真面目な顔をしてそう言った進藤の顔は、ある意味すごく見ものだったなと思う。
「あれ、進藤」
「あ、奈瀬・・・・・・と、伊角さん」
たまたま休みの日に出くわした進藤を見つけて、思わず声をかけた。
「と、は余計だよ」
苦笑いしつつも伊角くんは相変わらずの笑顔で返すのを私は横目で見ていた。
「何でここにいるの?」
「んー、待ち合わせ。アイツ、今日友達と出かけてるんだ。で、その後俺と会う約束してるの」
「そっか。『あかりちゃん』か」
ニヤニヤと笑いながら進藤を見遣ると、いささか頬に朱が走るのが見えた。
あ、照れてる。
「いいだろ、そんなこと。奈瀬も伊角さんと何やってるのさ」
進藤は少々唇を尖らせて質問し返す。そう言うところがガキなんだってば。
「友達と遊びに行こうと思ったんだけど、生憎予定が入ってたのよ。で、伊角くんに声をかけたわけ」
「ふぅーん」
「何よ、何か言いたそうね。その顔は」
そう言って私は進藤の頬を突っぱねった。
いひゃいってと進藤は顔を崩して私に訴える。それを苦笑いで伊角くんは見ているのを横目で確認できた。
「まぁ、奈瀬。そろそろ進藤を放してやれよ。かわいそうだろ」
「そうだけど、ねぇ・・・・・・」
ちらりと見ると、こくこく頷く進藤がいて私は思わずくすっと笑う。
それを不服そうに進藤が見ていた。
「まぁ、いっか」
そう言って手を離すと、「いてーなぁ・・・」と弱々しい声で呟きながら、じっと私を見て訴えていた。
あえてそれを無視して話題を変える。
「進藤、待ち合わせって何時なわけ?」
ふと時計を見ながら進藤が「三時だけど?」と答えた。
私の時計を見ると、三時をもう十分ほど進んだことを長針が示している。
「あ」
と小さく言うのは伊角くんで、私の赤いベルトのついた時計をまじまじと見ていた。
「・・・・十分遅刻、だな。あかりのやつ、何やってるんだよ」
いつも文句言うくせにとぶつぶつと言っている進藤がなんだか可笑しくて、笑いを堪えながら黙っていた。
それは伊角くんも同様で、口に手をあてて誤魔化している。
何だかんだ言ってそれが微笑ましくもあるのだけど。
数分後、ようやっと現れるその彼女の影を見つけて、思わず進藤の顔が複雑にもぱあっと明るくなったのが見えた。
「彼女のこと、怒らないでやりなさいよ。いつも遅刻してるのは進藤なんだから」
私がそう言うと、うるせーよと呟いて、その進藤の頭を伊角くんがぽんと撫でる。
くすっと笑って、進藤を見ていた。
「進藤」
「わーってるって。おこらねーよ。ったく、奈瀬も伊角さんも余計なんだから」
「進藤?」
私がずいっと顔を前に出して、覗き込む。
一瞬だけ、進藤の体が半歩下がった。
そうして俯き気味でぽつりとつぶやく声が聞こえる。
「・・・・・・わかってる。あいつはいいの」
その言葉に含まれる意味はわかるから、敢えて何も突っ込まず、「そうね」と同意をする。
「ヒカル――――っ!」
叫んで駆け込んでくる彼女の姿を捉え、そうして私も手を振った。
「あかりちゃん!」
「あ、奈瀬さんっ!伊角さん!」
おめかしして来たのだろう、少しフェミニンなワンピースを着て、私たちの前に立ち止まった。
「ごめんね、ヒカル」
両手を重ねて、謝ると上目遣いに進藤を見た。
「いいって。気にするなよ」
「でも・・・・・・」
「いいんだって。ほら、行くぞ」
ぶっきらぼうにも、手を差し出して、彼女の手を待った。
おず・・・と一瞬迷うもその手を重ねて握る。
「じゃあな。奈瀬、伊角さん」
「うん、またな」
「すいません、お二人とも・・・」
「いいのよ。私たちはちょっと進藤をからかって遊んでただけなんだから」
くすくすと笑ってそう答えると少しだけ顔を綻ばせて「そうですか」と呟いた。
「じゃあ」
そう言って進藤達は私達から遠ざかっていく。
その背中を見つめて、伊角くんがぽつり、呟いた。
「『あいつはいいの』、か」
「何、羨ましくなった?」
そう言うと、んーと言って答えを探しているのが手に取るようにわかった。
「無条件で許せる相手っていいよなって思っただけだよ」
呟く言葉に一瞬だけ詰まらせた。
私は、あなたにとってそんな存在になれてるかしら?
問おうと口だけ動くも、その言葉は飲み込まれた。
少しだけ、聞くのがこわい。
でも―――――・・・・・・。
「私はその対象になれてる?」
ドキドキしながら問うと、ゆっくりとこちらを向いてそっと私の頬に触れる。
「そうだな」
そう、優しく告げる言葉に私は何も言えなくなった。
「ありがと」
そう言うと触れる手が優しく包み込むのを感じて、そっと瞳を閉じた。
一方で、こちらの二人は。
「ヒカル、ごめんね」
「いいよ」
優しい言葉なんて言えないから、ぶっきらぼうに答えるしかない。
ひょこっと顔を前に覗かせて、俺の顔を見た。
その表情に一瞬、言葉を詰まらせる。
そんな無防備な顔するなよ。
そう言いたくても、素直になんて言えるわけない。
「・・・・・・あかりだから、お前だからいいんだ。許す」
ガラにもなく許しを告げるとあかりは頬を腕に擦りつけて。
「ん。ありがと、ヒカル」
くすっと笑みをこぼして、俺だけに見せる顔をして。
独占欲がいつの間にか心を占めていることには気づいていたけれど。
今さらこの気持ちは止まる術なんて持っていなかった。
ゆっくりとあかりの顔に近づけると、優しく唇に押し付ける。
空気が一瞬だけ、変わったような気がした。
あかりも嫌とも言わず、それに従う。
数秒後、やっとそれを離すと上目遣いで俺を見て、「バカ」と小さく呟いた。
終