雪が舞う
はらりと落ちた一粒の雪が手のひらには落ちて消えてゆく。
寒いなと気づいた時には空が曇っていて、思わず顔をしかめたまま窓の外を眺めていた。
『雪』が降るのかもしれない。
そう言ったのは誰だったかどうか、定かではないが。
それでも私には初めての『雪』というものが降るのかと思うと、たまらなく楽しみだった。
まるで子供のようにわくわくしたその気持ちで。
「ラクス?いる?」
自分の名を呼ぶのは一緒に休暇に来たキラ。
「何かありましたの?」
私は振り向くと彼の姿を捉え、尋ねた。
彼は少し困った顔をして一つ言葉を吐いた。
「カガリがさー…」
苦笑いしつつ、自分の片割れの状態には少し手を焼いているようなそんな仕草で。
「早く来いって」
「あらあら。カガリも雪が初めてなんですの?」
「みたいだね。僕やアスランみたくコロニー育ちじゃないからありそうなんだけど」
「では、用意しますわね」
休暇を利用して、4人で訪れた雪の世界。寒いはずなのに、どこか心はあたたかいまま。
コートを羽織り、キラが「行こ」というその左手を掴んで私は部屋を後にする。
外に出るとそこは一面銀世界で、さっきも少し歩いたからわかるのだけど、
靴がその白い土を踏むたびにきゅっきゅっと鳴るのが何だかおかしかった。
初めての感触、初めての―――世界。
「ラクス―――!早くこっちに来いよ――!!」
遠くから呼ぶカガリの声に私は一瞬目が合ったキラとくすっと笑うとカガリやアスランが待つ方へと足を進めた。
「いつも姉貴面してるのに、こうやって見てると妹みたいだよ」
くすくすと笑うキラの横顔をじっと見つめ、「そうですわね」と同意した。
そもそもこの休暇の提案はカガリだったか。
雪という響きにのせられて、キラもアスランも賛成したのだけど。
「キラは雪が好きですの?」
「うーん、どうだろ。寒いんだけど、見てる分には好き。ラクスは?」
「そうですわね……好きですわね、ええ」
「カガリは……言わなくても好きなんだろうな」
「の、ようですわ」
苦笑いしながら、繋がれてるこの右手のぬくもりが消えない。
あたたかい、だからどうしようもなく離したくない。
「アスランはどっちでもないのかなー。別にどっちでもないって言いそう」
「それは言えてますわ」
目の前でカガリが雪玉を作り、アスランに投げ、アスランもまた雪玉を作り、カガリに返していた。
これを雪合戦と言うのだとこの間聞いたのだが。
「いつも姉貴面や兄貴面してる二人がこうやって遊んでるの見てると童心に戻った感じ」
「あら、この二人はいつでもそうですわよ」
そう言ってまたくすくすと笑う。
それに気づいたのか、アスランとカガリは自分達に雪玉を投げつけてきた。
ぽすっと当てられた雪玉に思わずキラが苦笑い。
「カガリー、アスラーン、二人とも何やってるのさ」
全く子供みたいじゃないかと一言付け加えると同時にカガリの声が返ってくる。
「少しは雪を楽しめ、キラ」
「いや、そうかもしれないけど」
別の方法だっていいだろ?
そう言った直後だった。
はらりと白い粒が舞う。
「あ」
私の声に皆動きを止めて空を仰いだ。
一粒一粒と舞い降りるそれに、皆言葉を無くす。
手に乗るとすうっと消え、水の雫となって手からこぼれ落ちた。
「これが、雪―――」
呟くそれに誰しも頷く。
右手は彼のぬくもりが、私はその手を握り返すと、彼もまたぎゅっと握る。
「きれいだな」
数分経った頃だろうか、アスランが「もうそろそろ戻ろう」と言う言葉に現へと引き戻された。
皆同意し、歩く。
まだ雪はしんしんと降り続けるその中で、彼がもう一度私の手を握った。
はっとして不意に顔を上げると、彼の顔はすぐそこで。
あ、と思った時には彼のそれと私のが触れていた。
すぐにそれは離れたのだけど。
「キラ」
「ん?」
ずるいと言いかけたところで彼の片方手の人差し指が唇に触れる。
「たまにはいいよね?」
「………もう」
敵わない、彼には。
降ってくる一粒一粒の雪が、私の火照る頬に触れてはとけていく。
彼の言葉に振り回されながら初めて見た雪に。
嬉しさを噛みしめて、きゅっと鳴る雪道を歩く。
二人を包む雰囲気を知るのは、多分雪のみ。
END