01. 巡りめくもの


校舎の屋上に二人の影が並ぶ。
二人の手には卒業証書。
中学の卒業式だった。




「あっというまだったな」




彼の言葉に彼女は「うん」と答えた。
幾分穏やかな表情の彼女。
彼女の中には思い出が蘇ってるのだろうと彼は思った。
だから声は掛けない。
思い出に浸ってるのだから。
今日ぐらいはいいと思う。


さわやかな風が吹く。
もう季節の変わり目なのだ。

「ねぇ、私って成長したと思う?」

彼女は問う。

「ああ。入学した時よりも、な」

「そっかー。ありがと、ユキ」

彼―ユキはその時見せた彼女の笑みに一瞬見惚れた。
いつからだろう。
少しばかり大人になった彼女の微笑みに気づいたのは。
見惚れるほどの綺麗な微笑みだった。

「?どしたの?ユキ」

怪訝そうな顔でユキを見る。

「ううん。何でもない。まあこそどうしたんだよ。そんなこと聞いて」

彼女―まあは少し黙ったあとしゃべり始めた。
少しずつ、ゆっくりと。





「……ん。なんかさ、玲の表情大人っぽくなったと思わない?……多分秋くんのせいなんだろうけど、玲、綺麗になった」





「そうか?俺は気づかなかったけど…むしろ……」




そこで言葉を止める。
まあは「むしろ?」と尋ねた。






……まあの方が綺麗になったと思った……







とは当然言えなかったのだ。
こんな恥ずかしいこと。
本人目の前では言えない。

「ううん。何でもない」

そう言うと一つ伸びをする。
雲ひとつない青空が漂う。
門出にはぴったりの天気だ。






彼―ユキはずるい。
何でそこで言葉を止めるのかな。
気になって仕方ないじゃない。
伸びをするユキを横で見る。
ここ数ヶ月でだいぶ背が高くなった。
入学当初は大して変わらなかったのに。
今じゃ10cmは差がある。
もちろん私だって少しは伸びた。
けれど、それ以上に伸びたのはユキ。
兄貴である秋を追い越したのは中2の時。
それに発言だって考え方だって大人になった。
私が焦るほどに。
おいていかないでよ。
言いたかった。
けど、ユキも同じようなことを思っていたらしい。
さっきこっそり教えてくれた。
なーんだって笑って。
それがまた嬉しかった。

「なぁ、まあ。中学校はこの先も変わらないんだろうな……」

ユキがぽつり呟いた。
少しばかり伸びたユキの前髪が揺れる。


「そうだね。毎年沢山の人を受け入れ、そして旅立っていく……それの繰り返し」


そう、それは繰り返される。
流れは変わらない。

「だな。季節は巡る…かぁ」

半分納得して、でも半分は納得してないようで。
そんな表情をするユキ。

「何、どうしたの?いきなり詩人っぽいこと言っちゃって」

私は少しからかった。

「いいじゃん。たまにはそう言うこと言いたい時もあるの」

ムキになる彼がかわいくて。
からかうけど。
実は私も同じことを考えていた。
“季節は巡るもの”――……
同じことを考えていたのだなと思うと、嬉しかった。
以心伝心?
くすくす笑うと、ユキは怪訝な顔をして私のことを見てる。

「笑ってないで、帰るぞ」

ユキはよっかかっていたフェンスから体を離す。
私は歩き出したユキに追いつくと、腕を組んだ。

「いこっか」

そういうとユキはふっと笑った。



「ああ」



“季節は巡る”――……
暖かい心地のいい風が吹く。
そう。
もう春はすぐそこだ………









*2003年の文化祭企画の作品でした。読んで頂きありがとうございます!