02. 秋のゆううつ

暑夏になり始めた7月の下旬、関根秋は高校からの帰り道を歩きながら一人悩んでいた。 中学を卒業してからというもの、別の高校に進んだ大切な幼なじみであり、彼女でもある潮田玲とろくに会っていない。
最初は電話とかしていたのだが、この頃テストやら何やらで忙しかった。
秋の通っている高校は、県の中でも1,2位を争う進学校でもある。
そのため、行事やらテストやら部活やらでハードな毎日を送っていたのだ。

・・・・・こんな時は、玲の顔、見たいなぁ・・・・・。

ふと思ったのである。
玲の笑顔を見ると、不思議と心が落ち着く。これは小さい頃から変わらない。
そんなことを思うのと同時に、ある大事なことに気づいた。
今は7月下旬・・・・ってことは玲の誕生日が近い!!
どうしようか。
玲に何をプレゼントしたら良いだろう?
毎年悩むことである。
第一何が欲しいのかわからない。
去年は確か、玲の大好きな動物のポストカード集と自分が撮った犬や猫の写真をプレゼントした。
あの時の玲の顔といったらなかった。本当に嬉しいという表情をしていた。
色々と考えているうちに家の前。
鍵を開けると、部屋の中は真っ暗。父はまだ帰ってきていない。
1人夕食の支度をして食べる。
と、その時電話の鳴る音。
受話器を取ると、弟の由紀夫からだった。

「あ、兄ちゃん?オレ、由紀夫。もう少ししたら玲の誕生日だろ?どーすんの?」

「あー…何にしようか考えてる最中」

まさか今日思い出したとはとてもじゃないけど言えなかった。
仮にも彼女だ。
いくら忙しかったとはいえ、弟の由紀夫にだけは、忘れていた事実を知られたくなかった。

「そっかー。あ?ちょっと待てよ。おいっ!」

何やら受話器の外が騒がしい。女の声がする。
まさか……

「あ、もしもし。秋くん?」

勘は当たった。
由紀夫の彼女であり、中学のクラスメイトだったまあこと花宮雅子だ。

「うん」

「ひさしぶりー。元気してた?」

「あ、まあな。それよりどうした?花宮」

「ね、秋くん。ここんとこ玲に連絡してないでしょ」

一瞬ぎくっとした。

「あ、うん」

ばつの悪い顔をしながらかろうじて答える。

「だめよー。玲、平気な顔してるけど、本当は淋しいんだよ?少し気を使ってあげなきゃ。秋くんが忙しいのはわかるけどね」

そうなのだ。 玲はいつも周りに気を使っている。
だから心配させないようにつくろってることがあることだって、小さい頃からわかっていた。それも玲の優しさだってことも一番わかっているつもりだ。

「で、要件なんだけど。私もクラスや部活が違って全然会わないの。たまに廊下で声掛けるぐらい。みんな卒業してからなかなか会えないでしょ?だから玲の誕生日に会わないかってことをユキと話してたんだけど、どうかな?」

まあはいっきにしゃべった。
しかもちゃんと事細かに正確に。
さすが元学級委員長。要領を得ている。

「あ、それいいかも。さすが花宮」

その意見には賛成だった。
何よりも友達を大切にする玲にとって、最高の誕生日だろう。

「へへー♪まかせて!」

得意げにまあは答えた。
受話器の外で「俺は?」としきりにユキが聞いている。
まあはそれをなだめるかのように「うん。ユキもだよ」と答えていた。
二人の会話がおかしくもかわいくも思う。

「じゃあ、俺加トと溝口に言っとくよ。そうだな、どうせなら夏休み中だから中学の教室借りてやらないか?先生も呼んで」

どんどんアイディアが浮かぶ。
さっきまで悩んでた頭が嘘のようだ。

「そうね。じゃあ、私は沙世子に聞いてみるね」

「うん。わかった」

「詳しいことはユキに連絡させるね。じゃあユキに代わる」

「うん」

ちょっと待つとすぐユキの声が聞こえた。

「あ、兄ちゃん?そういうことだからさ、また今度連絡するよ。じゃあ」

「うん。また」

そうして電話は切れた。静かに受話器を置く。
……今年はすごい誕生日になりそうだ……。
冷えたスープを飲み干し、そんなことを思う。
今から玲がどんな反応をするのか楽しみだな。玲のことだから、みんなの姿を見て泣くかも……。
ふと玲の泣き笑いの顔が目に浮かんだ。
玲は表情豊かだ。ころころ変わる。
そうだ、玲がこの前欲しいといっていた小さな石のついたペンダントをプレゼントするのもいい。
そう思いながら、中学の時の連絡網の紙を取り出し、受話器を持った。






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