルを見つめる。
あぁ、ほら。
こういう風にあたしが色々と考えていると、やっぱり声をかけてれる。
今、一番声をかけて欲しい時に、ことばをくれるから。

「んー、ナルってすごいってちょっと思っただけ」

「そうか」

そうか・・・って、短すぎやしません?
ちょっと今言った言葉前言撤回。
やっぱり、ナルはナルだ。
あたしははぁって一つため息をついて、もう一度ナルを見つめる。
やっぱりこの人にことばを求める方が間違ってるんだけどさ。
でも、タイミングがいい時は本当にいいんだよ?

「麻衣」

「ほえ?」

「・・・・・・寝るぞ」

「へ?いいの?」

「あぁ」

パタンと本を閉じて、ソファから腰を上げるナルを見上げる。
あたしは、ちょっとだけ嬉しくなって立ち上がった。
そう、一人で寝るのがちょっとだけ寂しかっただけ。

「淋しかったんだろう?」

こくりと頭を縦に振って答える。
やっぱり、訂正。
ナルはやっぱりちょっとだけ、すごいかも。
なんてこと考えながらあたしはナルの後ろを追いかけて、寝室へと足を運んだ。

そんないつもの日常のそんなヒトコマ。








【遺伝子が伝えるもの(ナル麻衣)】

サクラが咲いて、散ってゆく。
それは必ず訪れる季節の流れ。


「あ、桜の花びら」

思わずその鳶色の瞳が捉えたのはピンク色の花びら。
漆黒の瞳はその横顔を見つめながら一つ息を吐いて呟いた。

「・・・・・・飽きないな」

その前の日も、桜が咲いた日からずっとその言葉を聞いているような気がしてならない。
いい加減耳にタコができるぐらい聞き慣れた言葉に黒髪の青年は肩を透かした。

「飽きないよー。だって日本人だもん」

どんな理屈だと言わんばかりの顔をしている端正な顔の持ち主に対して、栗色の髪の毛を揺らした少女は答えた。

「日本人はね、桜の花が好きなんだよ。ずっと昔っからね」

「そう」

「そうなの。仕方ないんだよ。遺伝子がそう伝えてるの」

珍しく少女の口から難しい言葉が飛び出して、くす、と漆黒の瞳は笑う。
鳶色の瞳はそれを逃すはずはなく、むしろ頬を膨らませて唇を尖らせた。

「あ、笑ったな! 今馬鹿にしたでしょ?」

「別に」

「ほら、笑ってるー!悪かったな!本当のことなんだもん」

「別に悪いとは言ってない」

「顔に書いてる」

きりがないケンカは暫く続く。それはいつも見慣れた光景。
風が窓の外から流れ、桜の花びらは部屋の中で静かに舞っていた。







【1.花と手紙(ナル麻衣)】花とセットで贈る5のお題


手紙に添えられた花を見つめ、谷山麻衣は思わず顔を綻ばせた。
それは届けられた花束が短い物語を綴る。


少し前に受けた依頼のお礼の手紙、そしてそこにあるのは花束だった。
最初それを見た時、麻衣は驚いた。だが、宛名を見てすぐに思い至る。
依頼主が育てていた花だと言うことに気づいた麻衣は、依頼主の気遣いに目を細めた。
花が好きで、それ故に花を育て、それを出荷しているのだと言っていた依頼人。
花は優しく咲き誇る傍で事件は起きた。
その時だった。
麻衣が依頼人と話をしている時、本当に花が好きなんだなと言うことに気づいたのは。
好きな色を言った麻衣の言葉通り、色はとても明るく、
そして大切に育てられたのであろう花が麻衣の顔を覗き込む。

『本当にどうもありがとうございました』

添えられた手紙の最後の文面に麻衣はゆっくりと指で触れる。
そんな様子を見つめていたのはこのオフィスの主であるナルこと渋谷一也、
またの名をオリヴァー・デイビスだった。
飽きもせずそれを見つめる麻衣に一つ息を吐いてナルは言う。

「そんなに気に入ったのなら花瓶でも買いに行け」

「え? いいの?」

「そうしたかったんだろう」

「そうだけど・・・・・・」

揺らぐ瞳にナルはもう一度ため息をついた。

「いい。ただし早く帰って来い」

「ホント? ありがとう、ナル!」

満面の笑みで返す麻衣にナルは肩を透かして答える。
嬉しそうにオフィスを後にする麻衣の後姿を見つめると、ナルはテーブルの上に置かれた花束を見遣った。
麻衣が嬉しそうにしていた花。
その花の花言葉は『無邪気』や『爽やか』、『信頼』や『絆』を意味する。

『あたし、オレンジ色のバラがいいなぁ』

意味など知らず言ったのだろうことはナルとてわかっていた。
オレンジ色のバラと添えられた白のかすみ草がやさしく包まれ、ナルを見つめる。

「悪い選択肢ではないな」

あいつにしては上出来だ、と小さく呟いたナルの真意は否か。
このバラの花言葉の意味を麻衣が知るのはまだ先のこと。








【3.はじまりの歌鳴り響いて(ナル麻衣)】


ゴーン、ゴーンと鳴り響くのは鐘の音。
ああ、そうか、今あたしは一番幸せな花嫁だからだ。

「麻衣」

そっと耳元で囁くナルの声は甘くてとろけそうで、思わず頬を綻ばす。

「麻衣」

もう一度紡いだ声に「なぁに」と答えると突然ぴしゃりと頬を叩かれた。
はっとすると瞳がゆっくりとあたりを見回す。

「いつまで寝てる気だ」

溜息にも似た声が頭上から降ってきて、思わず麻衣は顔を顰めた。
そうだよなぁ、と一人盛大な溜息を吐く。

「随分と幸せそうな夢を見てたみたいですね、タニヤマさん」

「うう・・・・・・現実は甘くないか・・・」

「・・・どういう意味だ」

「そのまんまだよーだ」

ベッドに寝転がりながら麻衣は身体を起こした。まだ気だるさが残り、思わず大きな欠伸をする。
考えてみれば昨日は本を読んでいる最中にいつの間にか寝てしまっていたらしい。
でも、ベッドの傍に本はなかったところを見ると、隣で寝るナルがそれを奪ったことは容易に想像できた。

「寝ながら本を読むなら、寝る前に本を仕舞え」

「はーい」

ああ、これがナルだよなぁと溜息を吐く麻衣はぼんやりと呟く。

「随分と楽しそうな夢を見ていたんだな」

「あー・・・うん。そうかも。鐘が鳴っててね、私が・・・・・・」

言いかけたところで言葉を閉じる。それ以上言ってもナルが困るような気がしたから。

「その先は、どうしたんだ?」

「いや、何でもないよ」

言いよどんだ麻衣にナルはくい、と麻衣の顔を上げた。麻衣は「ほえ?」と間抜けな声を挙げる。

「鐘の音か。それで、お前は何をしてたんだ?」

「いや、あの、その・・・・・・」

「お前の夢を言い当ててみようか?鐘の音が聞こえて、お前はウェディングドレスを着ていたんだろう?」

「何で、それ・・・・・・!」

思わず言い当てられて顔を真っ赤に染め上げると、にっと口の端を挙げたナルが麻衣の唇を奪う。

「誓いのキス、だったらどうする?」

「えぇ!?」

盛大に驚く麻衣にナルは小さな溜息を吐き、ベッドの傍に置いてある本を指差した。
それは麻衣が読んでいた恋愛小説で、その話の最後は。

「あ・・・・・・」

「夢とは願望が映す鏡って言うからな。何がお望みだったんでしょうか」

「うう・・・・・・ナルの意地悪」

困り顔の麻衣にもう一度キスを落とすと一言言い置く。

「もう起きろ。今日は出かけるんだろ」

「あ、うん。起きる!」

慌てて支度を始める麻衣を見つめ、ぽん、とナルは頭を軽く叩いた。
麻衣は「?」と首を傾げてナルを見つめる。

「まぁ、悪くない夢だろ」

一言呟いて部屋を後にした。一人取り残された麻衣だけが薄く眉間に皺を寄せてナルの背中を見つめている。
はじまりの歌が鳴り響くのはあと数年後。
本当の鐘の音は夢で聴いた音よりもずっと大きくて、響いていることを麻衣は知ることになる。









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