いつでも、どこでも
その知らせに最も驚いたのは彼の両親だった。
キラ・ヤマト―――先の戦争で一躍有名になった人物の名。
戦争を停戦にまで持ち込ませた人だが、戦後の行方はごく普通の一般人のように働いていると聞いている。
彼の祖国、オーブ首長国連邦で、だ。
いきなりヤマト邸に通信音が鳴り響く。慌ててそれを取ると、息子であるキラが画面に現れた。
そしてこう言ったのだった。
「父さん、母さん。僕、結婚するよ」
いきなりの朗報に思わず両親の口が開いたままなのをキラは苦笑いを浮かべて見つめた。
「え?キラ?」
母は混乱しているのか、急におどおどとした態度になった。
それと正反対に父は無言でキラを見つめる。
「キラ、どういうことだい?」
父の問いかけに、「実はね・・・」と長い話を始めた。
静かに時計の音が鳴る。もう夜半に近い時刻になっていた。
キラは最後まで話すと両親は黙って聴いていたその顔を上げる。
「お前は・・・それで、いいんだな?」
父はキラにもう一度尋ねる。真摯な瞳が交差し、それを母は黙って見守っていた。
「うん」
頷くと、父は一つため息ついてこう呟いた。
「そうか・・・・・・母さん、もうあれから何年経ったんだ?」
母は父の言おうとしていることがすぐに理解できたのか、即答だった。
「そうね・・・もう二十年以上経ったわ。ヴィアから預かった命がここまで成長するなんて・・・・・・」
「そうだな」
「父さん・・・・・・母さん・・・・・・」
キラは呟くと何も言えなくなった。両親にはここまで育ててくれて感謝している。
「キラ、私たちはね、あなたが生きていてくれるだけで嬉しいの。ヴィア達が長く生きれなかった分・・・ね」
そう言うと、母の瞳に光るものがうっすらと見えた。
写真でしか知らない本当の母。姉であるカガリにそっくりだということぐらいしかわからない。
でもどこか優しそうな瞳で赤ん坊を抱いている写真を見て、また目の前にいる母と姿が重なる。
瞳の奥が多分、似ているから。
「キラ、ラクスさんを大事にしなさい。そして幸せになって」
母の言葉に父もまた言葉を付け加える。
「お前はもう立派な大人だ。私たちが口出しする問題でもないだろう。そこにラクスさんはいるのかい?」
父の問いにうん、と頷くと奥の部屋にいたラクスを呼び出した。
暫くするとややふっくらとしたラクスが現れ、それが本当に現実のものであると理解する。
「こんばんわ。お久しぶりです」
ラクスが丁寧に挨拶をすると父も母も頭を下げた。
「久しぶりだね。体の調子はどうだい?」
父の問いに「体の方は大丈夫です」とにっこりと笑ってラクスは返す。
「そうか・・・・・・キラから事情は聞いたよ。後悔はないんだね?」
そう父が尋ねると覚悟した瞳で答える。
「はい。後悔などしませんわ。もし、後悔するとしたら・・・・・・それはキラと分かれた時だと、私は思います」
いつも見せる優しい瞳とは打って変わって、何かを奥に秘めたそんな想いが感じられた。
それが何かというのは、母はすぐに理解できた。
自分もヴィアからキラとカガリを預かった時に、思っていたその想いを。
「ラクスさん」
「はい」
「身体を大事にね? キラは甘ったれでどうしようもないところもあるけれど、あなたを守れるくらいには強いはずだから」
そう言うと母は笑ってラクスを見つめる。それに促されるようにラクスも微笑んだ。
「はい・・・・・・」
そんな雰囲気も束の間、キラが母に対して突っ込んだ。
「ちょっと、母さん。甘ったれとどうしようもないは余計だよ」
「あら、本当のことを言っただけよ? ねぇ、あなた」
いきなり話を振られた父は苦笑いして返す。
「もう、二人とも・・・・・・」
文句は諦めのため息とともに消された。
キラの顔は今までにないくらい大人びていて、母は少し歳をとったのかなと思う。
「もう遅い。今日はもう寝なさい。キラ、帰ってきた時にゆっくりと話そう」
父がそう言うと「うん」とキラは頷く。
「ラクスさんもゆっくり休むといい」
「ええ。ありがとうございます」
「じゃあ、父さん、母さん」
「ああ。おやすみ」
「おやすみなさい」
そうして通信は途絶え、画面が元の黒さへと戻る。
父と母はキラ達がいなくなった今もその画面をじっと見つめていた。
「あなた」
「・・・ああ。歳月と言うものは早いものだ・・・・・・」
「ええ。私たちおじいちゃんとおばあちゃんになるのね」
母の言葉に父はくすっと笑ってそうだな、と答えた。
「ヴィア達は見ているかしら」
「たぶん、きっと・・・な」
「そうね。きっと見ているわ。キラ達を守ってくれているわね」
戦争の傷は癒えたわけではないけれど、少なくても時間をかけて立ち直ろうとしている息子の姿を想う。
コーディネイターを創ることで命を落としたキラの両親、友人達、かけがえのないものが犠牲となった。
しかし、死するものあれば生を成すものがある。
今、まさに新しい命が受け継がれようとしている事実を心に受け止め、それを嬉しく思った。
新しい命がこの世に生を持つのはあと少し先のこと。
明るい未来を思うと笑みがこぼれ、少しだけ泣きたくなる気持ちを堪えて、伴侶の肩に頭を預ける。
二人でその生を待ちわび、遥か先を見据えて母は呟く。
「幸せだわ」
その言葉に父は頷き、二人でまた微笑み合った。
終