04. ごめんねと
ありがとう


あ、と思った時には遅かったんじゃないかって思う。
気づけば目の前にいたのは黒髪をまとう少女。
彼女の名は―――津村沙世子。


「あ、津村さん……」


親友の見舞いの帰りだった。自分のせいで怪我をした親友の。


「あ、花宮さん……」


二人の間には気まずい沈黙が流れる。
あの日、彼女には頬を叩かれ、私は叫んでいた。
どれだけの人間に迷惑をかけたか、今ではよくわかっている。
巻き込んだ人間にはある程度謝ったが、彼女だけはまだだった。
タイミングをいつも逃してしまうというか。


だから、こんなのは予想外だった。
まさか、こんなとこで会うなんて。


「潮田さん、元気だった?」


言葉に躊躇してる私にそう尋ねてきた、そのことがすごく驚いて「あ、うん。元気だよ、玲は」とどもる。
そっかと呟くと彼女は「じゃあ」と言って親友の部屋へと向かおうとまた動き始める。
あ………と思った時には彼女の腕を掴んでいた。きょとんとした顔で私を見つめる。


「ね、ちょっとだけ時間いい?」



今の私に言える一言だった。







病院の中庭は広く、緑がたくさんある。子供達のはしゃぐ声に老人がしゃべる声。
陽があたってとてもあたたかい。その中の一角のベンチに腰掛ける。
なんとなく、声をかけにくい。
こうやって連れて来たはいいけれど、どうもこの空間が重かった。

「花宮さんは、サヨコになりたかった?」

突然彼女から質問され、思わず息を止めた。
さらりと流れる風は少しずつ春の訪れを感じさせる。

「……うん、なりたかった」

自分の正直な気持ち。憧れていた、サヨコになると言うことに。
淋しかった、気づいて欲しかったあの時の気持ちは今ではだいぶ薄れている。

「そっか」

「憧れだったの。私の知ってる人が変わってるのを見たら、私もなれるかもしれないって思ったから、なりたかった」

物語の主人公に、なりたかったんだと思う。
二人の間には先ほどの重い空気はいつの間にか消えていた。
今は穏やかな風が流れるように、心が落ち着いていられる。

「憧れ…かぁ……」

「でもね、正直妨害してる時は淋しくて仕方なかった。結局は偽者だもの」

「そうね……」

今なら言えるかもしれない。
早まる鼓動を抑えながら、一つ息を吸う。
これから言う言葉は勇気のいる言葉だから。


「津村さん、ごめんなさい」


身体を向き直して、頭を下げた。
友達とケンカしても謝ることなんて難しいことじゃないのに。
彼女の前では違う。何か感じる威圧感。

「それからありがとう」

ひっぱたいてくれてありがとう。
あの時叩いてくれなかったら目、覚めなかった。


一瞬虚をつかれたような顔をして、すぐに元の顔に戻す。


「こっちこそ、引っ叩いてごめんなさい。痛かったでしょう?」

「ううん、いいの。痛い方がいい」

「そう?」

「目覚ますためにはあれくらいいたい方がいい」

「そっか」

「うん」


ありったけの勇気振り絞って、やっと言えた言葉。
ほっとして何だか力が抜ける。
謝罪の言葉と感謝の言葉。
相反する言葉なのに、今には似合う。
不思議だなと思いながら隣に座る彼女を見つめた。

「あ、じゃあ私そろそろ行くわ」

「うん、ごめんね、引き止めて」

「ううん、気にしないで。それじゃ」

「また学校でね」

そう言って別れる。彼女は病室へと戻り、私は未だこのベンチに座って。
なんか疲れたなと思う。でもどこかですごく満足してる自分がいる。


多分まだ親友の病室で話してるだろう彼女らのことを思いながら、ようやく重い腰を上げた。


ごめんね、ありがとう。




多分、明日はきっと天気がいい。






*あとがき*
リクエストで沙世子が転校する前の一ヶ月間の話を書いてとのことでした。
まあと沙世子。滅多にない組み合わせですが、考えると意外といけるんだなーと思いました。
まだネタがもう一つほどあるんですよー。いつか載せたいなと思っています。
リクエストくれたたっくん、どうもありがとうございました。