01. Teenagers
−大切な時−

いつからだろう?急に秋が私よりも遠い存在に思えたのは。
隣に住んでいて、私の幼なじみ。
頼りになる面倒見の良い、それでいて、時折見せる切ないような悲しい顔をする。
「玲はもう俺のこと守ってくれなくてもいいから―・・・」秋に言われた一言。
今までいた世界が急に足元から真っ暗になった気分だった。
そこからだ。
何となく秋とは、今までみたいにはいかないのかも、と思い始めた。
胸が痛かった。どうしたらいいのかわからなかった。前のようにはなれないの?

「もう少ししたら、みんな離れ離れだね・・・・・」

夕日に染められた教室に、まあと私、二人で勉強をしていた。
まあがポツリといった一言は切なかった。

「そう・・・・だね。でも、ま、まあと私は志望校一緒でしょ?」

「そうだけど・・・・秋くんは確実に違うじゃない。今までのグループでしゃべることもなくなるんだなぁ・・・・って思ったらさ」

「うん・・・・・・」

秋は頭がいい。私とは比べものにもならない。
私とまあは県立西浜高校を第一希望にしていた。
が、私立はバラバラ。
もしかすると、秋もまあもユキも溝口も加トもバラバラ・・・・・かもしれない。
見たくない現実―が、もうそこに迫っていた。

「ねぇ、玲。玲って好きな人いる?」

まあの突然の一言。シャープペンを動かしていた手が止まる。

「え?まあ好きな人いるの?」

「うん・・・・・・。卒業する時『告白』しようかなー?なんて」

照れるまあ。はにかんだ笑顔がかわいかった。

「もしかして・・・・・・ユキ?」

このところ、ユキとだいぶ仲がいい。
よく二人で帰るところも見る。

「うん。ダメもとで。玲はどうなの?秋くん?」

ちょっと身を乗り出して、まあが聞く。

「えー?私と秋は幼なじみなだけだよ」

「そう?秋くんと玲ってお似合いなんだけどなぁ」

ちょっと口惜しそうにまあがつぶやいた。

「え?どんな風に?」

「玲が騒いでる横で、見守る秋くんみたいな?」

「それって子守りってこと?どうせ、私は子供っぽいよ―だ」

ちょっと拗ねた真似をしてみせる。

「うーん、そういうことじゃなくって。そうだなぁ、なんか雰囲気が良いのよね。二人とも。同じ空気を持ってるって言うか、ホッとするって言うか、上手く言えないんだけど二人を見てるとそう思うんだよね。私みたく思ってる人結構いるんじゃないかな?」

「ふーん、そうかなぁ?」

表は平静を保っていたけれど、心の中ではちょっと嬉しいような気がした。
気がつくと、あたりは日が傾き始め、校庭は赤く日の色に染まっていた。


まあと別れて一人家路を歩く。もうあたりは真っ暗だ。
予定の時間をだいぶ超えての家路。
何となくそのまま家に帰りたくなくて、色々と道草をしていたらとっくに7時をまわっていた。 とぼとぼ歩いていたその時、聞き覚えのある声がした。

「玲!」

秋だ。

「何でこんな時間まで・・・・どこほっつき歩いてたんだよ」

やんわりとした口調で、少し怒り気味の秋。

「ごめん、ちょっと考え事してて・・・・」

いつもならここで「考え事なんて似合わないって」みたいな感じで言う。
けれど・・・・・・。

「ほら、外は寒いんだから。はい」

そう言うと、秋は自分の着ていたジャンパーを玲の肩に掛ける。
そう、優しいんだ。
いつからだか秋は優しくなった。私には結構容赦なく言っていたのに。

「うん、ありがと」

私は嬉しいような、少し寂しいような気持ちになるのだ。
その時にふっと思うことがある。
秋がどんどん離れて行っちゃう・・・・。
その度に胸が痛い。
大人になるってこう言うことなの・・・・・?
そんな疑問を私は抱えながら、二人家に帰った。
耕は塾でいない。お母さんも近所に出かけている。お父さんはまだ仕事。秋のお母さんも仕事。
いつもなら秋は秋のお父さんの方に暮らしているからホントはいないはずだが、今日は秋のお父さんが出かけるとのことで、ユキの所に遊びに来ていた。
ユキと私と秋で晩御飯を食べていた。ユキの面白い話に私と秋が笑う。
けれど、私は心の底から笑えてなかった。
ご飯も食べ終えて、秋と私は皿を洗っていた。
ユキはのんびり居間でテレビを見ている。ジャーっと水の流れる音。私は食器を洗い、秋が拭く。

「ったく。少しはユキも手伝えよなー。」

「まぁまぁ仕方ないって」

私は笑いながら、秋をなだめる。

「なぁ、今日何で遅くなったんだ?学校閉まるの6時だろ?」

「え?あ、まぁ色々と寄り道を・・・・・ね。一人で何か考えたかったって言うか。うん」

「ふぅーん」

私はずっと考えていた。まあに質問された時のことを・・・・。

『玲って好きな人、いる?』

考えてもみなかった。
と、同時にまあも離れていってるような気がした。
みんな、みんな私から離れていく・・・・。

「なぁ、玲は好きな人いるのか?」

秋が突然聞いてきた。一瞬私が考えていたことがばれたかと思い、ドキッとした。

「え?何で?」

「いや、考えごとしてるから、いるのかなーなんて思ってさ」

「ううん。いないよ。秋はいるの?」

「お、俺?・・・・・・いるよ」

秋の口から出た一言。

『いるよ』

すごくショックだった。ホントはいてもおかしくないはずだけど、心のどこかで「いないだろう」と思っていたのだ。
むしろ信じていたのかもしれない。

「ふ、ふぅーん。秋もうまくいくといいね。その子と。じゃ、私家に帰るね」

食器を洗い終えると、そそくさと足早に家に戻った。
一人取り残された秋は・・・・。

「バーカ・・・・・・お前が言うか?」

ボソッとそんな一言を言っていた。居間の方からテレビの音だけが聞こえた。


前のようには行かない・・・・・無邪気の子供のままじゃ、いられない。
秋の言ったことがすごくショックで、私はたまらなかった。
まあも秋も遠い人のように感じる。
ボーっとしながら、机に目をやるとそこには一通の手紙。沙世子からだった。
いつも通りマイペースにやっていること、友達のこと、学校のこと、色々なことを便箋5枚に渡って書き綴られていた。
読んでいると中学2年の時のことが次々と蘇ってきた。
沙世子に彼氏ができたら・・・・?
ふとそんなことを考えてしまう。
沙世子もまた、私をおいていってしまうのだろうか?
もう何だかぶちまけたい気分で、便箋に今日のことを書いた。
そして、次の日の朝手紙を投函した。
沙世子はどう思うのだろうか?
少し不安に思いながら学校へ向かった。


沙世子からの返事が無いまま、数週間が過ぎた。
その間に定期テストや行事など忙しく、私自身も手紙の存在すら忘れていた。
12月中旬。
クラス全員でクリスマスの日に教室でクリスマス会を開こう!という話になった。
その日だけは受験生だということを忘れよう!ということらしい。

「じゃあ、一人会費は500円。プレゼントは300円までで、飾りつけは女子が担当。つけるのは男子担当と言うことにします。いいですか?」

学級委員のまあが元気良くみんなに聞く。
みんないつもよりも元気な顔。

「はーい。いーです」

声をそろえて元気良く答える。
「いやー、こう言うときだけ元気が良いなぁ、お前たち」と黒川先生はあきれていた。
そして当日、女子は朝早くから集まり、飾りを作っていた。私とまあは花を。
少ししたらユキと秋の他数人の男子が到着。まあはテキパキと指示をする。
ユキと秋が隣に来て、花を作り始めた。

「こうやってると、ホント受験生だってこと忘れるよ。」

ユキは嬉しそうに言い、横にいたまあもため息まじりに言う。

「まあね。来年に入ると受験一色だもん」

「仕方ないよ。まあ、同じ高校目指して頑張ろうねー」

「うん」

「あれ?じゃあ、玲も西浜?」

「うん。そう・・・・・“も”ってじゃあ、ユキも?」

「うん。近いしな。溝口は第二希望を西浜にしてるんだろ?」

意外な答えにみんな身を乗り出して溝口に視線を送る。

「そうなのよー。まぁ、第一希望は高専なんだけどね」

「ふーん」

みんな声をそろえて答えた。
誰も溝口の進路は予想してなかったらしい。
まぁ、最も溝口こそ将来何になるのか楽しみなのだけれども。

「じゃあ、兄ちゃんだけ違うな。都立だしね。何でも一位二位を争うとこなんだっけ?」

「よせって」

「そうなの?秋くん」

「うん・・・・・まぁ・・・・・」

そう言うと秋は私のほうをチラッと見た。
私はというと、動揺していた。
何にも話してくれなかった・・・・。
ただそのことだけが私の頭の大部分を占めていた。

「し、秋も頑張れ!まぁ、秋なら問題ないと思うけど」

私は必死で動揺を隠す。
予想はしていた。 秋は頭が良いから、遠くの学校を選ぶってことぐらい・・・・。
隣とはいえ、会う機会もだんだん減る。
ましてや、秋に彼女ができたら、本当にあえなくなるだろう・・・・。
いや。そんなの嫌だ。秋と会えなくなるのは・・・・嫌だ。
胸が痛い、淋しい・・・・・。どうしていいのかわからない。

「あ、ちょっとトイレ行ってくるね」

私はみんなにそう告げると、教室を後にした。

とぼとぼ歩いていると、後ろからまあの声。

「玲!」

「ん?何?」

必死で笑顔を作る。悟られないように・・・・。

「玲、そんな辛そうな顔するのやめてよ。私、見てられないよ。本当はすごくショックで淋しいんでしょう?」

まあの優しい一言。
・・・・やっぱまあにはわかっちゃうかぁ。
私はまあの側に寄って肩に寄りかかる。

「まあ、私、本当にどうしていいかわかんないよ。秋に会えなくなるのすごく嫌なの。淋しいの。こんな弱音を吐く私も嫌なの・・・」

まあは私の肩をぽんぽんっと叩くと、こう言った。

「ねえ、玲。玲は秋くんのこと本当はどう思ってるの?」

「え・・・・・?」

「素直な気持ちで言ってごらんよ」

「頼りがいがあって、それでいて少し子供っぽいところがあって、優しくて・・・・」

言いかけてるところに、まあの言葉が遮る。

「そうじゃなくて、好きなのかってこと」

「え?あ、うん。嫌いじゃないよ。むしろ好き」

「ねぇ、玲はもう一度自分の心に問い掛けてみなよ。秋くんのことどれくらい好きなのかって」

「う、うん・・・・。わかった」

まあの勢いにさすがの私もたじろぐ。
まあはほっとした表情を見せ、私から離れた。

「じゃ、ちょっとトイレ行ってくるよ。」

「うん。早く戻ってきてね。まだやること沢山あるんだから」

「わかった」

回れ右をして、トイレに向かう。
自分の素直な気持ち・・・・・ねぇ・・・・。
トイレを済ますと、一人廊下をとぼとぼ歩く。
まだ8時過ぎ。生徒の数もまばらだ。 まぶしいくらいの朝日が廊下を照らす。
その時だ。
向かいから歩いてくる人の影。 逆光で誰かわからない。

「玲」

聞き覚えのある声・・・・・秋だ。

「秋?何、どうしたの?」

「いや、ちょっと・・・・・」

二人とも黙ってしまった。沈黙を破ったのは秋だった。

「なぁ、びっくりした?」

「うん。少しだけ。でも、予想してたから」

「そっか・・・・・本当は玲にはちゃんと言っておこうと思ったんだけどな。ごめん。」

「ううん。いいよ。合格できると良いね。」

「うん、ありがとな」

「じゃあ、教室にもどろっか」

私は何となく二人でいたくなくて、足早に廊下を歩く。
本当は・・・・秋を見ているのが辛かった。
ううん、秋に見つめられるのが恐かった。
こんなの一度も無かったのに・・・・・どうして・・・?
教室へ戻ると、飾り付けが始まっていた。

「あ、玲。秋くん。手伝ってよー!」

「あ、ごめんごめん」

まあの呼ぶ方へ私と秋は向かう。
秋がイスと机を使って飾りの天井部分を付け始めた。
私は机をおさえながら、さっきのことを考えていた。

「玲、玲!」

「ん?何?」

「何じゃないよ。そこの飾り取って」

「あ、うん・・・・・・」

飾りを持って机の上に乗る。

「はい、これ・・・・」

私が飾りを渡そうと顔を上げると、至近距離に秋の顔。びっくりして顔が赤くなる。
高鳴り、早くなる鼓動。

「か・・・顔近づけるなよな」

「そ、そっちこそ!」

お互い顔が赤い。ケンカ口調になってしまう言葉。
鼓動は早いまま、人に聞こえるんじゃないかって思うくらい、音が聞こえる。
『静まれ鼓動!』何度も心に言い聞かせていた。
今日の私は変だ―・・・・こんなことを思いながら。


終業式が終わって、いよいよクリスマス会。
みんなの心はソワソワしている。会が始まるとみんなワイワイ騒ぎ始めた。
普段よりも友達としゃべったりして、楽しいひと時だった。
楽しい時間はあっという間で、もうそろそろ終盤に近づいていた。

「さて、そろそろ最後の楽しみがやってきました!これからプレゼント交換を始めたいと思いまーす!!」

まあの一言に皆いっせいに声を上げる。丸く囲んですわり、手元にプレゼントを持つ。音楽をかけると時計回りでプレゼントが回りはじめた。
だいたい一周半したあたりで音楽が止まった。
私が当たったのはコップ。まあはおやつセット。秋は写真たて。ユキは・・・・・りんごだった。
「おい、りんご持って来た奴誰だよー!!重いじゃんか!」と文句を言っていた。

「まぁ、いいじゃん。かぼちゃとか大根とかよりもましだと思うけど?」

まあの慰めのようで慰めで無い言葉にただ肩を落とすユキ。
そうして、クリスマス会は幕を閉じた。
久々に私とまあとユキと秋の4人で帰る。
校門を出て、まあとユキが前を歩き、私と秋が後ろを歩いていた。

「玲、実はこれ・・・・・」

そう言って秋が差し出したのは、お守り。学業成就のお守りだった。

「これ、私に?」

こくんとうなづく秋。

「ありがと。大事にするね」

「お互い合格しような」

「うん」

少し淋しい雰囲気が二人の間に漂う。私は沈黙が苦手だ。とても息苦しい。
何かしゃべらないと・・・・。

「あー!!沙世子!!」

まあが大きな声を上げて、沙世子の方へかけていく。

「沙世子・・・・?」

私は信じられないような顔をして、みんなの方へ駆け寄った。

「本当だ。津村だよー」

ユキも驚きながら沙世子に話しかけた。

「ひさしぶり、みんな」

久々に見る沙世子の笑顔。

「よぉ。」

「相変わらずね、関根くん」

「さ・・・・沙世子??」

私はその一言で精一杯だった。まだ頭の中がパニックになってる。

「なぁにー、その顔。幽霊でも見るような顔しちゃって。玲らしくもない。もっと嬉しそうな顔しなさいよ。」

くすっと笑いながら、沙世子は言葉を続けた。

「冬休みだし、受験勉強の息抜きにおばあちゃんの家に遊びに来たの。どぉ?驚いた?」

子供のような、それでいて少し悪魔の笑みをする沙世子。
みんなうんうんうなづく。

「玲、この後空いてる?」

「え?あ、うん。空いてるよ」

「じゃあ、玲借りてって良い?ちょっと話もしたいし」

そう言うと、沙世子はみんなを見た。

「いいよ。楽しんどいでよ。久々なんだしね」

「俺、おばさんに言っとくよ。津村なら問題ないだろ」

まあや秋たちに了解を得て、私と沙世子は3人を見送った。
だんだん3人の姿が小さくなる。

私と沙世子は沙世子の家に向かって歩き出した。
少し歩くと沙世子の家に到着。 鍵を開けて、中に入った。
中は真っ暗。ゆりえさんはいないらしい。

「先、二階に行ってて。お茶持ってくるから」

「うん。わかった」

言われるがままに、沙世子の部屋へ。
少し経ってから沙世子が紅茶とお菓子を持って入ってきた。

「まずは先に謝るわ。ずっと前に手紙貰ったのに、返事出せなくてごめん」

「え?あ、ううん。いいよ」

「すぐだそうとは思ったんだけどね、色々と忙しかったのと、冬休み入ってすぐにこっちに来れることになったから直接がいいかなと思ったから、ごめんね」

「ううん。沙世子に会えただけですごく嬉しい」

お菓子を食べながら、私は心の底からそう思った。

「そう言ってもらえると嬉しいわ。来た甲斐があるもの。では、本題に入りましょうか?」

「え?」

「とぼけないの。半分は玲のこと心配で来たんだから。さっきもいつもの玲の元気が全く無かったわよ。何?何があった訳?」

「わ・・・・わかった。話すよ」

沙世子の勢いに押され、渋々話す羽目になった。
今日の朝からのことを全部しゃべった。沙世子は黙って私の話を聞く。

「・・・・・ということなんだけど・・・・」

やっとのことで全部話した。

「何だ。玲、もう答えが出てるじゃない」

「は?」

あっけらかんとして言う沙世子。
私は拍子抜けして、口をぽかーんと開けたまま閉じるのをすっかり忘れていた。

「ばかね。自分じゃ気づいてないかもしれないけれど、玲は秋くんに恋してるのよ」

「え?えー!?私が?秋に?」

「何そんなに驚いてるのよ。自分の気持ちに素直になりなよ。玲は玲らしく・・・・ね?」

沙世子は紅茶を飲みながら続けて言う。

「まあは由紀夫くんで、玲は秋くんかぁ・・・。うん、私の予想通りね」

「そうなの?」

「うん。何となくそう思ってた」

「ふーん・・・・・」

私は秋のこと・・・・好き・・・・なのかぁ・・・。
今まで一番近くにいたから気づかなかった・・・。
改めて考えると何だか照れくさい。
それから私達はいろいろと話をした。
友達の話とか、勉強のこと、とにかく手紙に書ききれなかったこと全部。
話をしていたら時間を忘れて、もう時計は9時をまわっていた。

「いけない!帰らないと」

「ごめんね。引き留めちゃって」

「ううん。いいよ。久々に会えたんだもん」

玄関で靴を履きながら、慌てて用意をする。

「まだこっちにいるんでしょ?」

「うん。あと2日くらい」

「じゃあ、また明日行くね」

「うん、じゃあまた明日」

「うん。ばいばい」

靴を履き終えた私は振り返り、そしていつものように2人ぐーにした手をぶつけた。

「じゃあね!」

そう言うと、私は沙世子の家を後にした。


空にはまあるい月が明るく照らす。
私の心の中では、もう迷いはなかった。
私は秋が好き―・・・・・・。
そう思ったら早く秋の顔が見たくなって、寒い夜道を勢いよく走った。
そろそろ家の前にさしかかった時、人影が見えた。
秋―・・・・だった。

「秋!!」

私はのんきに手を振りながら秋の元へ走る。
秋の前に来ると、秋はいきなり怒鳴った。

「玲!電話の一本くらいしろよ!!道の途中で何かあったんじゃないかって、心配したんだぞ。」

「ご・・・・ごめん・・・・」

私は急に小さくなった。
会った早々怒られるとは思ってもみなかった。

「ったく。津村の家にいることくらいわかってたけど、こんなに遅くなるなんて聞いてないし、本当どれだけ心配・・・・・」

秋の話を遮って、私は秋に抱きついた。

「玲?」

「ごめんね。秋」

「バカ。俺に言うセリフじゃないだろ」

「ねぇ、秋。本っ当に私のこと心配してくれた?」

「ああ・・・もちろん。」

照れているのかわからないけれど、少し口ごもった口調。

「ありがと。私ね、秋のこと大好きだよ」

自分でも信じられないくらい、素直に口から出た。
自分の気持ち・・・・・。

「え・・・・」

「秋が去年、『守ってくれなくてもいい』って言ってたでしょ。あの時ね、秋が私から離れて行っちゃうって思った。そう思ったらすごく不安になって・・・・。秋が遠くの高校に行くことも予想してた。私すごく焦ってたの。秋にどんどん置いていかれること。・・・・・離れたくないって思った」

秋は少し沈黙した後、話し始めた。

「サヨコの時、俺は玲においていかれるって思った。玲がいて、初めて俺は俺でいられる気がした。その時からだよ、玲のこと大事だって思えたのは」

いつも通り静かな口調でしゃべる秋。

「秋・・・・・」

私は嬉しくて、これ以上言葉にならなかった。
寒い夜空にまるい月が微笑んでるようにも見えた。
改めて、私は思う。
秋を失いたくない―・・・・・・と。



翌日、私達は約束どおり沙世子の家を訪れ、昨日のことを沙世子に報告した。
「やっぱりねー」 と、沙世子はうなづいていた。
私のカンは当たってたかぁとも呟いていた。

「あとはまあと由紀夫くんよね」

沙世子はクッキーを食べながら、ポツリと言った。

「それなら大丈夫だと思うよ」

秋は紅茶を飲み干すと、そう言ったのだった。

「何で?」

「この間、ユキがまあのことで相談しに来たから」

「本当?じゃあ、まあとユキは・・・・」

「大丈夫」

お互いに笑い合う。
今ごろまあとユキはくしゃみしてるに違いない。
私は心の中でそんなことを思っていた。
それから沙世子は両親のもとへ戻り、私達は短い冬休みを明け、受験をした。
見事まあとユキと私は西浜高校に合格。秋も無事第一希望の高校へ。溝口も加トも合格した。
そして数日後、沙世子から見事第一希望の高校に合格したことを電話で知らせてくれた。

あっという間に卒業式を迎えた。
卒業式を終え、私と秋は屋上で二人でしゃべっていた。

「今ごろまあがユキに告白してる頃だね」

「そうだな」

3月とは思えない暖かい日差し。
ぽかぽかな陽気と同じくらい、私の心ものほほんとしていた。

「玲、これ」

そう言って秋が差し出したのは、制服のボタン。第二ボタンだった。

「いいの?」

「玲だからあげたいの」

秋は私の手のひらにボタンを置く。

「ありがとう、秋」

「本命にしかあげないんだろ?第二ボタンって」

「うん!!」

私は元気良く返事をした。

「あー!!見つけた!玲!秋くん!」

ドアの方からまあの声。後ろにはユキがいた。

「まあ!おめでとー!」

「ありがとう!!」

私とまあは肩で抱き合い、笑う。
横には秋とユキがやれやれ・・・・・といった顔で見ていた。


この中学で起こったこと全て、一生忘れることはないだろう。
かけがえのない一生の友達や恋人に囲まれて過ごした中学時代を、サヨコ伝説を、いつまでも。
そして心の中に刻まれた、この大切な時を・・・・・。





*あとがき*
私の六サヨの処女作です。この私の書く玲ってなんでこんなに情けないんだろう…。
泣き虫玲ですねぇ。(私も泣きたい)
でもこの作品やっぱり頑張って書いただけあって、一応気に入っています。
テーマは「受験」ですかね??難しかったです。
玲ってオリキャラですからね。原作には出てこない分、とても使いやすくて好きです。
私の書く秋はおとなしい系ですね〜。
いや、常に傍観者的なところあるからある程度はそうなっちゃうのかなぁ??
何はともあれ読んで下さってありがとうございました。