は闇の夜を照らし、川はその光できらきらと水面を輝かせていた。
汗ばむ陽気がまだ残る夜は、握る手もまたじわりと汗を滲ませる。
見つめる先にあるその制服の後姿は、あの時を思い起こさせた。
「久しぶり」と言ったのはいつ振りだったのか。
季節が幾度も巡り、あの学び舎を出て行った日のことは今でも覚えている。
黒のセーラーに赤のスカーフ。
一人ずつ手渡された赤のガーベラを持って、私達はまた一つ外の世界へと旅立っていった。
その日から、もう三年近く。
今は白いブラウスにチェックのプリーツスカートを履いて、いつもと変わらぬ長い髪の毛をなびかせていた。
「玲は変わらないね」
急にくるっと振り返るとそう言って微笑む。
「それって褒めてるの?それともけなしてるの?」
いささか複雑な心境となり、その真意を問う。
「褒めてるのよ。あの時と変わらない玲がいてホッとしたわ」
「あんまり褒められてる気分にならない・・・・・・」
そう言うとくすくすと笑って鞄をもう片方の手に持ち替えた。
「関根くんやまあは元気?」
「うん。みんな相変わらずだよ。沙世子がもうちょっと前もって言ってくれればみんなと連絡つけたのに」
「ごめんごめん。急に来たくなっちゃったのよ」
そう言った横顔は何となく淋しさを漂わせる。季節は夏なのに、そこだけ秋と感じるのはなぜなのか。
「沙世子・・・・・・?」
なぜか不安が過ぎり、手にまた汗が滲んだ。
その横顔はじっと川の水面に映される月を眺め、そして一つ息をつく。
「迷うのよ」
「何に対して?」
「このまま突き進んでいいのか、それとも道を変えるべきなのか」
「この先のこと?」
「うん」
静かに頷くと道端にあった小石を拾って川へと投げ入れる。その石が反応して水面に波を打たせてた。
『教科書のようにいかないと不安なの』
そう言っていたのは中学校二年の時。
自分で切り開くべき道は難しければ難しいほど、迷いが生まれる。
沙世子もまた、その壁にぶつかったに違いない。
そしてその壁はちょっとやそっとじゃ登れないから、突き破ることできないから不安だったんだろうことは予想できた。
「・・・・・・私は沙世子の思う道を行って欲しい」
「玲?」
「何を迷ってるかわからないけど、沙世子が信じた道なら大丈夫だよ。きっとうまくいく」
「玲・・・・・・・・・」
「もう、沙世子の中で答えは見えてるんでしょ? だったら大丈夫。沙世子の信じたこと、嘘じゃないなら心配ないから」
そう言ってもう一度笑った。
ぽんと背中を軽く押すように、、その未来へと続く道に沙世子を送り出す。
勇気をもてるように。
それが唯一私ができること。
「・・・・・・・・・ありがと、玲」
今度は沙世子も笑ってそう言った。
「どういたしまして」
あの日確かに私達は出会った。
小夜子と言う名の真実の扉を開く、その仲間であった私達。
バラバラになっても、心のどこかで信じている自分がいる。
きっとこの願いは嘘じゃないってわかっているから。
悩んだ時、壁を乗り越えるために勇気が必要になった時は、その背中を押せる、そんな仲でいたい。
私は沙世子を信じてるからね―――――
そんな願いをこめて水面に映る月と川の流れを見つめた。
今宵は満月。
二人の再会を祝して、気持ちよい風が吹き抜けるのと沙世子の声が重なったのは同時。
「玲、ありがと」
再び口にした言葉は月夜へと解けていった。
終