新しい土地に住み着いて1週間。
津村沙世子はとても退屈していた。
前の学校『西浜中学』はとても楽しかった。
もう何十年も語り継がれている、『サヨコ伝説』。
それは、沙世子の心を楽しくさせてくれたのだ。
中一の終わり、両親がまた転勤するとのことで準備していた矢先。
ある一通の手紙が届いた。
その中には「指令書」と呼ばれるものと、一つの鍵が入っていた。
最初は乗り気ではなかったが、“どうせなら”と思って祖母百合絵の家に一年間だけという条件で、西浜市に越してきたのだった。
両親は最初反対し、それを説得するのにも時間がかかった。
だが、自分の手元にある一通の手紙と鍵―――……。
これだけが支えだった。
西浜中での一年間は色々とあった。
最初は、「何で私がこんな目に――?」とよく思った。
また「どうして私が疑われなきゃいけないの?」とも。
私と同じ名前の伝説。
うれしくもあり、うざくもあった。
嫌なこともあったけれど、良いこともあった。
今までできなかった、“本当の友達”――親友に巡り会えたことだ。
たくさんの友達ができたことは、私にとっての一番大事な宝物となった。
特に仲の良い友達―…潮田玲と関根秋に会えたことは私の人生の転機となった。
何でも素直に感情を表に出し、友達を作ってしまう潮田玲。
いつも傍観者からの立場で見ている、私に少しばかり似た関根秋。
この二人が―――…………。
西浜中に来た時は『どうせまた同じ』と半分思っていた。
けれど、心のどこかでは何かを期待していたと思う。
友達もできず、面白くもない学校生活だろうと。
だが、予想に反して私の周りは目まぐるしく動く。
サヨコ伝説のに振り回されながらも、私はそれを楽しんでいる自分にいつしか気づいた。
嫌なことも、良いこともひっくるめて、『思い出』となった。
そして自分自身をちゃんと見れたのも、『サヨコ伝説』のおかげかもしれない。
自分のことがわかったし、自分の感情を表に出すこともできたから。
そのキッカケを与えてくれたのは――祖母。
恐らく、私のことを案じてのことだと思う。
そして、担任だった黒川先生。
ずっと見守っていてくれた――……
西浜中学でのことを思い出すたび、胸が熱くなる。
かけがえのない時間を過ごすことのできた1年間。
本当に楽しかった。
そう思えるのは。
玲やみんながいたから。
だけど 今は誰もいない。
私一人。
だったら。
私が伝説を作ろう。
もう一つのサヨコ伝説を。
入学式の日、赤い花を生けて。
文化祭はサヨコのお芝居をし。
卒業式には鍵を渡す。
西浜中学にはない、私のサヨコを作ろう。
そして。
語り継がれていくように。
伝説として残るように。
見守っていこう。
サヨコ それは、私に大切なものを教えてくれた。
大切な仲間をくれた。
だったら。
今度は私が教える番。
新しい中学で。
新しい、私だけのサヨコを。
―――作っていこう。
「ね、見てみて。サヨコよ!!」
「本当だ。本当にいたんだ!」
「今年はどんな年になるんだろうね?」
再び扉は開かれた―――。
新たなる『サヨコ伝説』の扉が………。
終