扉は開かれた・・
そうして私達は次へと進んでゆく―――。
暖かな日差し・・日曜の昼下がり。
私達は取り壊され、新しくなる旧校舎のある場所を整理していた。
「まあ、これ、どうする?」
「んー。捨てちゃっていいよ」
「了解」
動きやすいようにジャージでの作業。
そう…。
あの火事の後、三学期の終業式まで放り出されてた旧北校舎。
本当なら、ココにはもう一人の姿があったはず。
そのもう一人は、今はもうどこか遠くの空の下にいるはずだ。
「おーい。まあ、玲、差し入れ〜」
そう言ってチャリを漕いで来たのはユキ。
おばさんの経営する花屋を抜けてきたみたいだ。ジャンパーの下にエプロンが垣間見えるから。
「サンキュー、ユキ。さっすが〜」
まあは喜んでユキに言う。
ユキはというとふふんとちょっと威張っていた。
「なーにやってるんだよ、ユキ」
その背後からもう一人。少し呆れ顔で私たちの方をを見ている。
ユキの兄であり、私の幼なじみである秋がやって来た。
こっちは塾の帰りらしい。
「秋!!」
「塾終わったから、手伝いに来た。どう?進んでる?」
「うん、まぁ、あとちょっとってとこかなぁ?」
まあはユキ差し入れのスィートポテトにかじりつきながら答える。
はい、とユキから渡されたスィートポテトを受け取ると、私は秋の傍に駆け寄った。
段ボール箱には焼け跡から出てきた品々がある。
「あれ。これ……」
秋は何か言いかけたところで止まった。まあはそれをみて、ああと頷く。
「うん。出てきたの。倉庫の奥から。多分、これ何年も前の文化祭の写真じゃないかなぁ。
いつのかわかんないのが難点だけど。多分、私達の中で見覚えがないから、五番目くらいだと思う」
それに、校舎の形がだいぶ今に近いでしょと付け加えて。
サヨコの劇の写真だった。
この年は、ちゃんとサヨコの劇が行われたらしい。
私も秋の傍でそれを見つめた。ユキも、まあも。
見つめながらしばし思いを馳せる。駆け巡る記憶の数々がそれぞれの胸に響いていた。
そうして、ぽつりと私は言葉を零した。
「ね、私達のサヨコはここで終わったけどさ」
「うん?」
「また受け継がれていくのかなぁ?」
ぼんやりとその先のことを思いながら、一つため息を漏らす。
みんなしんと静まり返った。
「それは、その年のサヨコによるんじゃない?」
まあはきっぱりとした口調で、でもその声には凛とした響きがあって。
あんなにサヨコに執着していたまあとは違う。
「また誰かが始めるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。サヨコは、呼びつ呼ばれつだもの」
「え?」
「伝説次第だろうな。求めれば、サヨコは来る。違うか?」
秋は私を見据えて答えた。
うん、そうかもしれない。
私たちは呼んだんだもの。何か特別な自分になりたくて。
だから――――。
「そっか。そうよね」
「そういうこと」
あっさりと秋は頷き、まあもユキも頷いた。
恐らく、この場にいたら彼女もそう頷くだろう。
「さ、早く終わらせようぜ。母さんがたまにはみんな連れて来いって言ってたから」
ユキは楽しそうに言う。
「え?おばさんが?」
「母さんが?」
私も秋も同時に声を上げた。
「二人とも、いっつも息だけは合ってるよねー」
感心とも呆れとも言うべき顔をしているのはまあ。
最後の一口分のスイートポテトを口に頬張る。
「今日は結構花が売れててさ。もしかすると早く終わるかもしれないから連れて来いって」
「そうなんだぁ」
「じゃあ、早く終わらせますかぁ!」
「そうだな」
四人ともそれぞれ作業に取り掛かる。
空は青い。春がもうすぐそこまで来ていた、そんな午後の昼下がりのこと。
数年後、自分たちは何をそれぞれやっているのだろうと思いながら。
私達の未来は続いていく。
あの日から、開かれた扉は長い先の未来を見続けていた。
「初めまして、潮田玲さんですよね。実はお聞きしたいことがあるのですが……」
またも開かれる扉は、伝説になっていく。
サヨコという名の鍵を開けて――――。
終