ただ、それだけ






ただ、それだけ。



それだけのことだ―――――。





一人の男がいつもどおり目的の場所へと向かうため、坂を歩く。
普段は手にしない花束を持って。
花束のカラーは白。
買ってきてといわれたから買ってきた。
そうして向かう。
繁華街の公園へと。
本当は別にそんな場所じゃなくてもいいのだ。
だが、彼女は言っても聞かなかった。


『今日だけは付き合って』と。



なぜか切羽詰ったような顔をして。
「なぜだ?」と問うと、淋しそうな顔をして黙っていた。
それ以上は聞けなかった。
普段の彼女は勝気で負けず嫌い。
いつも「コーディネイターなんて」という言葉を口にする。
自分自身も「ナチュラルの癖に」と言うのだからどっちもどっちなのだ。
それがいつものこと。
「じゃあ嫌いなのか」と問うと「ホントあんたってば意地悪」と言う。
まぁそのやりとりを半分楽しんでる節もあるのだが。
しばらく歩いていると、公園の入り口まで来た。
歩き進めると赤い髪をした少女がこっちを見て待っていた。



「ホント遅いわね。待たせるんじゃないわよ」


全く減らず口だ。


「うるさい。お前に頼まれた白い花持って来たぞ。第一、何で俺が買わねばならない」


そう言って花束を差し出す。



「ありがと」


花束を受け取るとすたすたと歩き始めた。



「おい、どこへ行く!」


「どこだって良いでしょ」


いつもどおりの彼女。
だが、どこか緊張してる節があった。
この間の態度といい、一体どうなってるんだ?
俺が不思議に思ってると彼女はあるものの前で止まった。



――――慰霊碑、だ。



先の戦争で建てられた慰霊碑。
多くの仲間が死んだ。
戦友もたくさん死んだ。
どこの所属でもない、ただ亡くなった人たちのためにと作られたものだった。
それを提案したのはオーブの元首長の娘と元プラント評議会議長の娘。
慰霊碑の前に祭壇がある。
その前に彼女は花束をそっと添えた。


黙ってずっと慰霊碑を見ている彼女。
俺はただ成す術もなくその姿をじっと見ていた。
なぜ、急にここに来たいと言い出したのか。



「……呼ばれたような気がしたのよ」


静かに言葉を紡ぐ。
ポツリ、ポツリ漏らして。


「父に、呼ばれたような気が、したの……」


少し肩が震えてる。
恐らく、泣いてる――――。


「だから、来たくなったのよ………」


悪い?とこっちに振り向いて、いつもどおりの勝気な答え。
俺はただ「いいや」ということしかできず、うっすらと浮かべる涙をそっと指先で拭う。
いつもなら文句を言うだろう「何で、あんたなんかにそんなことされなきゃいけないのよ」と。
ただ、今日は黙っていた。
静かな時間が流れる。
俺達には最もらしくない時間。


「矛盾、してるわよね……」



くすり、淋しげな笑顔。



「何がだ」


俺は何となく言われることをわかってはいても言葉を返した。



「父は連邦事務次官をやっていたのよ。娘の私が何でコイツといるんだか」


自嘲したような笑み。
でも、仕方ない。
それが現実。


「それを言ってしまえばキリがない」


ぴしゃりと言い放った。
「そうね」と彼女は言う。


「終わったことだろ。何を今更。それとも俺と会わないようにするか?」


答えは決まってるからさらりと言ってのけた。


「バカ。一人にしないって言ったでしょ。嘘をつく気?」


こっちが質問したのに逆に質問された。


「アホか、お前」


「何よ。アホはそっちでしょ?」


また始まる、平行線のケンカ。
と、思えば彼女は歩き出す。


「おい、どこへ行く」


おれの質問に。


「今日はおごってよね。ほら、行くわよ」


そう言ってはすたすたとまた歩き始めた。

またいつもの時間が流れる。
たまたま来たかっただけだ。
また言うのだろう、彼女は。
それはいつものことで。
仕方ないから付き合ってやる。


そう、ただそれだけのこと。



それだけのことなのだ―――――。






END