03. Happy


ほら、笑顔で言おう。




大好きな人に、いつも素直に言えないから。



だから。





―――――Happy Birthday! 伊角くん











カレンダーが次の月を記すと同時に、この年を初めて迎えたその日に印をつけた赤のマジックペンが示すもの。
4月18日に記した赤の丸。
自分の記念日でもなく、家族の記念日でもなく。
大事な人の生まれた日。
机の上には昨日悩んだ挙句に買ったプレゼントの箱が置かれている。
そこだけなんだか特別な空間、と思うのは今日という日を待ちわびていたからだ。



好きという気持ちを自覚してからの初めての誕生日。
もともと彼にはそういう自覚はなく、多分今回だって忘れてるに決まってる。
そう言いきれるのは毎回毎回私たちに言われないと気づかないせいでもあった。
ホント、こういうことには疎いんだよなぁと一つため息をついて駅に降り立った。
棋院に着けば、多分会える。多分というのは彼はプロで私は院生だから。
少しドキドキと高鳴る鼓動の音が痒くも感じ、またどこかで楽しんでる自分に気づいた。
鞄の中に入ってるプレゼントは私が動くたびに同じ方向に動いた。
中身は、使えるようにと考えた後に購入した時計。
シンプルな表示でデザインもシックだから、これなら合うだろうと少し奮発して買ってみた代物。
すぐに身に付けてもらえるのだろうかと思ったら、またドキドキという鼓動は早まる。
多分、この先もこの鼓動は変わらない。



駅からひょこっと顔を出して出口の先に着くと、もうすぐで棋院だった。
んーと背伸びをして身体を伸ばす。

「あれ?奈瀬?」

背後から降って湧いて出たように一言。何だ一緒の電車だったのかと笑うのは自分の想い人。
「それはこっちのセリフ。一緒の電車だったんだね」
「みたいだな」
くすくすと笑う彼を見ていると、たとえからかわれてるとわかっていても許せてしまう。でも、正直悔しいのもあるけど。
でも、今はそんなの関係ない。多分、それは年の差。
上目遣いでじーっと見ていたら彼は訝しげな瞳をこちらに向けた。
「奈瀬?」
「……今日は何の日?」
唐突に、でも少し考えればわかるだろうと見当つけて尋ねる。
「え?何の日って……」
瞳はいつの間にか空を仰いで考えている。
しばらく経った後に首を傾げて、尋ねる。

「なんかあったっけ?」

彼は本当に自分の誕生日を忘れているらしく、その答えにらしいと言えばらしいなと苦笑いするしかない。

「……本当に忘れてる……」

自分のコトなのにどうしてこうも忘れるのか。はぁっとため息をついた。

「……Happy Birthday」

小さく呟かれたそれに彼の目は大きく見張る。

「あ、あー…そうか。俺の誕生日だ」

今度こそ思い出したらいい。そうかそうかと口々に続く。


「ハッピーバースディ、伊角くん」


再度繰り返す言葉。彼が生まれてきたという証明する日。
こうして出会えたこと、嬉しいから。
だから、言葉は少ないけれど感謝の意味を込めて言う。
おめでとう、と。
生まれてきてくれて、こうやって出会って、こうしてしゃべって。
―――ありがとう。


「ありがとう、奈瀬」


俺でも忘れてたのになぁと呟くも顔は少し嬉しそうだった。
その表情を見て少し安堵の色を浮かべる。


「おめでとう、だからこれ」


差し出す箱に、え? いいの? と声は弾んでいた。
箱を開けると覗えたのは自分が選んできたシックな時計。


「―――ありがとう、奈瀬」


少しばかり綻んだ笑顔に、つられて笑う。どうして、こうこうやって和ませるのが上手いのか。
そして彼の傍にいるととても心地良くて、一息できる。
あなたと会えて、本当に良かったと思う。
だから、感謝の意味も込めて言おう。




誕生日、おめでとう。




伊角くんにとって幸せな一年になりますように。



そう願ってやまない自分の想いは、まだ心の奥に閉じ込めたままで。





いつか来るべき時まで秘めておく。


――――Happy Birthday  伊角くん


「あ、私の時は真心のこもったものヨロシクね」

一言付け加えるのを忘れないように言うと。
くすっと笑って、「期待してて」と静かに呟いた。





*あとがき*
ぎりぎり伊角さんの誕生日に間に合ったこの話。少々加筆修正。
大して変わってないのは、私の文才がないからです(へたり)
おめでとー、私と同じだよー(何がという突っ込みはなしです、ええ)
仲間仲間♪(そんなとこ喜んでどーすんのよ)
次は奈瀬の誕生日ですねー。
お気に入りのサイトさんが伊角さんの誕生日企画やってるの観てほくほくです。
あー5月までは幸せだな、私♪