弱さ





















いつだって人間は弱さと隣りあわせなのだ、と。






そう悟りを入れるように話していた元婚約者はカップに入った紅茶を喉に流し、潤していた。
「ふふっ。アスランも成長したのですわね」
くすくすと笑うと少し照れたように「ラクス、からかわないで下さい」と嗜める。
元婚約者とのティータイムとは久しぶりだったなとラクスは思う。そう言う風になったのももう二人、この場に現れるからなのだが。
その二人は遅刻すると連絡を入ってきたところを考えると、恐らく二人揃って寝坊なのかもしれない。
変なところだけ似ているのだ、あの二人は。
育ってきた環境も全く違うと言うのに、同じ親から生まれたからだろうか。
育ての親はどちらも全く違う。
一方はオーブという国の代表の一人娘として、もう一方は一般家庭の一人息子として。
その一人息子はこの元婚約者の親友だ。



「でもあの頃のアスランに比べると、成長されたと思いますわ」


そう言うと、彼は少し眉を下げ、



「あの頃は何もわかってませんでしたから」



と言った。悟りを入れたように、少し淋しげな顔をして。
あの時、あの戦争の時追われてる身であったラクスと再会したアスランは、ラクスにこう言葉を突きつけられた。







『アスランが信じて戦うものは何ですか?頂いた勲章ですか?お父様のご命令ですか?』







――――と。
その一言にうろたえたことを、そして自分は何もわかっていなかったことをこの時改めて思ったこと。
アスランは忘れないと思っている。
自分の弱さを受け入れる力を、目の前にいるお姫様は持っているのだなと思うと、力強いものだと苦笑いしながら眺めた。


「私だってちゃんと理解しているわけではありませんわ」


くすりと笑ってカップを一つ口につけた。


「人間誰しも強いわけではありません。弱さがあるからこそ強いのです」


「ええ、弱さがあるからこそ強くなれる」


「私なんでまだまだ、キラを見ているとそう思います」


もう少しで来るであろうキラのことを思い、ラクスは窓の外を眺めた。
本当に、キラは一番肝心なところで強いのだ。
たとえ涙を見せても、弱そうに見えても。
あんなに短い時間で彼はすごく成長した。
駆り立てたのは、戦争と言うものだから皮肉だといってもいい。


「あいつは昔からそうですよ。自分で思ってるよりも強いんです」


頑固ではありますけど。
付け加えられた一言には長年培った彼の友としての一言だった。


「泣き虫だし、すぐに諦めるところがあるけど、本当は一度決めたら頑として譲りません。
想いは一直線なんです。そんなあいつが、―――正直羨ましく思うときが何度もありました」


一つ息を吐く。ずっと彼を見ていた自分を客観的に見ているのだろうかと、ふとラクスは思った。
まだ少し湯気が立つカップを持ち、一口つけた後に言葉を継ぐ。


「俺がザフトでキラが地球軍にいた時もそうだった。頑として譲らなかった。
本当はアイツは優しい奴だから辛いに決まってるのに、一度決めたことを貫いた」


「ええ、そうですわね……キラは優しいから……皆を守ることを考えていた。たとえ自分がコーディネイターで非難されようとも。
辛くて悲しそうな顔をしていた時も、泣いていた後姿を見かけたことがあります。―――それでもずっと必死で守っていた」


「バカだと言ってしまえばそれまでなんですけど、そのキラが強く見えました。あなたにあの言葉を言われ、キラと会った時に」


ごくりと喉が鳴る。少し手が汗ばんできたなとアスランは思いながら言葉を紡ぐ。


「キラは、強い。芯がしっかりしている。だから、――――ラクスの想いを理解したんですね」


日が差し、今日もいい天気だなと思う。
今ごろキラは彼の双子の片割れであるカガリと走ってきているのだろうか。


「そう……かもしれません」


正直自分ではわからない。ただ、彼だと思ったのは間違いないのだが。
ふわりと窓の隙間から風がなびく。チチチと小鳥がさえずっていた。
ふっと外を眺めたその先に二つの影がこちらに向かって走ってきているのが見えた。


「どうやら、噂をしていれば―――みたいですわね」

「ええ。全く変なところはそっくりだ」


苦笑いしながら彼はその影を眺める。
一歩、また一歩と彼らの影が近づいてくる。肩で息をする彼らの姿は反射してよくは見えないのだけど。


「久しぶりにこうやって話ができてよかった」


アスランは荷が降りたような顔をしてラクスの顔を見遣る。


「ええ、私もですわ。こうやってしゃべる機会なんてありませんしね」


近づく二人の影を見つめながらしゃべる。
本来なら結婚するかもしれなかった相手と。
互いの想いは別のところへと別れてしまったけれど、それでも友人には変わりはない。
くすっと笑う二人はそれぞれの想い人へと視線を注ぎながら。
こうやって生きていることに喜びをかみしめつつ二人を待つ。




久しぶりの休日、貴重な時間だったのだと二人の背中はそれを理解していた。








END