これからずっと
「私に何ができる?」
自分の問う言葉に返す瞳もない。今、彼は空の彼方。
相談すべき相手がいない今、自分がどうにかするしかなかった――――。
「キラとアスランはカンペキ除外されるだろ・・・・・・そうなると他に頼めそうな相手と言えば・・・・・・」
一人オーブ専用機のシートにもたれて座りながらカガリは呟いていた。
数刻前、親友であるラクスに頼まれた言葉を思い出してまた自分の胸に閉じる。
予想しなかった出来事だっただけに、まだ興奮を隠せないでいた。
まさか自分が叔母になろうとは。
いや、確かに年齢からしておかしくない歳ではあるのだが。
それでも、周りにいなかったせいか、幾分かなれない出来事で戸惑いの方が大きかった。
幾人かの顔を思い浮かべ、頼めそうな人物を考える。
と、そこに一人の女性の姿が脳裏に過ぎった。
『ミリアリア・ハウ』
先の戦争で知り合った友人。今、彼女は仕事を探していると、この間会った時に言っていなかったか?
キラのヘリオポリスからの友人で、友達としては信頼も厚い。
ラクスとも割りと仲が良いから大丈夫かもしれない、と思う。
ガバっと身体を乗り出して、よし、と気合を入れた。
まずオーブに着いたらミリィに連絡だ。
逸る気持ちを抑えながら、今か今かと本国へと向かう飛行機の中で着くことだけをひたすら願って。
何回か通信音を鳴らした後に明るい声で「はい」と彼女は答える。
「ミリィか?私だ!カガリだ」
「え?カガリ?久しぶり〜」
「ミリィ、今仕事を探してるって言ってたよな?決まったのか?」
単刀直入に尋ねると少々戸惑った雰囲気をミリィは醸し出していた。
「え?・・・ううん。決まってないけど・・・・・・」
その答えに、思わずガッツポーズを作りたくなるほどに興奮しそうな自分がいた。
よし、いける。
そう心の中で呟いて、早速本題へと入る。
「じゃあ、私がお願いしたい仕事があるんだけどしないか?」
ドキドキと心臓は高鳴る。
とりあえず切り出した話題は止まることなく続くことだけはわかっていた。
答えはどうなのだろうか?
「え?いいの?」
「うん。ミリィに是非お願いしたいんだ」
「是非って・・・何かあったわけ?」
「まぁな。それはこれからミリィの家に行くよ。そこで話す」
「今?え?ってプラントに行ってたんじゃなかったっけ?」
ミリィの質問は最もで、少しせっかちだったなと口の中でごちた。
「今帰ってきたところだ。じゃ、また後で」
「あ・・・うん。わかった。待ってる」
「じゃあな」
そう言ってプツッと通信は途切れた。
多分、これから話すことはミリアリアにとっても驚きの隠せない事実だろうことだけはわかる。
少しの興奮と、期待とを入れ混じった気持ちが高揚していた。
未来は少しでも明るいといい、そう思っていた。
突然の来訪にミリアリアは戸惑いを隠せないでいた。
本当に来たから尚一層驚いてしまう。
「で、要件は?」
ミリアリアは目の前にいるカガリに向けて言葉を発する。
少し期待しているような瞳を向けて、カガリは話し始めた。
長い話なんだ、と付け加えて話し始めた。
「・・・・・・というわけなんだ」
長い長いキラとラクスの話をし、カガリはひとまず話を終える。
目の前にいるミリアリアの瞳に戸惑いの色が濃く印されていた。無理もないな、とカガリは一人ごちる。
その戸惑いの瞳がカガリに真っ直ぐ向けられたのはすぐのこと。
「私は、ラクスの身の回りの世話をすればいいの?」
静かな言葉だった。
「あ・・・ああ。まだそこまで話してないのによくわかったな」
「何となく・・・・・・ね」
「そうか・・・・・・」
「ん・・・・・それにしても・・・・・・ふふっ。ラクスとキラの子供かぁー。私たちもそんな年になったんだね」
ミリアリアは感慨深げに言う。一瞬きょとんとしたカガリだったがすぐに微笑んで「そうだな」と呟いた。
「そんなに年月が経ってるんだね」
約十年近く。
長いと感じるのか、短いと感じるのか。
ミリアリアやカガリの胸中には複雑な想いが過ぎっていた。
「なぁ、ミリィ」
「ん?」
「ラクスのこと、頼むな。私はこっちの仕事があるし」
「うん。任せて♪これでも色々と勉強はしてるんだから」
「あぁ・・・あ。」
「?」
「なぁ、ミリィの周りで秘密を守れて、尚且つ船舶の免許持ってる奴いないか?荷物を運んだりする役が欲しいんだが」
ミリアリアの脳裏に色んな人物が過ぎり、考えてると、一人だけ確かにこの事情を理解して守れる人間がいたことに気づいた。
「あ」
「?」
「サイ!サイはどう?この間船舶の免許取ったって言ってた!」
ミリアリアの嬉々とした瞳に、カガリも便乗する。
「それだ――――――っ!!」
くすっと笑うと「膳は急げ、だな」と言ってカガリはミリアリアを連れて、動いた。
もちろん、行く先は。
「と、言うわけなんだ。どうだ?サイ、できないか?」
いきなり現れた来客にサイは度肝を抜かしながら、それでも何か焦っているようなカガリを見ると部屋へと案内した。
「・・・・・・・・・」
「無理にとは言わない。よく私たちのことをわかっていて、秘密を守れそうで、免許の持ってる奴が必要なんだ」
「・・・・・・・・・」
「サイ?」
ミリアリアが訝しげな顔をしてサイを見る。
すると、ふっふっふっと不適な笑みを浮かべたサイがいた。
ミリアリアもカガリも顔を見合わせる。
「へー。そうかー。キラよりも先にそんな話聞いちゃったなぁ・・・・・・うん」
「は?」
ミリアリアが大丈夫?と言いた気な顔をしてサイを見た。
「いいよ。俺でよかったら力になるし」
その一言を聞いて、カガリの瞳はらんらんと輝いた。
「そうか!やってくれるか!悪いなー。ありがたい」
「気にするなって。俺はさ、キラが知るよりも先に知れた方が嬉しいんだ」
にんまり笑ってそうかーなんてぶつぶつと呟くサイを見て、ミリアリアはくすくすと笑った。
要はキラよりも先にラクスの妊娠を聞けて嬉しいらしい。
そんなサイを見て、カガリもまたくすっと笑った。
数ヵ月後、キラにばれてしまい、皆キラとラクスを待つ間、居間で待っていた。
「あの時のサイの顔ったらなかったわよ」
ミリアリアはくすくす笑う。それを見て隣で話を聞いていたディアッカはへぇと呟きながら微笑んだ。
「そうそう、私ら置いてかれたもんな」
嬉々として話すカガリを見て、サイは「もう、その話はいいだろ」と顔を赤らめて言った。
少し照れているらしいことはすぐ見て取れる。
「でも、サイの気持ちわからないでもないな」
カガリは一言呟くと隣に座るアスランが「どうしてだ?」と尋ねた。
「何となく、特権なんだよな。秘密って」
まぁ秘密が大きいからある意味負担というか、不安も大きかったけどと付け加えて。
ふーんとアスランは答える。
あまりにも大きすぎた秘密。
それを必死で抑えていた周り。
当然、あのゴシップ記事を出すまでに相当な苦労があったとイザークからは聞いていた。
それだけラクスの歌姫として必要される力は大きすぎるのだろう。
彼女に勝る歌姫はいない。
戦後、皆の心のよりどころは彼女の歌声だったのかも、と誰しもが想像する。
「さて、と。あとはこの話をいかにうまくマスコミに流すか、だな」
二人の取り巻く環境は厳しいものだが、そろそろいい加減キラとラクスとの仲を公表してもいいだろうと、バルトフェルドは思っていた。
それについてはイザークとも話をしていたのだが。
「そうだな。どれくらいのファンが泣くんだろうなー」
カガリはにやにや笑いながら呟く。
するとアスランはこう呟いた。
「と、同時にキラに対する視線は一層厳しいものになりそうだけど?」
そのアスランの問いに答えたのは意外にもミリアリア。
「それを守るのは私たちじゃない?」
そのあまりにも凛とした声に、誰もが黙る。
暫く沈黙の後に。
「そうだな。俺らが守らなきゃ、な」
「そうよ。私たちが、友達である私たちが守らなきゃ」
「二人とも手がかかるしな?」
「そうだね」
皆くすくすと笑いながら言う。
これからもずっとこんなことがあるかもしれない。
けれど、それを乗り越えられるとわかっているから、だから。
「さぁてと、久しぶりに皆集まったんだからパーティーでもしましょ」
ミリアリアの掛け声に皆が頷く、まったりとした空気が動き始めたのはそれからすぐのこと。
キラがラクスを部屋から連れて来てからのことだった。
終