しとしとと雨が降りしきる夜。
ライブの打ち上げを終えて帰宅の最中、自分の中の体温が低くなり始めているのを、感じていた。
…やべぇな…
自分の家まで、ハッキリいって保てる自信が無い。
ライブの最中から、どこか調子がおかしいのは感じていた。
ちょっとばかり感じる悪寒。
いつもの感じるものとは違う寒さ。
息をするのが少しばかり苦しかった。
あと少しと思いながら、やっとのことで帰宅する。
だが、ベッドの寸前で体力の限界を感じていた。
無造作にジャケットのポケットからケータイを取り出す。
プルルル……
もう夜遅い。
相手は出るだろうか?
そんなことを頭に浮かべては消えていった。
「はい、もしもし?」
相手の女性は、不信気に電話を取った様子。
「……綾子か?」
「どうしたのよ?こんな夜中に」
気づいたらもう時計の針は1時を回っていた。
「…はぁ。…ごめん、綾子……俺……」
もう体力の限界だ、と思った時、ふっと目の前が真っ暗になった。
ガタンッ。
意識は消え、床に倒れた。
「ちょっ?滝川?ねぇ、返事しなさいよ?ねぇっって!!」
受話器の外で叫ぶ声を遠くに感じながら、闇の奥底へと沈んでいった。
冷たい雨の降りしきる夜。 一人酒を呑みながら、女は思った。
今ごろ彼はどうしているのだろう?と。
…ふん。
自分らしくもない。
心の中で自嘲する。
ぼんやりと雑誌を眺めながら、次の一杯を飲もうとした時、突然ケータイが鳴り出した。
”滝川”とケータイの表示。
「はい、もしもし?」
電話に出ると彼は少し息苦しそうな声で自分の名前を呼んだ。
「……綾子か?」
様子がおかしい。
そう、自分の頭が直感した。
「どうしたのよ?こんな夜中に」
時計の針は1時を回っている。
いつもの彼なら、こんな時間に電話を掛けない。
「…はぁ。…ごめん、綾子……俺……」
そういうと突然、ガタンと大きな音が受話器の向こうから聞こえた。
何事かと思い、必死で名前を呼ぶ。
「ちょっ?滝川?ねぇ、返事しなさいよ?ねぇっって!!」
どうやら、滝川に何か起こったようだ。
クローゼットを開け、コートを取り出し、綾子はカバンを持って家を後にした。
何度か行ったことのある滝川の部屋。
その時は大抵何人か一緒にいる。
だが、今日は一人。
少し酒の回った頭で、記憶を辿り必死で走った。
大通でタクシーを捕まえ、行き先を告げる。
少し落ち着いたところで、自分が傘も差さずに家を出てきたことに苦笑いをする。
いつもの私らしくない…そう思いながら、窓の外を見ていた。
しばらくしたところで、目的地に到着した。
お金を払い、彼の部屋へ走る。
部屋の前まで来ると、鍵が開いてることを確かめ、中に入っていった。
「滝川?ねぇ?どこ?」
呼びかけても返ってこない返事。
恐る恐る奥まで入っていくと、ベッドの手前で倒れている滝川に気づいた。
「滝川!?」 慌てて、彼の元へと寄る。
顔をぴちぴち叩いていると、あることに気づいた。
…体は冷たいのに、頬とかが熱い……。
―――風邪か。
そう思ったら、少し気が抜けた。
そして、こんなことを思っている自分に呆れる。
心底良かった…と。
彼を何とか支えてベッドまで連れて行き、寝かせた。
その間、買出しに出かけ、戻るとお粥を作ったり、玉子酒を作った。
部屋を見渡すと、少し汚い。
部屋の掃除をしながら、猫の梅吉の相手をしてやっていた。
そうしているうちに、朝日が昇る。
「…もう、朝か……」
ぼんやりと窓の外を眺めると、いつの間にか雨も止んでいた。
だんだんと睡魔に襲われ始めていた。
滝川の頭に置いてあるタオルを代えて、ベッドの横に座った。
駆けつけた時よりも、顔色はずっと良い。
滝川の顔を眺めながら、自分が小さい時に風邪を引いた時のことを思い出した。
確か母がずっと手を握ってくれていた。
その握った手がとても暖かくてホッとしたこと。
思い出すと、まだ起きてないからいいかと思ってそっと滝川の手を握った。
そのまま、自分も深い眠りのそこへと沈んでいった。
朝日が昇り、だいぶ日が高くなった頃、青年は目を覚ました。
……あれ?俺どうしたんだっけ?
少し熱い頭の中でぼんやりと天井を見つめ、記憶を辿る。
そして、自分の手に何かが握られていることに気づいた。
と、同時にベッドの横にいる人の存在に気づいた。
……綾子?何で……。
朦朧とした頭で昨日の記憶を辿る。
そっか、綾子に電話してる最中に倒れたのか……。
気持ちよさそうに寝ている綾子を見て、ふっと笑う。
そういや、こんな一面もあるんだよな……。
いつもはつっぱていて、頼もしいお姉さんと言う感じだが、今の綾子は違っていた。
こんな綾子をかわいいなとも思う自分に笑いが込み上げてくる。
ずっと握られている手はとても暖かく、心地の良いものだった。
あったけーな、綾子の手……。
ぼんやりと綾子を見つめながらそう思っていた。
しばらくして、握られていた手がピクっと動いた。
綾子が起きたらしい。
「……よぉ。おはよーさん」
ぼーっとしたままの顔で綾子がじっと見る。
それからはっとして自分の今の状況に気づいたらしい。
「おはよって、ちょっと風邪大丈夫?熱は?」
まじまじと俺の顔を見つめ、額にのせていたタオルを触った。
「…まぁ、あんまりあったかくないってことは、だいぶ熱下がったみたいね」
「そうみたいだな…」
「もう、本当に心臓止まるかと思ったわよ。勘弁してよね。あんなの」
「…すまん」
返す言葉もない。
「まぁ、いいわ。それよりもお腹空いたでしょ?お粥とか作ってあるから、持って来る」
そう綾子が立ち上がろうとした時、まだ手を握ったままだったことに気づいた。
気づいてから、いっきに顔を赤くさせる綾子。
彼女の柄じゃないことをしたのだから、当然だ。
「ちょっ…ねぇ、離してくれないと持って来れないんだけど」
「…まだいいじゃん。このまんまで」
「だけど……」
「綾子の手ってすげーあったかくて落ち着くんだ。だからもう少しだけこのまんまでいてくれない?」
俺の言葉に珍しく素直に頷き、立ち上がろうとしてた足を元に戻す。
「ねぇ」
「ん?」
「ホントにもうこんなことは止めてよね。風邪引いてるなら引いてるで、打ち上げぐらいは抜けてきなさいよ」
「わかった……」
「ホントにわかってる?麻衣にこんなこと知れたら、怒られるわよ」
そういわれて、真っ先に栗色の髪をしたあどけない笑顔の少女を思い浮かべる。
「ごもっともで」
しばらく経ってから、自分のお腹が鳴り出した。
ぷっとお互いに笑い、綾子が「じゃあ、持って来る」と言ってキッチンへと足を運ぶ。
数分してから、お粥と卵酒を持って戻ってきた。
湯気の上がるお粥。
綾子の料理は上手い。
これは自他共に認めることだ。
ベッドから起き上がり、お粥を少し冷ましてから口へ運ぶ。
「やっぱり、綾子の料理は美味いな」
「…ばか。そんなこと言ってる暇あったら、さっさと食べちゃいなさいよ」
少し頬を赤らめて照れる綾子をかわいいと思った。
お粥を食べ、卵酒を飲み干し食事を終える。
「ごちそうさまでした」
ぺこりと頭を下げた。
「どういたしまして」
そういうと綾子は食器を下げ、台所で洗い始める。
水がざあっと流れ、食器がカチャカチャと鳴る音を聞いていると、昔お袋が台所に立っていた時の姿を思い出した。
…もう何年昔のことだっけか?
ベッドの中でぼんやりと記憶を辿っていた。
母の後姿がぼんやりと頭の中に浮かぶ。
綾子の後姿も、何となく母親に似てるように感じた。
色んな思いを巡らしているうちに綾子が戻ってくる。
「終わったけど、どうする?もう一人で大丈夫??」
綾子が心配そうに顔を覗く。
「…んー…今日はいてくんない?」
珍しく弱い返事をする。
「…わかった」
そういうと綾子は再びベッドの前に座る。
それを見て、なぜかホッとした。
何だろう?この感じ。
目の前にいる綾子をじっと見つめる。
…綾子って、こう考えるとすげー女の鏡って感じだよな……。
家事全般こなすし、面倒見もいいし。
なんで、コイツ……。
「…なぁ」
「何よ」
「お前って何で誰とも付き合ってねーの?」
きょとんとした顔で見る綾子。
「…悪かったわね。誰とも付き合ってなくて」
少し機嫌を悪くした綾子はそっぽを向いた。
「そういうことじゃなくてさ…」
「じゃあ、何だって言うのよ?」
少し刺のある返事をする。
「俺と付き合わない?」
と、自分で言ってから、自分でも驚いた。
綾子に至っては、こっちを向き、びっくりした顔をしている。
当然だ。
自分自身、何でこんな言葉を言ったのか不思議だった。
でも、何も思わず言ったと言うことはもしかすると本心なのだろうとも思った。
「…いいわよ」
少し小さな声で返事が返ってきた。
綾子は少し顔を赤くする。
「お前のそういうとこかわいー」
ニヤニヤしながら俺が言うと、綾子はすぐさま。
「バカ」 と返した。
だけどすこしばかり綾子の顔は笑っていた。
窓の外はまぶしいくらいの快晴。
昨日とは違う天気。
昨日とは少し違う自分。
部屋には、昨日とは気持ちの違う二人の姿がそこにあった………。*あとがきもとい言い訳*
ぼーさんv綾子の話を突発的に書いてしまいました。
しかも何気に綾子少し素直……でいいのか?? 仕事してる最中に急に浮かんだ話です。
元からぼーさんv綾子は好きだったし。 そんなわけでいきなり書いてしまった小説、如何でしょうか?
まだまだボキャブラリーや言葉の使いまわしがてんでなってないので、そこら辺はご勘弁。
今度は安原v真砂子でも書いてみたいなぁ…なんてムボーなことを考えている、私でした。
(だったら、オリジナルの方、進めなさいよって感じですね^^;)