01. 女心と秋の空


長谷川は楽屋での沈黙が妙に気にかかっていた。
いつもなら斗真か風間、山下の誰かがしゃべっているから。
まぁ、それぞれマンガや雑誌を読んだりしているから仕方のないことだけど。
何とかこの静かな空間を打破すべくしゃべり始めた。



「ねぇ、誰か話してよ」



そう言うと皆顔を上げて、それぞれの顔を窺った。





「「「……………」」」





ふっとそれぞれまた視線を戻した。



「何でそこでそーなるんだよっ!!」



文句をいうが、皆無視だった。
いーよ、いつもそーだよと小声でぶつぶつと文句を言ってみる。
結局いつも俺がやられキャラなんだよな〜と思いながら。






長谷川が文句を言ってる横で三人ともやれやれとした顔で見合わせた。
何だかんだいって皆長谷川がかわいいのである。
三人の中でしゃべり始めたのは、トークの上手い風間だった。



「……じゃあこれ知ってるか?“変わりやすいのは女心と秋の空”って言葉」

「あ、知ってる」
最初に返したのは斗真。
「まぁ一応」
続いて山下。
「知ってる知ってる」
最後は長谷川。


「実はコレ、“変わりやすいのは男心と秋の空”だったんだ。知ってた?」


再び風間の問いに皆「知らない」と返した。
それを聞いて満足気味の風間はさらに説明を付け加える。

「昔一夫多妻だっただろ?平安時代なんて通い婚が一般的だったし。
妻は待てども夫は来ない…なんてざらだったんだ。
秋の空は男の心と同じように天気がころころ変わりやすいからつかめない……
と言うわけで男心と秋の空って言われてたんだよ」


そこまで言うと風間は一息ついた。
斗真達は「へー」とか「ふーん」とか言っていた。


「じゃあ何で“女心”に変わったわけ?」


斗真は不思議そうな顔をして尋ねた。
その言葉を待ってましたと言わんばかりの顔で風間は更に話を続けた。
それをじっと見ている長谷川と山下は興味津々な顔をして風間を見ている。


「時は大正時代。大正デモクラシーって言葉ぐらい知ってるよな?
大正時代、女性が表舞台に出てきたんだ。そこから男女が逆転した…と言われてるってわけ。
以来、“男心”から“女心”になったって言われてる」


そう言うと風間は周りを一瞥した。
三人とも感心しながら風間を見る。


「何かこうして聞くと風ポン先生みたい…」
「それ、言えてる」
長谷川と山下はそれぞれそんなコメントを述べた。
「まぁなーんて偉そうに説明したけど、実はこれテレビでたまたま見てたときに話してたことなんだよな」
とちょっと風間はぼやいた。
「でもすげーじゃん。それ聞いただけで覚えられるんだし」
斗真は尊敬の眼差しで風間を見ていた。
いつも突っ込んだり突っ込まれたりしてる連中なだけに、風間は違和感を覚えていた。
こうも褒められるとなんだか照れくさい。
と、言うよりも不気味だ。
でもあえてその一言は言わないで置く。
せっかく褒めてくれるんだし、そう言うときは黙ってその言葉を受け取ろうと思うのだ。


「“今は女性の時代”って言われてるじゃん。あれ確かに頷けるよね〜」

突然長谷川がコメントをする。
それを聞いた山下は「はぁ?」と声を上げた。
「何か真面目にコメントしてっし」
山下は尚も長谷川に突っ込んだ。
「悪い?何だよ、俺が少しでもまともな発言をするとすぐ突っかかる!!」
少しふてくされ、そっぽを向く長谷川。
それを見て斗真が笑う。
山下も笑った。
風間は苦笑をしている。
「ハセジュンもちゃんと勉強してるんだよ。なぁ、ハセジュン?」
ぷーんとそっぽを向いたままハセジュンは「まあね」と返した。



いつもの風景。
いつもの雰囲気。
どことなくほっとする自分達の居場所。
“変わりやすいのは男心と秋の空”かぁ……とひとり呟く山下。


――まぁ、変わらないものもあるけどね


なんてことを心の中で呟きながら、他の三人を眺めていた。
その顔は彼らの前でしか見せない笑顔……だった―――……。





*読んで頂きありがとうございました!