【街の真ん中で(和谷しげ→スミナセ】
「伊角くんって、何でいつもそうなわけ?」
「そう言われても……」
「もう、こう言う時ははっきりしなさいよ!!」
「だから奈瀬が決めて良いって。俺は何でもいいし」
「それじゃ困るから言ってるんじゃない」
聞き覚えのある声が聞こえたと思って振り返った。
街中で大声を出してケンカをする一組のカップル。
それは紛れもなく知っている人物で、おいおいと思わず声をかけたくなった。
奈瀬明日美に伊角慎一郎、同じ碁の世界で戦う仲間。
それにしてもあの二人いつもケンカしてるなぁ。
腕を組んでじーっと見ていると隣の彼女はこう呟いた。
「伊角さんって絶対尻に叱れるタイプね」
そう言うしげ子ちゃんもそうだと思うよとは口には言えず。
ただただ苦笑いするしかない。
「さ、和谷くん。不二家のショートケーキ食べに行こう!」
さわやかすぎるくらいの笑顔に、一瞬引くも、どこか憎めなくて。
あーあ、これじゃあ伊角さんのこと言えないよなぁと呟く自分がいた。
了(に続く)
【立場が違えども(スミナセ→和谷しげ)】
「あ、あれ和谷じゃない?」
口ゲンカをしていたはずの彼女の口からそんな言葉がこぼれた。
「え? 和谷?」
「うん。ほら、隣に女の子連れて――…ってあれしげ子ちゃんよ」
「あ、ほんとだ」
意外だわー感心してるのか否か、そんな口調で視線移しながら。
さっきの勢いはどこへやら。
「へぇ、これは和谷にちゃんと聞かなきゃねぇ」
「ちゃんとって?」
「付き合ってるかどうか」
スパッと切れのいい言葉に思わず口を噤んだ。
「奈瀬」
「冗談よ、冗談」
ケラケラと笑いながら、でもとすぐに言葉を口にして。
「和谷が女の子連れて歩いてるなんて意外だったから」
しかもしげ子ちゃんとよ? そんな揶揄を含めてぶつぶつ言った。
多分、さっきの口ゲンカの原因なんてきっともう蚊帳の外だ。
「そうだな。俺もちょっとびっくり」
「でしょう?」
くすくすと彼女は笑うと自分もつられて笑う。
コロコロと変わる表情に思わず口に出せない言葉を心の中で呟いた。
了
【空に浮かんだ(スミナセ)】
ふわり、と浮かんだような心地になる。
それは、あなたが隣にいるせいかなと思うけど、
そんな言葉絶対に言ってやらない。
「もう、一人で寝こけないでよね」
一人でため息をつきながら、そよそよと流れる風に前髪を揺らして。
気持ちよさそうな寝顔を見せる彼に対して呟いた。
疲れているのもわかる。
だからたまには外でひなたぼっこしよ、と言ったのが運のツキ。
「私一人じゃつまらないじゃない」
口を尖らせてこつんと頬に手の甲を当てても起きる様子がなくて。
何でこんなマイペースな人好きになっちゃったんだろと心の中で呟く。
そんなこと言ってもきりがないのに。
「好きになった方が負けって言うけど、ホントだわ」
くすりと笑みをこぼして私は彼の頬を撫でた。
さらさらした髪の毛が時折風に揺れる。
ホント、気持ちよさそうなんだから。
「まぁ、仕方ない。もう少しだけ寝かせてあげるか」
ため息つきながらもどこかほっと安堵している自分が居て。
こういう顔を見せてくれているのは許してくれているからとわかっているから。
少しだけ特別なのが嬉しかった。
「起きたらうんと美味しいもの食べさせてもらうんだから」
だから、覚悟してよ、伊角くん。
今日もあたたかい日差しが優しく包み込む――――
終