校舎の屋上に二人の影が並ぶ。
二人の手には卒業証書。
中学の卒業式だった。
「あっというまだったな」
彼の言葉に彼女は「うん」と答えた。
幾分穏やかな表情の彼女。
彼女の中には思い出が蘇ってるのだろうと彼は思った。
だから声は掛けない。
思い出に浸ってるのだから。
今日ぐらいはいいと思う。
さわやかな風が吹く。
もう季節の変わり目なのだ。
「ねぇ、私って成長したと思う?」
彼女は問う。
「ああ。入学した時よりも、な」
「そっかー。ありがと、ユキ」
彼―ユキはその時見せた彼女の笑みに一瞬見惚れた。
いつからだろう。
少しばかり大人になった彼女の微笑みに気づいたのは。
見惚れるほどの綺麗な微笑みだった。
「?どしたの?ユキ」
怪訝そうな顔でユキを見る。
「ううん。何でもない。まあこそどうしたんだよ。そんなこと聞いて」
彼女―まあは少し黙ったあとしゃべり始めた。
少しずつ、ゆっくりと。
「……ん。なんかさ、玲の表情大人っぽくなったと思わない?……多分秋くんのせいなんだろうけど、玲、綺麗になった」
「そうか?俺は気づかなかったけど…むしろ……」
そこで言葉を止める。
まあは「むしろ?」と尋ねた。
……まあの方が綺麗になったと思った……
とは当然言えなかったのだ。
こんな恥ずかしいこと。
本人目の前では言えない。
「ううん。何でもない」
そう言うと一つ伸びをする。
雲ひとつない青空が漂う。
門出にはぴったりの天気だ。
彼―ユキはずるい。
何でそこで言葉を止めるのかな。
気になって仕方ないじゃない。
伸びをするユキを横で見る。
ここ数ヶ月でだいぶ背が高くなった。
入学当初は大して変わらなかったのに。
今じゃ10cmは差がある。
もちろん私だって少しは伸びた。
けれど、それ以上に伸びたのはユキ。
兄貴である秋を追い越したのは中2の時。
それに発言だって考え方だって大人になった。
私が焦るほどに。
おいていかないでよ。
言いたかった。
けど、ユキも同じようなことを思っていたらしい。
さっきこっそり教えてくれた。
なーんだって笑って。
それがまた嬉しかった。
「なぁ、まあ。中学校はこの先も変わらないんだろうな……」
ユキがぽつり呟いた。
少しばかり伸びたユキの前髪が揺れる。
「そうだね。毎年沢山の人を受け入れ、そして旅立っていく……それの繰り返し」
そう、それは繰り返される。
流れは変わらない。
「だな。季節は巡る…かぁ」
半分納得して、でも半分は納得してないようで。
そんな表情をするユキ。
「何、どうしたの?いきなり詩人っぽいこと言っちゃって」
私は少しからかった。
「いいじゃん。たまにはそう言うこと言いたい時もあるの」
ムキになる彼がかわいくて。
からかうけど。
実は私も同じことを考えていた。
“季節は巡るもの”――……
同じことを考えていたのだなと思うと、嬉しかった。
以心伝心?
くすくす笑うと、ユキは怪訝な顔をして私のことを見てる。
「笑ってないで、帰るぞ」
ユキはよっかかっていたフェンスから体を離す。
私は歩き出したユキに追いつくと、腕を組んだ。
「いこっか」
そういうとユキはふっと笑った。
「ああ」
“季節は巡る”――……
暖かい心地のいい風が吹く。
そう。
もう春はすぐそこだ………
終