続く道












時は少しずつ形を変えていく。

流される自分達はいったいどこへと行こうとしているのだろうか。

そして。

過去に残された想いは。



どこへ―――………














あの先の戦争からもう季節は二回りし始めた頃。
人々は立ち直りつつあった。
大事な人を亡くした想いを抱えながら、もう二度とあんなことがないように、と――。
過去は振り返っても戻ってこない。
だから、今は現を見つめ、先にある未来を求める。
ここにいる人間に例外はなく……。


「ミリィ!こっちー」


はっとしたように名を呼ばれた彼女は「ごめん、ごめん」と言って声のする方へと駆け寄った。
「どうしたんだよ、ミリィ」
眼鏡をかけた青年は心配そうに彼女の顔を覗き込む。
「ううん、なんでもないわ。ごめんね、サイ」
「俺はいいよ。それよりもキラが待ってる。行くぞ」
「うん」
歩みを止めていたその足をまた動かし始めていた。
歩くこと数分、人影が現れる。




「キラ」


「ミリィ。サイ」


姿を確認すると互いに名を呼び合った。
キラの手には白い花束。ブルーのリボンで括られていた。
サイの手にも白い花束、こっちは黄色のリボンで括られている。
そして、自分の手にも白と青の花束を持ち、オレンジ色のリボンで括られていた―――。




潮風が髪の毛にふわりとなびく。少し高台にあるせいか風も強い。
かさっと音を鳴らした花束はその前に添えられた。



『トール・ケーニヒ 享年16才』



紛れもなくこの目の前にある石にはそう書かれていた。
先の戦争で、キラを、みんなを助けるためにスカイグラスパーで出て行き、そして命を落とした。
自分にとって最愛の人だった。


「トール、ごめんね」

キラは呟く。まだあの時のことを悔やんでるのだとその顔を見てわかった。
何とも言えず自分も、サイも黙った。

「トールが描いてた未来になるように頑張るから」

サイも悲しげな表情で笑って呟く。

「私は、元気よ。トール、ここは気持ち良いでしょ?」

私の呟きに、ぽんとサイは肩を叩く。
キラも私の背中をさすった。

この二人は、どうしてわかってしまうのだろうか。

「うっ………」

押し黙った声を潜めて、落ちる雫を堪えきれず流していた。
流れた涙は潮風に乗ってさらりと飛んでゆく。









この二年必死に生きてきた。忙しいことで自分の中の淋しさを紛らわすように。
時に両親は心配した顔で自分を見ていたことには気づいていたけれど。
でも、心配かけまいと必死で笑ってきた。

戦争が終わった直後はまだ良かった。
ただ、時が経つにつれて、不安がどんどん自分の中で侵食し始める。
トールがいないということを、実感していくから。
いないと、その事実を時に実感する。


そのことが悔しくて、たまらなかった――――。





トールが死んだ原因をキラに対して恨みは持ち合わせなかった。
キラは大事な友達だし、何よりもトールにとって一番の悪友だった。
トールはキラを守りたかったのは私だって知ってる。
だからと言って直接手を下したアスランに対してもそれを抱かないわけではないものの、それでも責めはしなかった。
責めれば自分もまた悲しくなる。
キラもアスランも、トールが描いていた未来を実現させようと必死で今戦っているのは見ていてわかっていたから。


ただ、時というものは恐い。
その時間が通り過ぎるほど自分の中で不安が生まれていく。
そんな漠然とした不安を今自分の中で限界にあることは、この時まだ気づいていなかった。







キラとサイと別れた後、目的の場所へと歩き始めた。
ステーションである人との待ち合わせをしていたのをスケジュール帳に記してある。
本当はあまり行きたくないのが本音だった。
でも、今日ぐらいしか会えないからと断りきれなかったのは、アイツの押しが強いせいだと自分で納得する。
自分のつま先を睨むようにして歩いていると、約束の時間はもうすぐなのだと自分の時計のアラームが鳴っていた。
「もう、時間か……」
呟くと同時に目の前に一つの影が現れた。
顔をふっと上げて確認すると、自然と言葉が零れた。



「――――ディアッカ……」


「よっ」



相変わらず軽そうなノリでそう言うディアッカの姿を捉えた。










「行ってきたのか?」
唐突に尋ねられるその言葉はどこに行って来たのか理解している風だった。
「うん……って何で知ってるの?」
私は疑問に思い、ディアッカに尋ねる。
「あぁ、この間キラと話してたらそう言う話になったから。俺も戦友たちの墓参りしてきたし」
「そっか……」
コイツもたくさんの仲間を亡くしてるんだよね、と心の中でごちる。
「じゃあ、いこっか」
私は促すと、ディアッカもステーションの中を歩いた。
目的地はすぐそこ―――。



この約束をした時にディアッカは「どこに行く?」と尋ねてきて。
私はしばらく考えあぐねた後にこう答えた。

「見晴らしのいいところ」

「はぁ?そんなのたくさんあるだろうが」
「オーブだもんね」
くすくすと笑いながらしばし間を置いてこう言う。
「そうだなー、平和記念公園は?」
「じゃあ、そこで決まり。俺、午前中は用事があるから午後に行く」
「私も午前中は都合悪かったからちょうどいいわ。じゃあ午後に」
「またくわしいことはメールするわ。じゃあ」
「うん」
そう言って電話を切った。
戦争が終わってから、用事がなくてもアイツは電話をかけてくる。
一度トールの墓の前でばったり会って以来そうだ。
他愛のないことでも、それでもかけてきた。
コイツ、変な奴と思いながらもある意味感謝してる部分があった。
時には腹立つ時もあったけれど。


平和記念公園は静かな時を刻んでいた。
人々はのどかな時間をすごし、その顔には曇りはない。
空いてるベンチを見つけ、私もディアッカもそこに腰を落ち着かせていた。
座ると、目の前にある噴水が飛沫を上げている。
その隙間から虹が垣間見えた。

「あ、虹」

私の呟きにディアッカが肘を膝に置いて眺めていた。

「虹ってさー、昔なにか悪いことが起きる前触れだって言われてたんだって」
「へぇ。今じゃ何かいいことの前兆のように言うけどね」
くすっと笑って視線は噴水を見つめたまま。
「まぁな。人それぞれだけど、いいことがある方がいいよなぁ」
「そうね」

しばしまた沈黙が訪れる。
二人とも無言のままじっと噴水を見つめていた。


その沈黙を破ったのは、ディアッカ。



「なぁ」

「うん?」



「お前、笑ってない」

「は?」

ディアッカの意図が掴めず、私は首を傾げた。


「顔は笑ってるのに、心が笑ってない」



目を一回瞬きした後、彼の瞳から逸らした。
俄かに心の中に何か、つっかえるようで居心地の悪さを感じる。




「……だから?」




私はつっけんどんに返す。嘘だとは自分でも言い難かった。



「いい加減、そろそろ笑えよ。もう2年だぞ。そんなんじゃ、一生笑えなくなるだろうが」

ディアッカの言葉に自分のなかでかっとなった。

何かが、壊れる。

溢れ出す感情。



「…………るのよ」



気づいたら自分の中に何か黒い感情が渦巻いていた。
語尾に怒りとも取れる強さを出して。


「何がわかるのよ。ディアッカに、私の何がわかるのよ!」


ベンチから立ち上がって、見下ろすようにディアッカを見た。
じっとディアッカも私を見ている。

「だんだん時がたって、みんな忘れていくのよ!トールのこと、だんだん忘れていくのよ!
どんどん新しい記憶が、思い出が出来るたびに不安になっていく私の気持ちがわかる?」

わからないでしょう?
所詮私たちは生きてる。
生きてるからこそ、その不安が広がる。
八つ当たりだって、わかっていても止められない。
こうやって叫んだのは久しぶりだった。

ふいにばさばさっと鳩が飛び立つのが視界に映された。
白い鳩に、灰色の鳩。
みんな飛び立っていった。
一枚の羽が静かに舞い降りるのをじっと見つめ、その瞳から何か熱いものが込み上げてきた。


「辛いのはミリアリアだけじゃないだろ?」

ディアッカは静かにそう言った。

「友達が、彼氏が、彼女が、好きだった人がいなくなって辛いのはお前だけじゃない。
俺だって友達がたくさん死んだ。俺だって忘れちゃいない。辛いのは俺だって同じだ」

私は何も言えず黙り込んだ。
ディアッカはそっと立ち上がって私を覆うように包み込んだ。
抵抗する気力もなくて、ただ立ち尽くす。
いつしか自分の瞳からぼろぼろと涙がこぼれていた。
さっきも泣いたのに、泣き足りないのだろうかなんてぼーっとした頭で考えて。


「不安なのは皆同じだ。でもそこで立ち止まれないだろ?俺達は生きてるから」

「だからって忘れていけって言うの?」

「そうじゃない。むしろ、自分が覚えている限り、その人は生き続けるんだよ」


きっぱりとそう耳元で囁くその言葉にはっとする。
そうだ。
自分が覚えている限り、友達や親や、周りの人が覚えている限り。




トールは生き続ける―――――




なんで、そんなことに気づかなかったのか。
そして、なんでコイツがそのことに気づいたのか。
何だか悔しくて、余計に瞳が熱くなる。


背中に回された腕が頼もしくて。

その手があたたかくて。

意外と見てないようで見ていて。

それでいて優しくて。



ずるい、って思う。



「バカ」
額を彼の胸に当てて、腕を引っ張る。
「バカって、それはないんじゃないの?」
ディアッカは不服そうに文句をたれた。
「いいのよ、バカなんだから」
くすくすと笑いながら、表情は隠したままそう答えた。
コイツに勇気付けられるのはちょっと癪だけど、でも何だか嬉しかった。
だから。


「……ありがと」


小さな声で感謝の言葉を呟きながらきゅっと袖を掴む。
もう、大丈夫なような気がする。
今度こそ、本当に――――。


「どういたしまして」


彼もまた小さな声でそう耳元で囁くと、ぽんぽんと子供をあやすように背中を叩いた。
「もう、大丈夫だな?」
確認するように、背中をさすって。
私はこくりと頷くとこう言う。

「もう、大丈夫」

ぐいって涙を拭うと彼の目を見て笑った。


「やっぱりこっちの方がいい」


まだ瞳に残る涙をそっと褐色の指先で拭いながら、笑ってそう言う。


「さてと、そろそろ食事にでも行くか」

「うん、もちろん奢ってくれるんでしょ?」

くすっと笑ってちょっと強気な姿勢を見せて。

「わかってるって。さぁ、どこに行きましょうか?」

「じゃあね――――」




季節は巡る。
平和な時は恐いくらいに静かな時を与える。
その不安を乗り越えてこそ、本当の意味で笑えると言うコトに気づいたのは。



トールが、愛する人が亡くなってから二つ季節を巡った今日のこと。
潮風が今日も穏やかに流れている、オーブで。
私は、もう一度前を見据えて歩くことを誓う。






未来を歩いていくために………。








END



あとがき*****
ここまで読んでくださってどうもありがとうございました(ぺこり)
やっぱり私は女性キャラの中で一番ミリィが好きなので何かやりたいと思っていて、
それが叶えられて嬉しい限りです♪トーミリディアチックな話ですが。
少しでも気に入っていただけると嬉しいです。
話しの設定としては戦後2年目あたり。まだトールのことを想うミリィとそれを見つめるディアッカ。
ミリィの切ない気持ちを頑張って書いたつもり……あぁ、文句がありましたらメールでどうぞ(汗)

最後に、今後もこのサイトをどうぞよろしくお願いいたします。

瑞季