お疲れさま

 


『お疲れさま』






そう、遠くで誰かが言っていたような気がして、思わず瞳を開いた。
うっすらと開いた瞳は眩しいくらいの光を受け止められず、思わずしかめっ面をする。
眉間に寄せられた皺が自分でもわかるくらい、その光は眩しかった。


「お疲れさま、ルル」


聞き慣れた声だった。
その声の主に覚えがあってルルーシュははっとする。
自分の目の前にいたのは、数人の自分にとって大切な人たち。

「お疲れ様、ルルーシュ」

「兄さん、お疲れ様」

変わらない笑顔。
そして自分を見つめる瞳もまたあの時と変わらない。
優しい瞳がルルーシュの目の前で待っていた。

「シャーリー・・・ユフィ・・・ロロ・・・・・・」

かつて自分の腕の中で冷たくなった者達ばかり。
どうして、そう思いながら見つめていると、さらに笑みが深くなったシャーリーが一歩前に出た。

「待ってたよ、ルル」

その一言でようやく自分の置かれた立場を理解する。
ああ、そうか。
今ここにいる自分は。



「何だ、待っててくれたのか」

「うん、待ってた。ね、ロロ」

「もちろん、兄さんがいないと寂しいし」

「可愛いこと言うな。ユフィ、君もか?」

「ええ、ルルーシュを待っていたわ。ずっと見ていたのよ」

砂糖菓子のような可愛らしい笑みを浮かべて、あの時と何ら変わらないその瞳が告げる。
自分のしていたことをずっと、見つめていた。


「・・・・・・そうか」


「あなたが来る日を待っていたのは、あなたに言いたい言葉があったから」

「・・・・・・何を、言いたいんだ?」

ごくりとルルーシュは喉を鳴らす。
それは自分への非難なのか、それとも哀れみの言葉なのか。
どちらにしても、どう言われようとも覚悟はできていた。
自分が地獄の門を叩いた時から。




「たった一言よ。ねぇ?」


そうしてシャーリーやロロに目配せをするユフィを不思議だなと思いながら見つめる。
この三人がこうやって笑って、仲良さそうにしていることが。
あの世界では接点などなかったはずなのに。


「うん。一言言いたかった」

「そうだよ、兄さん。兄さんに言いたい言葉があるんだ」


そうして口を合わせて皆ルルーシュへと言葉を紡ぐ。





「おつかれさま」





「・・・・・・え?」

言われた言葉を理解できず、思わず小首を傾げながら三人へと視線を向ける。
そんなルルーシュの反応を最初からわかっていたのか、くすくすと笑いながら言葉を続けた。

「兄さん、すごい驚いてるね」

「いや、驚くだろ」

「なぁに、非難されると思ってたの、ルル」

「だって、俺は・・・・・・」

「あなたが悪いんじゃない、そうでしょう?」

きっぱりと言い放つユーフェミアにルルーシュの瞳が大きく開いた。
この瞳に宿っていたギアスの力によって、辛いことをさせてしまったのはユーフェミアだった。

「仕方のなかったことだわ。あの時にはあれ以外の道を選べなかった。私も、ルルーシュも」

「そうだよ。確かに悲しかったことも事実だけど、ルルのおかげで救われたこともあった。嬉しかったこともあった。それをなかったことになんてできないよ」

「ユフィ・・・シャーリー・・・・・・」

「僕は兄さんに出会えたことで嬉しいことも増えた。辛いこともあったけれど、でも良いんだ」

「ロロ・・・・・・」

「だから、兄さんが来た時は絶対に言いたいってそう思ってたんだ」

お疲れ様、その一言を。

「もう辛いことなんてないよ。あとはゆっくり見守ろう、ルル」

それは辛くも大変な現実という名の世界を。
残された者たちが、託した人たちが築く世界を皆で。




「そう、だな・・・・・・」


見守ろう、あの世界を。
残された者達の生きていく様を。
辛くも悲しい時代をもう作らずにすむ世界を、と。


『お疲れ様』



今度は自分がそう言って迎えてあげられるように。
その日をただじっと待ちわびてルルーシュは世界を見つめる。
大切な人たちとともに。







どんな形であれ、皆はルルを恨んでなんかいない、そう言いたかったのかもしれません。
ずっとルルを見守り、そしてここに来ることを待ちわびてるかもしれない、そんな発想から生まれた話です。そうだったらいいな、なんてちょっと思いながら。
そして今度はルルがスザクやナナリーを待ちわびてると良いよ、と思う今日この頃。
優しい時間はきっとここから始まるんだろうなと思って書いた話でした。