【一緒にやるということ(貴子+融)】(共同作業/2人の関係 5題(1))
これが初めての共同作業だと言うには、複雑な感じがした。
目の前にあるそれを見つめながら融はそんなことを思う。
―――西脇家之墓。
記された文字は石に刻まれて立っていた。
「なんか、この季節だと線香の数も多いよね」
辺りを見回しながら甲田貴子は呟く。融――西脇融は鼻を掠める線香の香りに「ああ」と頷いた。
ごしごしと汚れが残る墓石を洗う貴子と融は腹違いの兄妹。
貴子にとっては初めて訪れた、自分の父の墓参りだった。
「それよりも、お前手を動かせよ」
「はーい」
貴子は再び墓石を磨き始めた。
季節は春の初め、大学受験を終えた2人は報告も兼ねて、春分の日を選びここへと訪れた。
融の母は貴子と行くことについては何も触れていないし、貴子の母は「そう」とだけしか言っていない。
内心複雑なんだろうなぁと言うことはお互い分かってはいても、それ以上の言葉をかける気もしなかった。
ただ、無断で行くには何となく後ろめたい気持ちがあるため、一言だけ告げて二人で行くことにしたのだが。
「やっぱり一年以上経ってると墓石って汚くなるもんだよね」
「まあな。一昨年の夏以来だよ、ここに来るのは。去年はそれどころじゃなかったし」
「そうだよねー。でも、無事前期試験で国立受かって良かったね」
「そう言うお前も第一希望の私立に受かって良かったじゃん」
「私一人だけ私立なのは寂しいけどね」
「遊佐は国立だもんな」
「うん、戸田くんと同じとこに受かって良かったね」
「ああ、そうだな」
あの歩行祭以来、話をするようになった貴子と融は共通の友人である戸田忍と遊佐美和子の4人でつるむようになった。
だが、それは校外での話で、実際教室では話すことはほとんどない。
卒業式のあの日、貴子は親友である美和子の言葉に驚いたものだ。
『二人で墓参り行っちゃえば? 報告も兼ねてさ』
は?と間抜けな声に美和子は苦笑いを浮かべていた。
『今頃同じこと戸田くんが西脇くんに言ってると思うよ』
くすくすと笑う美和子と別れて忍と偶然出会った貴子は口伝えに言葉を受け取る。
『春分の日に、駅で待ち合わせて墓参り行かないかって、融が』
二月の末、融が貴子の自宅に訪れて以来の話だった。
そして二人で今日、報告がてら墓参りに訪れたのである。
墓石を磨き終え、水をかけると綺麗になった墓石が現れた。
融も貴子も満足そうな表情を浮かべて花を添え、線香をあげると二人ともしゃがんで祈る。
それぞれの想いを胸の内で語りかけ、不思議な感じだなぁと思う気持ちを抱きながらもう一度墓石を見上げた。
「何、言ってたんだ?」
「んー、初めまして、と大学受かりました、かな? そう言う西脇くんは?」
「俺は大学受かったってことと、まぁ、何とかやってるってことだけ」
「そっかー」
「そうだよ」
肩を並べて歩きながら、不思議な感覚を覚える。
それでも、この距離が少しだけ嬉しいと感じたのはきっと貴子も融も同じに違いなく。
「また、一緒に行こうね」
「そうだな」
貴子の言葉に頷いた融と共に背中に夕日を背負いながら歩いていた。
これからもずっとこの血が繋がっている限り同じ道を辿るかもしれない、そう思いながら―――。
終
【ひと。(貴子・融・美和子・忍)】(安心できる5題)
「人って不思議だよね」
突然美和子が呟いて、貴子はぎょっとすると美和子の横顔を見つめる。
それは融も忍も一緒だったらしい。二人とも美和子を見つめていた。
「何を、急に」
片手にシャープペン。手前にはノートと教科書。
最も受験生らしい姿の4人のいる場所は近くの図書館。
最初は貴子と美和子、忍と融の組み合わせで図書館に訪れていたのだが。
ばったりと鉢合わせた四人はいつの間にやら肩を並べて勉強し始めたのである。
「だってさ、言葉をしゃべって、こうやって書いたりして、他の動物にはない行動でしょ?」
「あぁ、そういうこと・・・・・・」
忍も美和子の言葉に納得したらしくうんと頷いた。
「歩行祭もそうよ。歩くだけの行事を考えて行動する、これも人でしかできないことよね」
「確かに」
今度は融が頷いた。貴子ははぁ、と美和子を見つめる。
どうしてそんなことを考えたのか、美和子の教科書を見て納得した。
「生物やってて思ったの?」
「そ。どうして私たちはこんなに頑張って勉強してるんだろう、とか考え始めちゃって」
「あー、それわかるわかる。考え出すときりないってわかってるけど、考えちゃうっていうか」
「お。戸田くんはわかってくれるのね。貴子なんて呆気にとられてるわよ」
「だって、」
「はいはい。ごめんごめん。ちょっと口にしたかっただけだから」
他愛のない会話。
数ヶ月前までならこんな風に四人で話をすることなど、ましてや勉強することなどなかっただろう。
特に貴子と融に至っては尚更だ。
確かに人って不思議だな。
貴子は美和子の言葉をなぞりながら、目の前にある現代社会の教科書とノートへ視線を移して一人ごちていた。
終
【花と思い出(夜ピク:忍貴子)】(花とセットで贈る5のお題)
「花、そんなに好き?」
不思議そうに貴子を見つめて忍は問うと、そうだねぇと曖昧な返事をする貴子がいた。
「そう言うわけじゃないんだ?」
「そうじゃないんだけど、思い出すことがあるなって思って」
貴子の脳裏に浮かぶのは一つの思い出。
あれは高校を卒業したくらいの時のことで、菓子となぜか小さな花束を持って西脇融が我が家を訪れた。
貴子はその組み合わせに驚きはしたものの融なりの優しさなのだと言うことに気づいて、
敢えてそれには触れなかったが。
「西脇融がね、うちに来た時持って来たの、小さな花束」
ほら、千円くらいで作ってくれる小さなものがあるでしょ、あれ、と小さく笑う貴子を見つめて忍は微笑む。
あぁ、なるほどと忍は頷いた。驚いたのもあったのだろうが、やはり嬉しかったのだろう。
「融には会ってるの?」
「たまにね。何てったって兄、ですから」
「そうだよねぇ。美和子ちゃんとは?」
「上手くいってるみたい。さすが我が親友、って感じかな。西脇融とは会ってないの?」
「ここ一ヶ月くらいね。アイツも忙しいみたいだし」
「そっか。寂しい?」
「まあね。でも、今は甲田さんと一緒だから寂しくないよ」
さらりと言う忍に思わずどんな顔をしていいのかわからず、貴子は曖昧な笑みをこぼした。
忍は何でもお見通しなのだろう、少しだけ余裕のある表情を浮かべている。
「すごいねぇ、戸田くん」
「ほら、言ったじゃない? 俺は本気だって」
ね、と笑う忍にますます貴子はどうしていいのかわからず、困惑な表情を見せていた。
「そんな姫にプレゼント」
はい、と差し出さされたのは小さな花束。え、と貴子は見上げて忍の瞳をまじまじと見つめる。
そこにあるのは満足そうな表情。
「融からのアドバイスでね。どう? 気に入った?」
不意打ちだ、と貴子は思いながらも顔を綻ばせる。
忍の優しさに触れて、貴子はありがとう、と呟いていた。
終