「なぁ、怒らせたら怖い人っている?」
突然の和谷の質問に思わず皆が注目する。
質問した本人は何も考えてなかったのか、ギョッとした顔になった。
「何、和谷は怒らせたら怖い人でもいるのか?」
伊角の質問にあはははと和谷は苦笑いを浮かべていた。
「和谷ぁ、お前が一番怒らせたら怖いのは師匠だろ?」
進藤は和谷の質問を聞きつつ、碁盤を睨めっこしながら答える。
「それはそうだけど・・・・・・」
和谷らしくもない歯切れの悪い答えに、碁盤を睨めっこしていた進藤が顔を上げて和谷を見つめた。
それは皆も同様らしく、頭にはクエスチョンマークさえ浮かべている。
「え? 他にいるのか?」
進藤はびっくりした顔でみんなの顔を見た。皆も知らないと首を振るだけ。
「うーん、他にいるとしたら・・・・・・あ、奈瀬か?」
「そんな、伊角さんじゃあるまいし」
本田の答えに今度はすかさず和谷が突っ込む。
そう言った和谷の答えに一同、一瞬きょとんとさせた後、どっと笑いが起きた。
「あははは。それは言えてるー」
「そんなに笑ったら悪いって」
「まぁ、わからなくもないけどね」
「だって本当のことだろー?」
三者三様と言う言葉があるとおり、口々にそれぞれの意見を言った。
心底お腹痛そうに笑うのは進藤で、笑いを噛み殺してるのは和谷と小宮と本田で、いつもはクールな越智が苦笑いをしている。
当の本人はと言うと・・・・・・少し釈然としない顔をしていた。
「あのなぁ・・・・・・」
と、言いかけたところで伊角の顔が引きつっているのを皆は訝しげに見つめた。
伊角の視線の先を追うと・・・・・・。
「げっ! 奈瀬・・・・・・」
誰がその言葉を口にしたかは定かではないが、そこには奈瀬明日美が立っているのが皆の目に確認できた。
コンビニの袋を抱えて、の登場に部屋の温度は一気に下がる。
奈瀬の手が俄かに震えているのが見えたが、この際もうどうでもいいと誰しも思っていた。
「ふーん、そう・・・・・・へぇ・・・・・・」
「あ、奈瀬。これには・・・・・・」
慌てて伊角が言葉を続けるも奈瀬の一言で黙る。
「伊角くん!」
「はい!」
「ちょっと、外で話しようよ」
にっこりと満面の笑みで奈瀬は言う。否応無しにその言葉に伊角が頷き、二人揃って外へと足を運んだ。
パタンとドアが閉まる。
その音に誰もがほっと息を吐いたとか。
一方、奈瀬と伊角は――――。
「いーすーみーくーん?」
「いや、奈瀬これには、理由があって・・・・・・」
「知ってるよ。途中からだけど聞いてたもん」
奈瀬のあっさりと答える様に伊角は一瞬ぽかんとした顔を見せた。
「じゃあ、何で?」
「んー、聞いてみたかったの。私、怒ると怖い?」
何ともストレートな問いに伊角はうっと言葉を詰まらせる。
「・・・・・・そりゃあ、怖いけど・・・・・・」
こんな時素直にしかいえない彼自身の性格を見抜いての奈瀬からの質問。
「ふーん・・・・・・正直に答えたか。まぁ、伊角くんは正直にしかいえないだろうけど」
くすっと笑って奈瀬は言う。じゃあ、と今度は伊角が質問してみた。
「じゃあ、奈瀬はどうなんだよ?」
「私? そうだなぁ・・・伊角くんも怒ったら怖いよ? だって、無口になるでしょ? 何考えてるかわからなくなるもん」
こちらも素直に白状する。そうか、俺怒ると怖いんだなんて事ぶつぶつと伊角は言いながら奈瀬を見つめた。
「まぁ、いっか。お互い様ってことで」
ぺろっと舌を出して、奈瀬は笑顔を見せた。
その笑顔につられて伊角もまた、笑った。
「で、結局和谷が怖いと思ってるのは誰なんだよ」
二人が戻って来ると進藤がまた質問する。
奈瀬は「あら決まってるじゃない」とあっさりと答えた。
「え?誰?」
伊角は奈瀬に質問すると、くすくす笑いながら奈瀬は答える。
「でしょう?和谷。しげ子ちゃんよね」
見抜いた答えに和谷は恨みがましく奈瀬を見つめた。
ああ、そっかと伊角の呟く声に進藤もまた納得する。
「そのとおりだよ」
ちょっとふてくされたような顔をして、和谷は碁盤を見つめた。
奈瀬はそんな和谷を見てまた笑い、他の皆も苦笑いをして和谷を見つめていた。
結局、和谷もそうだが、伊角も彼女には頭が上がらないらしいことだけは皆納得していた。
終