Friends

「あら、カガリさん」
丁度通路を通過しようとした時、後ろから声をかけられた。
声の主はプラントの歌姫であったラクス・クライン。
戦艦エターナルの指揮官でもある。
この少女のどこにそんな力があるのだろうと不思議になるが、彼女はそういう存在だった。
「あ、ラクス……」
私が言いかけたところでラクスは「ちょっとお茶でもしません?」とにこっと笑う。
「あ、いいよ。どうせ暇だったし」
私は相槌を打った。そう言って食堂で飲み物を貰い、近くのスペースで腰を落ち着かせる。
ピンク色のハロが「オマエモナー」とぴょんぴょん跳ねながら周りをうろついていた。
それを見て、くすっと笑う。
「ピンクちゃん、お願いだからおとなしくしててくださいね」
ラクスにそうたしなめられると「ミトメタクナイッ!」と言ってまた通路の方へとぴょんぴょん跳ねて出て行ってしまった。
あれ、アスランが作ったんだっけ……。
ボーっとハロの後姿を眺めながら私はそんなことを思っていた。
「カガリさん?」
ラクスは私の顔を覗きながら名前を呼んだ。
「あ、はい!?あ、ごめん……」
「いえ。何かお体の具合がよろしくないのかと思いまして……」
「ううん。全然。ちょっと考えごとしてただけだから」
私が首を横に振ると「そうですか」とほっとした表情を浮かべる。
にこっと笑ったりするラクスを見る度になぜアスランと婚約が解消したのか不思議に思えた。
もったいないよなぁ……と他人事ながら思ってしまうのだ。
『俺はバカだから……』
そう言ってたアスラン。どういう意味だったのか、少し疑問に思ってる。
その後に続く言葉は―――?
「カガリさんってすごいなって思うんですのよ」
突然ラクスが言った言葉に大きく目を見開いた。
はぁ?
どうして??
そんな私の心のうちを察してか、言葉を続けるラクス。
「あのアスランが振り回されてるのですから」
くすくすと笑うラクス。やっぱり不思議だなって思ってしまう。
こんなにかわいい笑顔をするのに、もったいない。
そう思ってる一方で、ちくんと胸の中が痛む音を聞いた気がした。
「どういうこと?」
私が尋ねると、「そうですわね……私に対してはこんなアスラン見たことなかったのですから」
だからかしら?と首を傾げ、でもどこか楽しそうに呟いた。
私は腑に落ちないなと思いながらも、「例えば?」と尋ねる。
「そうですわね……しいて言うのでしたら……言葉が違うってことでしょうか?」
「言葉?」
「私に対しては丁寧な物言いしか出来なかったのに、カガリさんの前では自然な言葉と申すのでしょうか、
「お前」などとても自然体だなと思ったのです」
「いや、それはいいことでも何でもないような気がするけど……」
「きっと、あなたの前では自然でいられるのですね。キラと同様に―――」
そう言うとラクスは静かに笑う。少しホッとしたような、それでいて淋しそうな表情。
この時初めてラクスの内側を垣間見たような気がした。
本当はこの少女はすごく淋しがり屋なのかもしれない。
「アスランに、そう言う方が見つかって良かったですわ」
くすっと笑う笑顔がなぜだか切なそうに見えたのは、私の気のせいだったのだろうか?
「どう…して?」
「私もアスランも似たもの同士なのです。自分の殻から閉じこもってなかなか外には出てこない。
あなたもキラもそう言う点では自分をすぐにさらけ出せる。
さらけ出してもいいよといわれてもなかなか出て来れず、気付いた時にはだいぶ時間が経ってしまったりしたものです。
それを自然と出せるようになってきたのは、やっぱりあなたとキラのおかげなのだと私は思いますの」
この少女は今、すごいことをさらりと流さなかったか?
自分の内面を客観的に見れる。私はすぐに突進してしまうところがあるから、それはそれで羨ましいなと思う。
「それは買いかぶりすぎだよ。私は……」
「いいえ、買いかぶってなんかいません。素直にあなた方が羨ましいのですわ」
羨ましい?
私はラクスの方がよっぽど羨ましいけれど。
隣の芝生は青いって奴なのかなとふと思う。
「恐らく、私にないものを。あなたはあなたにないものを持っているからこそ羨ましいのでしょうね」
くすっと笑って、そんな彼女の笑顔が少し痛くて。
そんなことない。
私は。
私は――――。
「だから、キラを選んだのか?アスランは……」
私はいつかみたラクスがキラに抱きつくところを思い出し、彼女に尋ねるも言葉が途中で切れてしまう。
聞いていいことと悪いことがある。聞いちゃいけないような気がしたから口をつぐんだ。
「私は頼れる人を探してたんだと思いますわ。それがキラでありアスランではなかった。それだけのことです」
それでも彼女は言いたいことを察し、答えた。彼女の瞳を見据えながら私はこう返事をした。
「でも、好きではなかったのか?婚約者だったんだろ?」
「…そうですわね。確かに好きと言えば好きでした」
彼女はそこで言葉を止めるも、また息を継ぎこう言った。
「私にとって、アスランにとっても「結婚」には必ずしも恋愛は必要では無いと思ってる部分があります。
例え恋愛感情は無くとも、相手を護り、支える関係となれるということが今のコーディネイターの世界での『結婚』なのです。
好きと言う感情は恐らくそんなに必要なかったのだと思います。それが理想とされていましたから。
でも、私もアスランも思うことは一緒だと思います。それだけでは物足りなかったのです。だから私はキラを。
アスランはあなたを。本当の自分を見てくれる人を求めていたのですわ。私はキラになら心を許せると思った。
アスランはあなたになら許せると思ったのでしょう。それが結局は婚約解消という形になった、と私は思っていますの」
まだあの頃の私たちは何もわかっていなかったのですわ、と言葉を足して。
親に促されるままに婚約して。
対の遺伝子を持ってるからといわれて。
それに逆らわず生きてきた。
周りは羨ましがってはいたけれど、自分たち自身はある意味冷めたところがあった。
そうなのだとラクスは言う。
「そっか……」
私は彼女の話を聞いて一つため息をつく。
彼女はくすっと笑って「どうしてこうなってしまったかわかりますか?」と尋ねた。
え?
今のが答えじゃなかったのか?
「私も、アスランも、あなた達に出会ってしまったからですわ」
といたずらな笑みを浮かべて。
え?
私たち――――?
「だから、私はあなたとも仲良くしたいと思いますわ。いかがですか?」
あなたの前ならキラの前なら自分を出すことできると思いますの。
「わ、私も!ラクスと友達になりたい」
ある意味これは告白なのかなと思う自分がどこかにいて。
そう思ったら照れそうになった。
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
そう言うとラクスは「そろそろ時間なので行きますわ」と一言残し、通路をまた歩き始める。
私はその後姿を見送りながら。
「ラクス!私のことは『さん』づけしなくていいからな!カガリでいい!」
大声で叫ぶと「ありがとう」と言って姿を消した。
なかなかしゃべらないと本心は見えないもので。
それがなんだかくすぐったくて。
あぁ、彼女とは多分いい関係を気付いていけるだろうなと心のどこかで思う自分がいる。
女の友情ってある意味恋愛よりも難しいところがあるから。
でも、大丈夫。
多分ラクスとなら親友になれるような気がする。
きっと、な――――
END
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