02. ナヤミゴト


珍しく遅刻して楽屋に到着した風間は、山下が眉間にしわを寄せて考え込む姿に驚いた。どうしたというのだろうか?
ふぅと一つため息をつき、山下の隣のイスに腰をかけた。

「どうしたんですか?山下さん」

問い掛けても「うーん」とか言っている。

「おーい?山下?」

ようやく二度目で気づいた。

「あ、風間くん。いたんだ」

オイ……いたんだはないだろ?と言いたくなったが、ここは一つ抑えた。
こんなにぼけーっとしてる山下は珍しい。

「どうしたんだよ。山下らしくない」

そう言うと山下は「俺らしくないねー……確かにそうだわ」と言って頷く。
またこんなに素直になる山下も珍しい。

「何、何かあった?斗真と何かあったとか?」

俺が問うと、“斗真”という言葉に反応した。
ケンカか?
俺が不思議そうに山下の横顔を眺めていると、山下は口を開いた。

「……斗真ってさ、ずるいよね」

ぼそっと呟く。
口を尖らせて言うその姿は数年前の山下と変わらない。

「はぁ?」

俺は山下の言ってる意味がわからず、間の抜けた返事をした。

「ずるいって、何がずるいわけ?」

俺の問いに山下は困った顔をする。

「だってさ、斗真って付き合い長いじゃん。なのに壁を感じるって言うか、ある程度の壁があってその壁を崩さないし。俺わかってるのに、斗真って頼ろうとしないしさぁ」

山下はぼやきながら持参したペットボトルのふたを開けた。

「そんなの今に始まったことじゃないじゃん」

俺の答えにふてくされながらも少し反論する。

「確かにそうなんだけどー。少しは頼れっての。肝心な時に限って自分で解決したがるし」

一気に言うと一口ペットボトルの中に入ってるお茶を飲んだ。
山下の思うことは自分自身も思っていたことだったなぁと思い巡らす。
B.I.Gの時もそうだ。
自分で解決しようとして、いっぱいいっぱいになっていた。
自分は受験生だったし、斗真の悩みを聞くことしかできなかった。

「確かにそうだよなぁ。斗真はいつもそう。人に迷惑かけないようにと思ってるんだけど、
ハタから見ればバレバレなんだよな。ギリギリまで自分だけで何でもやろうとするとするのは、斗真の長所でも短所でもあるんだけど」

俺は苦笑いして答えた。
山下は「そうなんだよ」と同意をする。

「そもそも何でそーゆー話になったわけ?」

俺の質問に山下はポツリポツリと話し始めた。

「…実はさ、この間学校にいた時にいつも元気な斗真がさ、おとなしかったわけ。
どうしたのかなぁと思って聞いてみたら『何でもない』の一点張り。おかしいと思って聞いてみたら『ずっと体がだるかった』って言ったんだよ。『風邪だと思うし、学校も終わったから帰る』って言ったから、『俺送るよ』って言ったら『いい』って言うんだ。辛そうな顔してさ。『こーゆー時ぐらい頼れば?』って言ったら『大丈夫だって』って言うこと聞かなかったんだよ。ったく、こういう時ぐらい頼れっての。何年一緒に居ると思ってるんだよ」

そこまで言うと山下は“はぁ”と一つため息をつく。
最後の語尾はほとんど怒りに近かった。
まぁ、無理もないけど。

「仕方ないじゃん。そうしないと斗真も“年上としての立場”がなくなっちゃうんだよ」

俺の言ったことに山下は“?”を浮かべていた。

「どーゆーこと?」

不思議そうな顔をして尋ねる。

「つまり、斗真としてのプライドってもんもあるんだよ。
けど、プライドのためにどこまでつっぱっていいんだかわかんないんだよな。斗真は」

俺は苦笑いを浮かべた。
そうなんだよ、斗真は。
加減ってもんをわかってないんだよなぁ。
それは山下もハセジュンも同じなんだけど。


“結局みんな似たり寄ったりなんだよ”


「わかりましたか?山下くん」

問い掛けると「まぁ、一応」と少し不服そうにしながらも、納得したようだった。
と、同時にドアがガチャっと開いた。

「だーかーらマンガ貸してってば」

「嫌だっつーの」

噂をすれば…の斗真と長谷川の二人。
つくづくオメデタイ奴らだよ。

「じゃあPRIDEで勝負だ!!」

「望むところだ!!」

そう言って二人で戦い始めた。
……ガキだよ、全く。

「あーあ、なんかこれ見てると悩んでんのバカらしくなってきた」

山下は目の前で繰り広げられているバトルを見て言う。

「だよなぁ。これだからおこちゃまは」

俺も山下の意見に同意した。
ため息をつく山下に同情する。

「いざ困ったら、斗真も頼ってくるよ」と俺は山下の肩に手をのっけて言う。


「そだね」

そう言うと山下は苦笑して斗真と長谷川を見つめていた。

俺達の日常は変わりなく続いている――――――……






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