レクイエム――1.姉妹
「一つ昔話をしましょうか」
くすっと微笑んでカリダは目の前にいる息子、キラへと視線を向けた。
そう、これは自分と関わりのある大切な、大切な人たちへの鎮魂歌でもあった。
この話をする数十分前、久しぶりに再会したキラのこんな一言から始まった。
「僕は母さんや父さんの、本当の子供じゃ、ないんだよね?」
緊張した面持ちで、きゅっと唇をかみ締め、傍にあのプラントの歌姫『ラクス・クライン』を連れてキラは尋ねる。
ぎゅっと握った手がその真剣さを物語っていた。
この事実を知っていたことに驚いたが、もっと驚いたのはヴィア――血の分けた妹の写真をもう片方の手に握りしめていたと言うこと。
隠していても無駄だとういうことが伝わって、一つため息をする。
そうしてそのキラの瞳に答えようとカリダは思い、その眼差しを受け止めた。
傍にいたラクスは、親子だけの方がいいだろう、そう思ったのか席を立とうとしたのにカリダは気づく。
「ラクスさんもここにいてくれるかしら?」
カリダの一言に静かに頷いて、立ちかけた足をまた元に戻す。
キラとラクス、二人の瞳は真剣そのものだった。
「・・・・・・そうね、何から話しましょうか」
口をついて出たのは、冷静な自分の一言。
カリダはそんな自分に驚いて、苦笑いを浮かべていた。
「もう、かれこれ三十年以上前ね。あなたの本当の母親――私の姉であるヴィアは頭のいい人だった」
仲が良くて二人でよく遊んだ日々。優しい姉はいつも笑顔が絶えなかった。
いつも自分のことを優しい顔で見ていてくれた。
いつだって自分のことを気にかけてくれた。
成長するに従って、それぞれの道は離れていたけれど、でもやっぱり血の分けた姉妹。
離れ離れになっても連絡を取り合うことだけはしていた。
「父や母が驚くくらい、ヴィアはね、理系に強かったの。研究熱心で、カレッジでも成績優秀だった。
そうね、キラが理系に強いのは多分、ヴィアたちの血を引いてるからね。まぁ、分野は異なってしまうけれど」
カリダはくすっと微笑んで呟く。
成績優秀だったヴィアの専攻は、遺伝子工学。その成績の優秀さから、優秀な者たちが集められる研究所に勤め始めたのだった。
カリダは心配した。
『大丈夫なの、姉さん? 研究って大変だって聞いたけど』
そんなカリダの発言にヴィアはきょとんとした。
それからヴィア笑ってこう答えた。
『大丈夫よ、カリダ』
姉さんは、バカよ。
あの何一つ辛くなさそうな顔が、蘇る。
いつだって笑顔で自分のことを見ていてくれた。
大好きだった、姉さん。
「研究所で、ヴィアはヒビキ博士――あなたの父親と出会ったの。二人とも意気投合してね。傍から見ればちょっと微笑ましいくらいだったわ」
初めてうちに連れてきたことを思い出す。
照れながらヴィアは言った。
『私の彼よ。ユーレン・ヒビキさん。私と同じ研究所で同じ研究をしているの』
そう紹介をしたヴィアが言うと、目の前にいたユーレン・ヒビキはこう言った。
『初めまして。ユーレン・ヒビキです。ヴィアさんにはお世話になっています』
あの頃のヒビキ博士は好青年と言っても過言ではなかった。
研究には真剣そのもの。そんなところも気に入っていたのだろう。
ヴィアは数年後、ヒビキ博士と結婚して、ヴィア・ヒビキとなったのだ。
「あの当時ね、二人ともそこまでお金もないから、ホントごく一部の人間だけで内輪だけのささやかな結婚式を挙げたの。
そんな二人を私たちは祝福をしたわ。私はもうこの時結婚していたから、あの人と一緒にその式に出たの」
今のキラの父親でもある私の最愛の人と。
二人で出席した帰り道、あの人はこう言った。
『良かったな』
と。カリダは「ええ」と言って頷いたのを覚えている。
あの時は幸せだった。何もかも、これからの未来なんて知りもせずに。
哀しい未来はすぐ先まで来ていた。
泣いて、抗って、たくさんの人たちが自分の前から消えてゆくことに。
「ヴィアは、姉さんは幸せだったのよ。泣いても笑っても、あの時までは、ね――――」
カリダの呟きにキラは眉を潜める。
あの時が何を指すか、キラには痛いほど伝わってきて、それが切なかった。
始まりました、新連載。その前にキララク話を終わらせろよって話ですが。
何分、こっちの方が先に半分まで書き上げてしまったので、こっちが先になります。
まぁ不定期連載なのでぼちぼちと上げていく予定です。
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