熱のせい



まっさか倒れるなんて思ってもみなかった。
だってここのところ風邪なんて引いたこともなかったし。
あ、調子悪いなって思ってたのもつかの間。
部屋の中でふっと意識をなくしたのだった。


「オイ。大丈夫か?」

ひんやりと冷たい手が私の額の汗を拭った。
あ、気持ちいい……。
のろのろと瞳を開くと、冷たいアイスブルーの瞳の眼差しが降り注ぐ。

「あれ?イザーク……」

私は気だるい体を起こそうとすると、彼の腕によってまた戻される。

「熱があるから寝ろ。病人は大人しくしておけ」

そうか、私…風邪引いて熱出して倒れたのね。
ってなんでコイツ知ってるの?
私の考えてることがわかったのか、少しばかり眉をひそめると言葉を発した。

「たまたま来てみればソファの横で倒れてたぞ。
なぜ、限界まで誰にも言わなかったんだ?まったくこれだからナチュラルは……」

と、まぁたいそうご立腹な様子。
そんなこと言われても……。

「煩いわよ。仕方ないでしょう?久々に引いちゃったんだから、私も全然気づかなかったのよ」

私はぷいっとそっぽ向いた。
全くムカツク。
熱を上げに来たわけ?

「とりあえず、黙って寝てろ」

そう言うとぽんと私の頭に彼の手が触れる。
何?
何で優しいわけ?
わけわかんない。
今まで気付かなかったけど、私の頭の下には氷枕があったり、ベッドサイドには飲み物が置かれていたり。
結構気を使ってくれたらしい。
なんかちょっと申し訳なくなる、と同時になんかいつもと違うから狂うわと思った。
彼に言われたとおり瞼を閉じると私は再び深い闇へと誘われていった。
深い、闇へ――――……



気付くと寝ていて、彼女はうわ言を言っている。

「パパ……」

そう言っては寝ながら涙を流していた。
父親の夢を見ているのか?
俺たちが、倒した艦に乗っていた父親の夢を。
そっと涙を拭ってやった。
そうだ、コイツは今一人なのだ。
風邪などを引くと心細い。多分その現れだろうと推測した。

とその時玄関から「フレイ〜?入るよー」と声が。
彼女は俺を見るなり開口一番にそう言った。

「あれ?イザークなんでいるの?」

「いちゃ悪いのか?」

「いや、悪くないけど。びっくりしただけ」

「そう言うお前は?」

「あぁ、頼まれ物を持って来ただけよ。ついでに一緒に晩御飯食べようと思ったんだけど…もしかして風邪?」

「の、ようだな」

彼女―ミリアリア・ハウはそう言うとフレイの顔を覗き込む。

「この分だと大丈夫そうね」

ちょっと安堵した顔を見せ、そう言った。

「じゃあ、俺は仕事に行くから後は頼む」

「あ、そう……ねぇ、イザーク」

ミリアリアは俺の顔を見るとニヤッと笑ってこう言う。


「なんか妻の病気を看病する旦那みたいだなって思ったのよね」

と。

「バカな。迷惑だ」

眉をひそめ、そう言うと俺は部屋を後にする。
言われた言葉を少々気にする自分を見つけ、バカらしいと思っていた……。
ミリアリアはと言うと「素直じゃないんだから〜。もう」とちょっと苦笑いをしながら呟く。
全く幸せもんだぞと隣で寝ている彼女を眺めながら―――。




気付いたらいいにおい。
私はむくっと起き上がり、キッチンにいる彼女に声をかける。

「ミリアリア…あれ?イザークは……?」

「仕事あるから帰ったよー」

おたまを持ったまま現れる彼女。
あ、頼まれたものなら持って来たからねと一言言うとまたキッチンへと戻っていった。

そっか……
帰っちゃったのか……
お礼…言いそびれちゃった……

ぼんやりとした頭でそんなことを思っていた。


「私が来たのついさっきなんだよね。それまでいてくれたみたいよ」


ミリアリアがおかゆを作りながら言うと、私はえ?と思わず口を出す。


「熱が下がったら、お礼言いに行った方が良いかもね」


ミリアリアの後姿を眺めながら「そうね」とぶっきらぼうに答えておいた。
確かにお礼は言っておいた方がいいわ。
珍しく優しかったし。
いつものあのアイスブルーの瞳が何となく優しく見えたの。
こう言うときじゃないと見えないかもしれない。
そう思ったら何となく風邪を引いたことに感謝してしまった自分がいて。
こんなこと言ったらまたこう言うに決まってるわ。
「バカか?これだからナチュラルは」って。
うるさいわよって答えるのが関の山だけど。
でも、今は。
今だけは。


感謝したい――――アイツに。



また通常通りに戻ったら、ケンカしかしなくなるのわかってるから。
あのぶっきらぼうな彼に、一言だけ。
『ありがと』
って。


言ったら何て反応するのか、気になるわ。
だって、アイツは私の予想外の反応をいつも示してくれるから。
だから。



こんなこと考えてると、また熱が上がりそう・・・・・・
とりあえず頭を冷やすために、また眠ることにした。
ミリアリアが作ってるおかゆの匂いを微かに鼻でかすめながら――――




END