不思議だった。
あの兄貴がどうしてこうなったのかが。
幼い私の心に疑問を抱かせた。
兄貴が変わったのは中学生の時。
その理由は『サヨコ』だと兄は言った。
中学校の言い伝えであるのだそうだ、『サヨコ伝説』というものが。
幼い私を見て、多分理解してないんだろうなと判断したのか、
『サヨコ伝説』について語りはじめた。
短いようで長い物語。
色んな話として残ってるんだよと兄は言う。
私はなぜかその話がとても羨ましくてならなかった。
なぜなら。
あのいつもやる気がなくて、どうしようもないような兄だったのに。
確実に、変わったのだから。
自分だけの物語がある、『サヨコ』をやってみたい。
確実に、自分の中にその想いは広がる。
どんな自分になれるのか。
そして、この兄のように何か大きなものを掴めるのか。
幼心に思った。
私は、私だけの――――。
願いは届くだろうか。
兄のように変われる、そんな自分になりたいのだと。
くしゃっと私の頭を撫でたその兄の笑顔と。
そのぬくもりが残っていた。
「ね、ね、サヨコ伝説って知ってる?」
季節は何度も巡り、自分が中学校に上がって数ヶ月。
友人たちの会話からそんな言葉が飛び交っていた。
サヨコ――――。
久々に聞くその名に私はドキドキと鼓動が鳴る。
来年は、六番目のサヨコの年。
鍵は誰に送られるのか?
誰にでもない、サヨコに願う。
私に、鍵を下さい。
あの兄のように。
変わる何かを。
どうか………。
終